美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
40 / 131
そら豆のフリッターエビ塩掛け

そら豆のフリッターエビ塩掛け3

しおりを挟む
「木こりかぁ。そうなると木材の調達も薪の調達も安定するな。村はまだまだやらなきゃならんことがある」

 アリシャが頷くのを待って、レオは右後ろに位置する壊れた水車小屋を振り返った。

「あれが直せれば粉挽きは断然早くなるし、なんなら近隣の村から粉挽きに来るであろうから金がとれるようになるだろうよ」

 それにだ。と、振り返るのをやめて前を向いた。

「そうやって人が来れば宿屋にくる人も増える。泊まる者もおるだろう。泊まらずとも食事をとっていく者もおるだろう」

 確かボリスも水車小屋は直した方がいいと言っていた気がする。こうやって利点を挙げられると確かにそうだとアリシャも納得していた。

「そろそろ本格的に村の中でも物の売買を始める頃かもわからんな」

「お店を作るということでしょうか?」

「いや、それはまだ急がんでいい。互いに提供出来るものを無償提供しておっただろう? それをやめて、小麦粉なら一樽いくらと値をつけるのだ。それをアリシャが買い取り、作った料理に値段をつけて出す」

 そうなるとこれまでのようにてんさい糖を贅沢に使って何かを作るのは無理そうだ。アリシャにはそこまでの手持ちはないのだから。

「心配か? そこでな、私は宿屋に部屋を借りようと思うのだ。個室をな」

 一泊食事付きで二百銅貨だと事も無げにレオは言う。

「高いですね……」

「君の懐にいく金だぞ」

「え? 私に?」

「宿屋の主はアリシャだからな」

 確かに住んでいるのはアリシャだが、レオが住むようになるなら主はレオなのではないかと思った。率直にそう述べるとレオは低く柔らかい笑い声をあげた。

「私は客だな、どちらかと言えば。こうしようではないか。次の春まではアリシャも食料庫の食材をいくらでも使うがいい。ああ、すまん。私の薬と引き換えに手に入れた食材をだな」

 食料庫には豊富な食材が保存されているが、レオの物とドク一家の物が今は一緒くたになっている。穀物だけとってもどの樽がどちらの所有物かわからない状態だ。

「私にはレオさんの物なのか、ドクさん達のものなのかわかりませんが……」

「そうだな。今あるものは我らとて線引できん。これからあそこに入れるときは棚や場所をわけるとしよう」

 そこで暫し口を閉じて考えると、こうしようと提案する。

「新しく収納する野菜は適量ドクから買い取りなさい。これまであった食材はドクのも使って良いことにして、ドク一家もアリシャへの支払いは来春からでどうだろう?」

 どうだろうと聞いてくれるが、それは願ったり叶ったりだ。食材を貰えてそれを金に出来れば、来春からは自分で購入出来る。

「沢山お金を貯めさせていただきます!」

 勢い余って前のめりで宣言するが、レオは優しくそれは違うと否定する。

「お金が溜まったらシーツを買いなさい。そして冬までに宿屋らしくしておけば、もっと金が貯まるだろう。もし、春に食材のお金が貯められなくてもツケにしていい」

 確か、シーツは百五十銅貨だ。宿屋は一泊食事付きで八十銅貨なのだから、二回で元がとれる。

「そうですね! とにかくシーツを一つ買います。ああ、ベッドを作って取らわなきゃ」

「それは私が作ろう。なんて言ったって個室を春まではタダにして貰うのだからな。ジャンもまだ収入が得られないから食事代代わりに宿屋を整えるのを手伝ってもらえばいい」

 ジャンはかなり回復したとはいえ、足はずっと引き摺るとレオが話していた。それでやれるのだろうかと思ったのが伝わったようで「やれるだろう」と、レオは太鼓判を押す。

「鍛冶屋だから力もあるし、ゆっくりなら出来ると本人も言っておった。それにツケが貯まるのは皆嫌なものなのだから、働かしてやってくれ」

 アリシャにツケが貯まっているみたいな言い方だが、食材はアリシャの物ではないのだから──などと考えだすとややこしくなる。

 レオがここの法律みたいなものだし、レオは間違ったことを言わないと思っているのでアリシャはややこしいことは一先ず考えない事にして、頷いた。

 話しているとリリーの店が見えてきて、いつも通りリリーは店で籐のカゴを編んでいた。接客してない時は売り物のカゴを編むのだから、リリーは働き者だ。決して世間話ばかりしているわけではないらしい。

「あらぁ、いらっしゃい。二人で来るなんて珍しいこともあるもんだ」

 言いながら編みかけの籐のカゴを置いて、手を陽射しを遮って空を見渡す。

「雨が降りゃしないかい?」

「そこまで珍しくもなかろう。とりあえず薬を持ってきた」

 レオは大袈裟なリリーに持ってきたカゴごと手渡した。リリーは受け取るや否や土瓶を棚に並べていく。

「昨日までの分と返却された土瓶を渡すわ。その前に、はい、お待たせべっぴんちゃん」

 リリーはアリシャからやはりカゴを受け取り中からベリーパイを取り出した。

「ん? 八、九……一個足らないよ?」

「それが一個エドに食べられてしまいました……」

「あらあら、しっかりお代を貰いなさいよ! あんたのパイは高いんだから」

 ブルーのベリーを沢山乗せたベリーパイは籐で作られたドーム型の蓋付のカゴに入れられる。虫が寄ってこない優れ物だ。

「で? もしかして──」

 そこまで言いながら、リリーは店舗の奥に一旦姿を晦ませ、直ぐに土瓶を両手に持って出てきた。

「もしかして木こりの話かい?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...