『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

日常編

第63話「レンへのお見舞い」

深夜零時を回ったミッドナイトマート。
　いつもならカウンターの奥にはレンの笑顔があるはずだが、今日は代わりに柏木オーナーが立っていた。

　「いらっしゃいませ」
　最初にやって来たのは、鎧姿の常連騎士だった。カウンターを見て眉をひそめる。
　「……レンは？」
　「今日は体調を崩してお休みです」柏木が説明すると、騎士は少し心配そうにうなずいた。
　「なら、これを渡してくれ」そう言って、スポーツドリンクを数本カゴに入れる。

　次に来たのは魔法使いの少女。
　「レンさんいないんですか？」
　「ちょっと風邪気味みたいでね」
　少女は少し考えてから、栄養ドリンクと甘いゼリーを手に取った。
　「これならすぐ食べられるし、魔力回復にもいいですよ」

　さらに、野菜好きのリザードマンや、肉好きのエルフまで立て続けに来店。
　「体力つけなきゃダメだ」と温かいスープ缶を買うリザードマン。
　「甘い物も必要よ」とチョコレートを選ぶエルフ。
　二人とも柏木に「レンに渡してやってくれ」と手渡して帰っていった。

　店の奥ではニナが接客の合間にそっと柏木へ話しかけた。
　「……なんだか、レンさんって本当にみんなに愛されてるんですね」
　柏木は、カウンターの後ろに積まれていく差し入れの袋を見て、頬を緩める。
　「そうだな。あいつは異世界のお客さんたちにも自然と好かれる。不思議なやつだよ」

　最後に現れたのは、いつも寡黙な白髭の老人。
　何も言わず、栄養スープのパックと果物ゼリーをカゴに入れ、会計のときだけ小さく言った。
　「……早く元気になれとな」

　気づけば、カウンターの横には差し入れの山ができていた。
　柏木は、それを見て小さく笑う。
　「明日の朝、あいつの家まで届けてやるか」

　「ありがとうございました。またお越し下さいませ」