美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

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キャベツの塩漬け入りマスのほかほかシチュー

キャベツの塩漬け入りマスのほかほかシチュー2

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 先頭を歩いていたエドがアリシャの部屋の部屋で立ち止まり、後に続いた者たちも足を止めた。ボリスがアリシャに先頭に行くように声をかけたので、アリシャは皆の横をつま先立ちになりながら進んでいった。とにかくすれ違うのもギリギリなのだ。通路に入ればもっと狭くなる。

「通路の先にある扉を開けたら世界は真っ白だぞ」

 エドを追い越すときに言われてゴクリと唾を飲んだ。イメージは出来ている。坑道のつくりと同じだ。ただ、皆が歩く場所を覆えばいい。

 チラリとエドを見てから「ごめんなさい」と呟いた。

「謝るくらいならやるなんて言うな」

 エドも皆には聞こえないように小さな声で返した。

(エドが危険な目にあうようなことは嫌だったんだもの……皆も心配だけど、私はエドが──)

 エドに魔力を使用することを嫌がられると発言を取り消したくなったりして、自己嫌悪に陥っていた。エドがただ好きだから手伝いたかったこと。好きな人に反対されただけで意見を変えたくなったこと。なにもかも酷すぎる。

 そんなアリシャの気持ちを吹き飛ばしたのは文字通り雪の突風だった。ドアを開けるとき何時もより重いと感じ、力任せで引いたら真正面から小石を大量にぶつけられたような痛みを感じた。

 息を吸うのも忘れるほど驚いているとアリシャは引っ張られてドアを閉められた。

「び、びっくりした……」

 引っ張ってくれたのはもちろん真後ろにいたエドだ。エドにも白い結晶が張り付いていた。

「お前さ、少しずつ開けるとか出来ないのかよ」

「だって、重かったんだもの!」

 エドはため息をつきながらもアリシャの雪を払ってくれた。アリシャ自身も顔についている雪を慌てて拭った。

「開ける前に防御カライズを使えるか?」

「あ、そうね。えっと、たぶん出来ると思う」

 ルクをエクトルの炎から守った時、障害になる人々をすり抜けて力を出せたのだからやれるはずだ。

「やってみろ。出来たら俺がドアを開けるから」

 頭の中でイメージしていく。これまで見てきた風景。砂利道を辿って家畜小屋までの道のり。いつもカゴを携えてのぼっていったなだらかな坂道だ。そこに支柱を建てて、屋根をつける。もちろん壁も隙間なく埋めていった。

 祈るようにイメージを固めるとアリシャは扉の外へと向けて力を放出していく。見えてはいないがこれまでだって成功してきた。きっと今回だって出来るはずだ。

「たぶん出来てると思う」

 黙って待っていたエドに伝えると、エドは扉を慎重に引いた。

「おお……」

 エドの後ろに控えていた兵士が感嘆の声をあげる。

 雪のトンネルが出来ていた。上も下も雪。壁も当たって落ちる雪が見えているが透けて見える景色も真っ白だ。

「じゃあ家畜小屋に行く。一旦外に出てもらわないと皆が出られないから出て」

 確かにアリシャが行く手を塞いでいたので、自分で作ったトンネルに出てみた。凍える寒さは先はどの通路と変わらない。それに歩きやすさも変わらなかった。アリシャは無意識に足元にも力を使っていて積もった雪に足が埋まることもなかった。

 次々と出てくる男たちが口々に「こりゃあいい」とか「靴が濡れないぞ」とか、喜びを口にしていく。最後に出てきたボリスが震えながら見送っていたアリシャに「早く入りな」と優しく声をかけてくれた。

「悪いけどジャンの家──馬小屋までの道もやってくれるかい? 繋げたりすることは可能なのかな」

 今回のトンネルを作ったことでアリシャはイメージ通りのものを作れる自身がついた。

「ええ、やっておくわね」

 快諾したアリシャにボリスが家畜小屋の方に視線を走らせてから、誰も振り向いていないことを確認し、アリシャをギュッと抱きしめ背中を擦った。

「風邪を引くなよ」

 突然のことに身を固くしたアリシャからボリスは直ぐに離れて皆の後を追っていった。

 励ましのハグにやめてと目くじらを立てるのはどうかと思うし、でも毅然とした態度を取るべきだとも思う。アリシャはエドに嫌われたかもしれないと不安になっていたところだったのに加え、ボリスの行動が追い打ちをかけてなんだかどっと疲れてしまった。

 深呼吸をし、もう一つのトンネルを作り出すとアリシャは家畜小屋の方に顔を向けた。

 作ったトンネルに雪が四方から吹き付けて、建物すら見ることが出来ない。でも誰も戻ってこないところをみると、問題なく到達出来たのだろう。

(雪ってこんなに降ったりするのね……)

 トンネル内はあまり音がしない。それでもうねるように吹き付けている雪を見ると今朝方聞いた低く唸る風の音を思い出す。それは獣の呻き声にも似ているし、音が上がると金切り声にも似ているし。

 男たちとは違い、外套すら羽織っていないアリシャはガタガタと震えが止まらなくなってきたので皆の帰りを待てずに宿屋へと戻っていった。

 広間に戻ると、レゼナ達が起き出していて暖炉に手を翳していた。

「おはよう、起きていたのね」

 レゼナにおはようございますと返すと「そちらは寒くなかったですか?」と聞いてみた。

「ええ、三人かたまって寝たのよ。くっつくと温かいから。アリシャは寒かったの?」

「ちょっとだけ……」

「壁のせいかもね。アリシャのところだけ石造りではないから」

 そうだったとアリシャはそれで皆が寒さで起きてこない理由に納得がいった。アリシャの部屋だけは後から作っているので石造りではないのだ。
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