163 / 179
第4部:政権奪取 - 総理就任
第163話 対立候補との公開討論
しおりを挟む
公開討論会当日テレビ局の正面玄関前
には、朝から異様な熱気が漂っていた。
赤い回転灯を点けた中継車、慌ただしく行き交うスタッフ、そしてマイクを構えた記者たち。
誰もが今日の討論会を「異例」と形容していた。
――新人議員・坂本健人。
――対するは、過去に複数回大臣を務めた党の重鎮。
経験と実績の塊のような人物と、国会に入ってまだ日が浅い男。
その二人が、党総裁選を前にして公開討論の場に立つ。
それ自体が、すでに前例のない出来事だった。
健人は控室のソファに腰掛け、静かにネクタイを整えていた。
鏡越しに見る自分の顔は、少し硬い。だが逃げたいとは思わなかった。
「緊張してるか?」
隣に立った田島が、いつもの調子で声をかける。
健人は小さく息を吐き、正直に答えた。
「してないって言ったら嘘になるな。でも……」
「でも?」
「ここまで来たら、やるしかないだろ」
田島はニッと笑った。「それでいい。どうせ相手は肩書きの塊だ。言葉で殴れ」
少し離れた場所で、真田が静かに資料を閉じた。
そして健人に視線を向け、短く言った。
「政策の細部で勝とうとしなくていい。
今日見せるべきなのは、“この国をどう変えたいか”です」
健人は頷いた。
この数日、何度も頭の中で繰り返してきた言葉がある。
――経験では勝てない。
――でも、覚悟なら譲れない。
呼び出しの合図が鳴り、二人はスタジオへ向かった。
*
照明に照らされたスタジオは、想像以上に広く、そして静かだった。
円形に配置された討論席。正面にはカメラがずらりと並び、その向こうには観客席がある。
すでに対立候補は席に着いていた。
白髪交じりの髪、落ち着いた表情。
この男が、長年この国の中枢に居続けた人物だということは、一目で分かる。
健人が席に着くと、候補者同士が軽く会釈を交わした。
その目は穏やかだったが、どこか測るような色を帯びていた。
司会者が討論開始を告げる。
「本日のテーマは、『次の日本に必要なリーダー像』です」
先攻はベテラン候補だった。
「国家運営というものは、理想だけでは成り立ちません」
低く、よく通る声。
場慣れした話し方で、淡々と言葉を積み重ねていく。
「外交、財政、安全保障。どれ一つ取っても、経験の積み重ねがものを言う世界です。
改革は必要でしょう。しかし、舵を切る者には、荒波を知る力が求められます」
観客席から、納得するような頷きが見えた。
健人はその様子を見つめながら、静かに順番を待った。
司会者が振る。
「坂本議員、いかがでしょう」
健人は一瞬、言葉を置いた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「私は、経験が不要だとは思っていません」
スタジオが静まる。
「ただ――“うまくやってきた政治”が、今の日本を作ったのも事実です」
視線を正面に向け、言葉を続けた。
「子どもが貧困に直面し、医療が届かない地域があり、若者が未来を描けない。
それを“現実だから仕方ない”で片付けてきた結果が、今だと思っています」
ベテラン候補が、わずかに眉を動かした。
「だから私は、経験の浅さを承知で立っています。
変えられなかった現実を、変える側に回るために」
次のテーマは財政だった。
ベテラン候補は、数字を示しながら冷静に語る。
「財源には限りがある。理想を実現するには、現実的な優先順位が必要です」
健人は頷いた。
「同意します。だからこそ、私は“何に使うか”を徹底的に見直したい」
カメラをまっすぐ見据える。
「お金は目的じゃない。人を守るための手段です。
守れない数字なら、変えるのが政治だと私は思っています」
スタジオの空気が、少し変わった。
観客席の何人かが、前のめりになる。
討論は続いた。
外交、少子化、安全保障。
ベテラン候補は終始、理路整然とした答弁を崩さない。
だが、子ども政策の話題になった時、健人の言葉に熱が宿った。
「私は、子ども食堂が増えたことを“良いこと”だとは思っていません」
一瞬、ざわめきが走る。
「必要だから増えた。それ自体が、社会の歪みです。
本来、子どもは“支援される存在”じゃなく、守られて当たり前の存在なんです」
健人の声は震えていなかった。
静かだが、強い。
「その当たり前を取り戻すために、私は政治をしています」
ベテラン候補が言葉を挟む。
「それは感情論では?」
健人は首を振った。
「感情じゃありません。現場です。
現場を見てきたから、言っています」
沈黙。
そして、観客席から自然と拍手が起きた。
司会者が慌てて制止するほどの、短くも確かな拍手だった。
討論終了の合図が鳴る。
二人は席を立ち、再び会釈を交わした。
ベテラン候補は、健人を見て小さく言った。
「……面白い若者だ」
それが評価なのか、牽制なのかは分からない。
だが、最初の軽さは消えていた。
*
控室に戻った健人は、椅子に深く腰を下ろした。
全身から力が抜ける。
「……終わったな」
田島が肩を叩く。「ああ。でも、ちゃんと立ってた」
真田も静かに頷いた。
「勝ち負けではありません。
今日、同じ土俵に立てた。それが何よりです」
スマホには、すでに大量の通知が届いていた。
SNSでは、勝敗よりも、健人の言葉そのものが切り取られて拡散されている。
健人は画面を伏せ、静かに目を閉じた。
「……やっと、ここからだな」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
”経験は、過去の積み重ねだ。
だが、覚悟は未来への決断だ。
俺はまだ若い。
だからこそ、
この国のこれからを語る資格がある“
には、朝から異様な熱気が漂っていた。
赤い回転灯を点けた中継車、慌ただしく行き交うスタッフ、そしてマイクを構えた記者たち。
誰もが今日の討論会を「異例」と形容していた。
――新人議員・坂本健人。
――対するは、過去に複数回大臣を務めた党の重鎮。
経験と実績の塊のような人物と、国会に入ってまだ日が浅い男。
その二人が、党総裁選を前にして公開討論の場に立つ。
それ自体が、すでに前例のない出来事だった。
健人は控室のソファに腰掛け、静かにネクタイを整えていた。
鏡越しに見る自分の顔は、少し硬い。だが逃げたいとは思わなかった。
「緊張してるか?」
隣に立った田島が、いつもの調子で声をかける。
健人は小さく息を吐き、正直に答えた。
「してないって言ったら嘘になるな。でも……」
「でも?」
「ここまで来たら、やるしかないだろ」
田島はニッと笑った。「それでいい。どうせ相手は肩書きの塊だ。言葉で殴れ」
少し離れた場所で、真田が静かに資料を閉じた。
そして健人に視線を向け、短く言った。
「政策の細部で勝とうとしなくていい。
今日見せるべきなのは、“この国をどう変えたいか”です」
健人は頷いた。
この数日、何度も頭の中で繰り返してきた言葉がある。
――経験では勝てない。
――でも、覚悟なら譲れない。
呼び出しの合図が鳴り、二人はスタジオへ向かった。
*
照明に照らされたスタジオは、想像以上に広く、そして静かだった。
円形に配置された討論席。正面にはカメラがずらりと並び、その向こうには観客席がある。
すでに対立候補は席に着いていた。
白髪交じりの髪、落ち着いた表情。
この男が、長年この国の中枢に居続けた人物だということは、一目で分かる。
健人が席に着くと、候補者同士が軽く会釈を交わした。
その目は穏やかだったが、どこか測るような色を帯びていた。
司会者が討論開始を告げる。
「本日のテーマは、『次の日本に必要なリーダー像』です」
先攻はベテラン候補だった。
「国家運営というものは、理想だけでは成り立ちません」
低く、よく通る声。
場慣れした話し方で、淡々と言葉を積み重ねていく。
「外交、財政、安全保障。どれ一つ取っても、経験の積み重ねがものを言う世界です。
改革は必要でしょう。しかし、舵を切る者には、荒波を知る力が求められます」
観客席から、納得するような頷きが見えた。
健人はその様子を見つめながら、静かに順番を待った。
司会者が振る。
「坂本議員、いかがでしょう」
健人は一瞬、言葉を置いた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「私は、経験が不要だとは思っていません」
スタジオが静まる。
「ただ――“うまくやってきた政治”が、今の日本を作ったのも事実です」
視線を正面に向け、言葉を続けた。
「子どもが貧困に直面し、医療が届かない地域があり、若者が未来を描けない。
それを“現実だから仕方ない”で片付けてきた結果が、今だと思っています」
ベテラン候補が、わずかに眉を動かした。
「だから私は、経験の浅さを承知で立っています。
変えられなかった現実を、変える側に回るために」
次のテーマは財政だった。
ベテラン候補は、数字を示しながら冷静に語る。
「財源には限りがある。理想を実現するには、現実的な優先順位が必要です」
健人は頷いた。
「同意します。だからこそ、私は“何に使うか”を徹底的に見直したい」
カメラをまっすぐ見据える。
「お金は目的じゃない。人を守るための手段です。
守れない数字なら、変えるのが政治だと私は思っています」
スタジオの空気が、少し変わった。
観客席の何人かが、前のめりになる。
討論は続いた。
外交、少子化、安全保障。
ベテラン候補は終始、理路整然とした答弁を崩さない。
だが、子ども政策の話題になった時、健人の言葉に熱が宿った。
「私は、子ども食堂が増えたことを“良いこと”だとは思っていません」
一瞬、ざわめきが走る。
「必要だから増えた。それ自体が、社会の歪みです。
本来、子どもは“支援される存在”じゃなく、守られて当たり前の存在なんです」
健人の声は震えていなかった。
静かだが、強い。
「その当たり前を取り戻すために、私は政治をしています」
ベテラン候補が言葉を挟む。
「それは感情論では?」
健人は首を振った。
「感情じゃありません。現場です。
現場を見てきたから、言っています」
沈黙。
そして、観客席から自然と拍手が起きた。
司会者が慌てて制止するほどの、短くも確かな拍手だった。
討論終了の合図が鳴る。
二人は席を立ち、再び会釈を交わした。
ベテラン候補は、健人を見て小さく言った。
「……面白い若者だ」
それが評価なのか、牽制なのかは分からない。
だが、最初の軽さは消えていた。
*
控室に戻った健人は、椅子に深く腰を下ろした。
全身から力が抜ける。
「……終わったな」
田島が肩を叩く。「ああ。でも、ちゃんと立ってた」
真田も静かに頷いた。
「勝ち負けではありません。
今日、同じ土俵に立てた。それが何よりです」
スマホには、すでに大量の通知が届いていた。
SNSでは、勝敗よりも、健人の言葉そのものが切り取られて拡散されている。
健人は画面を伏せ、静かに目を閉じた。
「……やっと、ここからだな」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
”経験は、過去の積み重ねだ。
だが、覚悟は未来への決断だ。
俺はまだ若い。
だからこそ、
この国のこれからを語る資格がある“
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる