91 / 99
裏切り者
裏切り者④
しおりを挟む
いよいよ一行が門の前までたどり着き、開門してほしいと要求する声が届いた。近くに来ると従者の風貌がどう見ても荒くれ者にややいい服を着せただけの張りぼて状態だった。
「何の用だ!」
トニが声を張って追い返すと、相手もまた大声で「親書を持ってきた」と伝えてきた。
トニがダグマの方を向き出方を伺ったが、ダグマは首を振ってみせた。それでトニは再び声を張り上げる。
「そのようなものを受け取るつもりはない。そのまま引き返すがいい」
アデリーは顔をこわばらせたまま、成り行きを見守っていた。ニコラスはそんなアデリーの肩を抱いて「緊張することないよ。ここに居たくないなら厨房に行っているかい?」と気を使ってくれた。
「いいえ、ここにいます。親書に何が書いてあるのか確認したほうがいいのではないですか?」
アデリーの問いにダグマが振り向き「ろくな事が書いてないだろうから、読む必要なんてないさ」と返した。
しばらくすると雪を踏むザクザクという音の後に、門の近くで聞き慣れた声がした。
「ダグマ、リルです。なぜ門を開けないのですか」
久しぶりに聞くリルの声にアデリーはゾワッと寒気が走っていった。嫌な記憶が思い出され鳥肌まで立っていた。そんなアデリーを元気づけるためにニコラスは抱いていた肩をそっと揺すった。
「お前はなぜそんなにも普通に戻ってきている。ここに居る全員がお前の犯した罪を知っていると言うのに」
ダグマの低く呻くような声での呆れた返事にリルはまるで動じることなく返してきた。
「ああ、あれはアデリーが襲ってきたから自己防衛ですよ」
我が耳を疑った。リルは息を吐くように嘘をつけるらしい。白々しい嘘を平気で言える神経にも驚かされていた。しかもアデリーがその場に居るかどうかわからなくても、廃城に居るのは知っているはずだ。
「はっ! それを信じろと言うのか。ロセという証人が居るんだぞ?」
「ロセ? ああ、ロセは俺が相手にしなかったから根に持ってて誰彼かまわず俺の悪口を言いふらすから」
聞いていてアデリーはなんだか吐きそうになってきた。こんな不可解な人間と一緒に生活してきたのかと思うと、恐ろしくて仕方がない。まるで悪魔だ。
「そうかい、そうかい。もう戯言なんか聞きたくない。早く引き返すがいい。雪が降ったら身動き取れんぞ。助けて貰えると思うなよ」
ダグマの意見にまるっきり同意だ。他の人のことはおいておくにしても、リルにはこの廃城に一歩たりとも入ってほしくない。そもそも、自分を斬りつけた相手に情けなどかけたくなかった。他人に優しくという神の意思に背くことになろうとも、それがアデリーの本音だった。
「やだな……こんな小さなとこなのに傭兵なんて雇って。大げさ過ぎる。とりあえず親書を門に挟んでおくよ。雪が降ると困るから慈悲深い近くの村まで撤退する。返事を考えておいてくれ、また来るからさ」
リルはダグマの呼び寄せた元近衛騎士団の事を知らない。だから傭兵を雇ったのだと思ったようだった。
「いいや。二度と来なくていい」
「そういうわけにはいかないんだよ。俺はれっきとした使者なんで。俺を追い払ったことを報告したら、こんなところ直ぐに制圧されちまうよ? これはあんたらに俺が情けをかけてるんだ。良く考えて話したほうが身のためだ」
話の流れで初めてリルの言葉に興味を持った。リルは誰に追い返されたことを報告するというのだろうか。そもそも誰からの親書なのか。
「ご忠告痛み入る。俺からも忠告しよう。農夫のゴーダがいうことには今夜から暫く吹雪だ。早く行かなきゃ雪の彫刻になるぞ」
農夫のゴーダはよく天気を予想し、的中させている。これは廃城にとってかなり有益なことだった。天候が荒れる前に教えてもらえれば備えられるのだから。
「はいはい、帰るさ。せいぜい色々案を模索するといい。答えは自ずと一つに絞られるだろうけど」
リルは終始強気な物言いをしていた。どうやら、彼に自信を与えている何かがあるらしい。一つは率いている一団だろう。リル一人だった時は少なくともこんな風にダグマに盾突くような言い方はしなかった。リルという人間は嘘を平気でつき、味方に力があるものがいると大きく出る最低な人格らしい。嫌なことがあってここを出ていったわけだが、今となっては出ていってくれて心底良かったとアデリーは考えていた。
「何の用だ!」
トニが声を張って追い返すと、相手もまた大声で「親書を持ってきた」と伝えてきた。
トニがダグマの方を向き出方を伺ったが、ダグマは首を振ってみせた。それでトニは再び声を張り上げる。
「そのようなものを受け取るつもりはない。そのまま引き返すがいい」
アデリーは顔をこわばらせたまま、成り行きを見守っていた。ニコラスはそんなアデリーの肩を抱いて「緊張することないよ。ここに居たくないなら厨房に行っているかい?」と気を使ってくれた。
「いいえ、ここにいます。親書に何が書いてあるのか確認したほうがいいのではないですか?」
アデリーの問いにダグマが振り向き「ろくな事が書いてないだろうから、読む必要なんてないさ」と返した。
しばらくすると雪を踏むザクザクという音の後に、門の近くで聞き慣れた声がした。
「ダグマ、リルです。なぜ門を開けないのですか」
久しぶりに聞くリルの声にアデリーはゾワッと寒気が走っていった。嫌な記憶が思い出され鳥肌まで立っていた。そんなアデリーを元気づけるためにニコラスは抱いていた肩をそっと揺すった。
「お前はなぜそんなにも普通に戻ってきている。ここに居る全員がお前の犯した罪を知っていると言うのに」
ダグマの低く呻くような声での呆れた返事にリルはまるで動じることなく返してきた。
「ああ、あれはアデリーが襲ってきたから自己防衛ですよ」
我が耳を疑った。リルは息を吐くように嘘をつけるらしい。白々しい嘘を平気で言える神経にも驚かされていた。しかもアデリーがその場に居るかどうかわからなくても、廃城に居るのは知っているはずだ。
「はっ! それを信じろと言うのか。ロセという証人が居るんだぞ?」
「ロセ? ああ、ロセは俺が相手にしなかったから根に持ってて誰彼かまわず俺の悪口を言いふらすから」
聞いていてアデリーはなんだか吐きそうになってきた。こんな不可解な人間と一緒に生活してきたのかと思うと、恐ろしくて仕方がない。まるで悪魔だ。
「そうかい、そうかい。もう戯言なんか聞きたくない。早く引き返すがいい。雪が降ったら身動き取れんぞ。助けて貰えると思うなよ」
ダグマの意見にまるっきり同意だ。他の人のことはおいておくにしても、リルにはこの廃城に一歩たりとも入ってほしくない。そもそも、自分を斬りつけた相手に情けなどかけたくなかった。他人に優しくという神の意思に背くことになろうとも、それがアデリーの本音だった。
「やだな……こんな小さなとこなのに傭兵なんて雇って。大げさ過ぎる。とりあえず親書を門に挟んでおくよ。雪が降ると困るから慈悲深い近くの村まで撤退する。返事を考えておいてくれ、また来るからさ」
リルはダグマの呼び寄せた元近衛騎士団の事を知らない。だから傭兵を雇ったのだと思ったようだった。
「いいや。二度と来なくていい」
「そういうわけにはいかないんだよ。俺はれっきとした使者なんで。俺を追い払ったことを報告したら、こんなところ直ぐに制圧されちまうよ? これはあんたらに俺が情けをかけてるんだ。良く考えて話したほうが身のためだ」
話の流れで初めてリルの言葉に興味を持った。リルは誰に追い返されたことを報告するというのだろうか。そもそも誰からの親書なのか。
「ご忠告痛み入る。俺からも忠告しよう。農夫のゴーダがいうことには今夜から暫く吹雪だ。早く行かなきゃ雪の彫刻になるぞ」
農夫のゴーダはよく天気を予想し、的中させている。これは廃城にとってかなり有益なことだった。天候が荒れる前に教えてもらえれば備えられるのだから。
「はいはい、帰るさ。せいぜい色々案を模索するといい。答えは自ずと一つに絞られるだろうけど」
リルは終始強気な物言いをしていた。どうやら、彼に自信を与えている何かがあるらしい。一つは率いている一団だろう。リル一人だった時は少なくともこんな風にダグマに盾突くような言い方はしなかった。リルという人間は嘘を平気でつき、味方に力があるものがいると大きく出る最低な人格らしい。嫌なことがあってここを出ていったわけだが、今となっては出ていってくれて心底良かったとアデリーは考えていた。
20
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる