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裏切り者
裏切り者③
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川向こうの雪の深さが腰まで来た日のことだった。久しぶりに晴れ渡っていた。
廃城まで続く踏み慣らされた道をぞろぞろとやってくる一団に気がついたのは農夫のゴーダだった。畑に出て雪を除けて麦を踏み慣らしていたところに、一団が視界に入ってきて慌ててダグマの元へと報告にやってきた。ダグマと共に獣の皮を延ばして乾かしていたトニとニコラスが一斉に部屋から飛び出ていく。
「門を閉じろ! 弓を持て!」
報告に来ていたゴーダは少し前に説明を受けていた通り、門を締めに駆け出していく。同じようにカルロやマリオも自分たちの仕事を止めて門へと走っていった。
「なんなの?」
部屋から出てきたロセが険しい顔で皆の忙しい動きを目で追っていた。
「ああ、ロセ。遠目だがあの一団の中にリルが居るかどうかわかるか?」
ダグマが口にした名前にロセは驚きを隠せない。
「え? リル? あの、リルよね?」
石の手すりに駆け寄って手をつくと身を乗り出すようにして顔を見ようとしていた。
「金色の髪の男が馬に乗っているけど……顔まではわからないわ。でもなぜリル? アデリーを刺したのに戻ってこられる訳ないでしょ!」
そう言いながらもまだ目を凝らして一団を見ていた。なんせ踏み慣らされたといっても周りより少しばかり雪が浅いだけで、十分歩きにくいので、歩みが遅い。牛並み、いやそれより遅いと言っていい。
「普通はな」
ダグマはそう言い残すと自室へと引き返していった。そして次に姿を表した時には背に槍を担ぎ、手には弓を持っていた。
「その出で立ち……リルが引き連れているのは商隊ではないってことなの?」
ロセは思わぬ重装備に再び驚きの声を上げた。
「リルだったら、二度とこの地を踏ませない。たとえ商隊を引き連れていてもな」
ロセはうなずいて「そうね」と、同調した。
宿から男たちが弓を持ってダグマのもとへと駆け上がって来たのでロセは空気を読んで「私は下の階に行くわ。やっておくべきことを言って」と、ダグマを見つめた。
「アデリーをここに来るように告げ、女たちには厨房で待機しろ。あ、ベニートもな」
「わかったわ」
ロセは返事をしてから今一度向かってくる一行を見るために目を凝らし身を乗り出していたが、諦めて駆けていった。
「力ずくでアデリーを取りに来たわけではなさそうだな」
隣に来たニコラスが一行の装備を確認してダグマに言う。遠いが鎧は着けておらず、ロセが商隊だと思ったように、一見するとそうにしか見えない。
「あんなの商隊なわけがない」
身なりが良いのはリルと思しき馬上の男、そしてもう一人馬に乗っている男くらいだ。他は傭兵だろう。そもそもこの雪の中商隊がウロウロとしているのもおかしなことだ。
「なんて言って来るのか楽しみだな」
トニが言うと「思いのほか雪が深くてまずいから泊めてくれって感じか?」と、ニコラスが情けない声を出して演じて返していた。
「リルが率いているならそもそもそんな茶番はやらんだろうよ。さて、ニコラスとトニは俺と共に来い。残りはここで弓を構えろ」
一度は解散した部隊だったが、ダグマの号令を聞くとすぐにピリッと皆の動きに反映され、無言で各々配置についた。ここのところ、夜に集まっては多くのシミュレーションをしてきたのが功を奏し、誰一人まごつくこともなかった。
「ダグマさん! どうしたんですか!」
駆けてきたアデリーにダグマが足を止めた。
「リルが戻ってきたかもしれん」
アデリーも走るのを止めて立ち止まった。
「リルが? え、なぜ……」
顔を歪ませ、無意識にアデリーは刺された箇所を押さえていた。
「予想はついてるが、仮説にすぎん。本人が来ているなら本人に聞こうじゃないか」
アデリーは不安そうに門を閉じ終えて厨房へと向かう男たちの姿を目で追っていた。
「門を閉じたのですね。皆が厨房に集まっているのはなぜ」
そこまで言うと弾かれたように上の階にいる男たちを見上げた。太陽の光に重なり眩しくてアデリーは手で光を遮る。
「皆さん、弓を持っているのよ」
それにはニコラスが自分の弓を見せて「ここいらで皆カッコイイ姿を見せたいんだよ。しょぼくれた騎士なんて、まるで面白味もないもんな」と、笑った。
「特にニコラスは騎士の面影がゼロだしな」
トニがニコラスをおちょくると、ニコラスはフンと鼻を鳴らしていた。ダグマは二人の会話を横目にアデリーの肩に手を置いた。
「アデリー。これは用心のためにやっているんであって、いきなり戦おうとか、そんなんじゃない。心配するな。いざ戦いとなれば我々が勝利する確信はあるが、無駄な死傷者は本意ではないからな」
「はい。……私は何をしたらいいのでしょう」
ダグマはアデリーを見つめてからニコラスとトニと視線を交わした。
「何もしなくていい。ただ、生きていてくれたらそれで良いんだ。ただ、当事者だから呼んだだけだ。近くに居るといい」
廃城まで続く踏み慣らされた道をぞろぞろとやってくる一団に気がついたのは農夫のゴーダだった。畑に出て雪を除けて麦を踏み慣らしていたところに、一団が視界に入ってきて慌ててダグマの元へと報告にやってきた。ダグマと共に獣の皮を延ばして乾かしていたトニとニコラスが一斉に部屋から飛び出ていく。
「門を閉じろ! 弓を持て!」
報告に来ていたゴーダは少し前に説明を受けていた通り、門を締めに駆け出していく。同じようにカルロやマリオも自分たちの仕事を止めて門へと走っていった。
「なんなの?」
部屋から出てきたロセが険しい顔で皆の忙しい動きを目で追っていた。
「ああ、ロセ。遠目だがあの一団の中にリルが居るかどうかわかるか?」
ダグマが口にした名前にロセは驚きを隠せない。
「え? リル? あの、リルよね?」
石の手すりに駆け寄って手をつくと身を乗り出すようにして顔を見ようとしていた。
「金色の髪の男が馬に乗っているけど……顔まではわからないわ。でもなぜリル? アデリーを刺したのに戻ってこられる訳ないでしょ!」
そう言いながらもまだ目を凝らして一団を見ていた。なんせ踏み慣らされたといっても周りより少しばかり雪が浅いだけで、十分歩きにくいので、歩みが遅い。牛並み、いやそれより遅いと言っていい。
「普通はな」
ダグマはそう言い残すと自室へと引き返していった。そして次に姿を表した時には背に槍を担ぎ、手には弓を持っていた。
「その出で立ち……リルが引き連れているのは商隊ではないってことなの?」
ロセは思わぬ重装備に再び驚きの声を上げた。
「リルだったら、二度とこの地を踏ませない。たとえ商隊を引き連れていてもな」
ロセはうなずいて「そうね」と、同調した。
宿から男たちが弓を持ってダグマのもとへと駆け上がって来たのでロセは空気を読んで「私は下の階に行くわ。やっておくべきことを言って」と、ダグマを見つめた。
「アデリーをここに来るように告げ、女たちには厨房で待機しろ。あ、ベニートもな」
「わかったわ」
ロセは返事をしてから今一度向かってくる一行を見るために目を凝らし身を乗り出していたが、諦めて駆けていった。
「力ずくでアデリーを取りに来たわけではなさそうだな」
隣に来たニコラスが一行の装備を確認してダグマに言う。遠いが鎧は着けておらず、ロセが商隊だと思ったように、一見するとそうにしか見えない。
「あんなの商隊なわけがない」
身なりが良いのはリルと思しき馬上の男、そしてもう一人馬に乗っている男くらいだ。他は傭兵だろう。そもそもこの雪の中商隊がウロウロとしているのもおかしなことだ。
「なんて言って来るのか楽しみだな」
トニが言うと「思いのほか雪が深くてまずいから泊めてくれって感じか?」と、ニコラスが情けない声を出して演じて返していた。
「リルが率いているならそもそもそんな茶番はやらんだろうよ。さて、ニコラスとトニは俺と共に来い。残りはここで弓を構えろ」
一度は解散した部隊だったが、ダグマの号令を聞くとすぐにピリッと皆の動きに反映され、無言で各々配置についた。ここのところ、夜に集まっては多くのシミュレーションをしてきたのが功を奏し、誰一人まごつくこともなかった。
「ダグマさん! どうしたんですか!」
駆けてきたアデリーにダグマが足を止めた。
「リルが戻ってきたかもしれん」
アデリーも走るのを止めて立ち止まった。
「リルが? え、なぜ……」
顔を歪ませ、無意識にアデリーは刺された箇所を押さえていた。
「予想はついてるが、仮説にすぎん。本人が来ているなら本人に聞こうじゃないか」
アデリーは不安そうに門を閉じ終えて厨房へと向かう男たちの姿を目で追っていた。
「門を閉じたのですね。皆が厨房に集まっているのはなぜ」
そこまで言うと弾かれたように上の階にいる男たちを見上げた。太陽の光に重なり眩しくてアデリーは手で光を遮る。
「皆さん、弓を持っているのよ」
それにはニコラスが自分の弓を見せて「ここいらで皆カッコイイ姿を見せたいんだよ。しょぼくれた騎士なんて、まるで面白味もないもんな」と、笑った。
「特にニコラスは騎士の面影がゼロだしな」
トニがニコラスをおちょくると、ニコラスはフンと鼻を鳴らしていた。ダグマは二人の会話を横目にアデリーの肩に手を置いた。
「アデリー。これは用心のためにやっているんであって、いきなり戦おうとか、そんなんじゃない。心配するな。いざ戦いとなれば我々が勝利する確信はあるが、無駄な死傷者は本意ではないからな」
「はい。……私は何をしたらいいのでしょう」
ダグマはアデリーを見つめてからニコラスとトニと視線を交わした。
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