『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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日常編

第62話「鬼人族には豆注意」

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カラン――。
 寒風と共に、背の高い青年が店に入ってきた。額には短い角が二本。鍛えられた体躯の鬼人族だ。

 店内では節分フェアの真っ最中。レジ横には炒り豆や豆菓子、恵方巻きの予約ポスターが並んでいる。
 ニナは棚を整理していたが、鬼人族が豆菓子を手に取る姿に少し不安を覚えた。
 「……それ、何の豆だ?」
 袋の中の炒り豆をしげしげと眺める青年に、レンが答える。
 「節分という行事で使う豆です。鬼を追い払うためにまくんですよ」
 「……鬼を、追い払う……?」青年は固まった。「それって……俺、追い払われる側じゃないか!」
 ニナは慌てて両手を振る。「いえいえ! これは行事の象徴みたいなもので、普通に食べても美味しいんです!」
 「ふむ……じゃあ、逆に俺が食べれば、追い払われずに済むのか」妙な結論にたどり着き、青年は豆菓子を二袋カゴに入れた。

 ふと、彼の視線が予約ポスターに移る。
 「……この“恵方巻き”って何だ?」
 「その年の“恵方”と呼ばれる方角を向いて、無言で一本食べきると願いが叶うと言われています。今年は南南東ですよ」レンが説明する。
 青年は真剣に店内を見渡し、「じゃあこの店だと……あっちの非常口の方角か」と指差した。
 「そこで立って食べるのか?」
 ニナは笑いをこらえきれず、「別に店内でやらなくても……」とつぶやく。

 「まぁいい。やるからには正しい向きでやる」青年は予約用紙を手に取り、豆菓子の横に恵方巻きの名前を書き込んだ。
 「南南東に向かって無言で一本……余裕だな」

 会計時、レンが「ナイポはお持ちですか?」と尋ねると、青年は首を横に振る。
 「じゃあ作りますか? 豆も恵方巻きもポイント対象ですよ」
 「じゃあ作る。どうせならポイントで次は肉でももらう」
 手続きを終え、青年は袋を受け取ると出口の前でくるりと振り返った。
 「節分の日、この店の南南東に立って食べるからな」
 レンとニナは顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。

 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
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