美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
42 / 131
そら豆のフリッターエビ塩掛け

そら豆のフリッターエビ塩掛け5

しおりを挟む
「だってお前らやたらと食うじゃないか。荷車だってもったし俺は間違っちゃいないぜ?」

 それには荷車を引いていたルクが「じゃあ自分で引いてくれよ」と文句で返していた。

 レゼナが二人に「とにかく荷を下ろさなきゃ」と、笑いながら割って入った。

「お金は掛かりますが良かったらうちで寝泊まりしてもらって、家が整ったら移るということでどうでしょうか?」

 アリシャがおずおずと申し出るとそのつもりだったよと明るくナジが返した。

「じゃあ、えっと──」

 レゼナは荷車の覆いを持ち上げて見ていた。横からナジが荷を説明する。

「鍋やらシーツみたいな生活の物以外は板と薪でさぁ、レゼナさん」

「あら、『さん』なんて付けないでいきましょうよ。私もナジと呼ばさせて貰うわ。板は資材置き場ね。薪は薪置場が村の外れにあるの」

「じゃあ、案内してください」

「ええ、空き家も数軒あるから選んで頂戴。皆、屋根は落ちてるけど壁は問題ないわ」

 そりゃあいいと言いながら、ナジはルクに退くように指示を出し、自分が荷車を引き始めた。

「ああ、じゃあリアナはアリシャのお手伝いをしてあげて! 急に三人分のご飯が増えたんですもの大変だわ」

 レゼナは荷車を押すのに手を貸しながら、やや叫んでいた。もちろん、ルクとユーリも荷車を押している。去り際リアナがユーリと目が合って手を振ると、ユーリも白い歯を覗かせて手を振っていた。

 二人で荷車を見届けると、アリシャはリアナに軽く体当たりして茶化した。

「ユーリと仲良し!」

 リアナもアリシャに体当たりして返す。

「アリシャだって! エドと仲良しじゃない。エドってなんかカッコいいのにズルいー」

「え? そうかしら?」

 リアナはウンウンと深く頷いて「お祖父ちゃんを怪我させた狼は大嫌いだけど、エドは狼みたい」と言う。

 どういう意味なの? と問い返すアリシャにリアナは大真面目に答えた。

「崖の上で風に毛を靡かせて澄ましている狼ってカッコいいの。見たことある?」

「んん、ないわ」

「強くて、誇らしい感じがして……カッコいい!」

 頭の中でイメージしてみてアリシャの出した答えはこうだった。

「澄ましてる感じ?」

 リアナは違うってばとアリシャの腕をピシャリと叩いた。

「高貴な感じ! それに、アリシャには優しくてなんだか良いなぁって思うんだー」

 優しかった記憶があまりないが、時々……ほんのたまに、確かに優しい時もあったような気がする。

 二人は並んで宿屋に向けて歩き出す。もちろんココも二人の周りを今日もうろちょろしていた。

「リアナがエドをそんな風に見ていたなんて驚き」

 しばらく二人はエドの話で盛り上がり、アリシャはこんな風に同じ年頃の女の子と話が出来る事に喜びを感じていた。

 料理部屋に戻るとドクが毎日届けてくれる野菜を確認した。レオに助言された通りこれからは毎日ドク一家の野菜を届けて貰ってそれを買い取る事になった。一日に五十銅貨分の野菜を見繕って届けてくれるのだ。そんな訳で届けられていたカゴを覗くと溢れんばかりのそら豆が入っていた。

 リアナと二人で大鍋にそら豆を入れ茹で、皮から豆を出していく。鮮やかな緑色ばかり見ているとなんだか夢に出てきそうだった。

「そら豆って何にするの?」

 リアナに質問されたが、それはアリシャも聞きたいくらいだ。ちょっと皿の横に乗っている位ならわかるが、今日のそら豆はそんな生易しい量ではない。

「そうね……うーん」

 まず浮かんだのはやはりフリッターだ。衣を付けて揚げるとそれっぽくなるし、何故か美味しく感じるので、困った時はフリッターにする癖がついている。

 アリシャは要らないサヤを空いているカゴへと放り込みながら料理部屋もを見回した。

「あ、これだわ!」

 立ち上がって棚に並んだ小さな壺を取り上げて中身を確認した。前に作った粉々のエビの殻だ。

「それは何?」

 リアナもエプロンに乗せておいたサヤをカゴに纏めて落とし込んだ。これは豚がキレイに平らげてくれる予定なのでキチンと残しておくのだ。

「エビの殻よ。揚げてすり潰してあるの」

 壺の中身をリアナに見せると、リアナは鼻をヒクヒクとさせた。

「殻なのにいい匂い」

 アリシャはエビの殻が出る度に、この面倒な作業を繰り返していた。なんせ、これを入れるとなんでも少し美味しくなるのだ。シチューや炒めものに隠し味で入れている。今日はこれをもう少し目立つ使い方にしようと考えた。

「卵を持ってきて卵白を泡立てるでしょう。塩を入れてしっかりとね。それとは別に卵黄と小麦粉と牛乳を混ぜて──」

 アリシャが調理法を説明していくと、作りながらじゃないとわからないとリアナが言うので、端折って最後だけ言うことにした。

「とにかく、衣を付けて油で揚げるわけよ。で、これの出番。たっぷりエビの殻の粉と塩をかけたら出来上がり!」

 リアナは嬉しそうに手を叩いた。

「私、そら豆ってそのままじゃあんまり好きじゃないから嬉しい」

 その気持ちはアリシャにもわかる。不味くはないが沢山は食べたくない。味が薄いし飽きてしまうのだ。

「お肉は手抜きして塩漬け肉を茹でようかな。ベリーのジャムを入れて甘じょっぱくしましょう」

「美味しい!」

「まだ食べてないのに」

 二人は笑いながらせっせとそら豆を剥いていく。時々ピョンと飛び出した豆は待ち構えていたココがパクリと頬張るがそれくらいは多めにみてやる。むしろ可愛くてわざと飛ばしてやりたくなるが、そこは我慢しておいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

処理中です...