戦憶の中の殺意

ブラックウォーター

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第一章 不穏な客たち

03

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「やはりあったな……。やつは我々を信用していないとみてよさそうだ」
「今になって六年前のことほじくり返すような人ですからねえ……」
 昼食後。宿泊ロッジの一つ。ラバンスキーと山瀬が渋面を突き合せる。
 用心のために持って来た受信機を使い、室内をクリーニングした。
 結果は黒。それぞれの部屋から盗聴器が見つかった。自分たちは監視されていることになる。そして、犯人は九分九厘あの男だ。
「どうしますか? 大佐。やっこさん本気みたいですよ」
「昔のよしみだ。説得して翻意を促すさ。やつにも生活がある。今は養うべき家族も、大事な事業もある」
「しかし……それでも考えが変わらなかったら……?」
「そのときは……始末するしかあるまいよ。残念だがな」
 金髪碧眼の男の口から、物騒な言葉が飛び出る。盗聴器は既に電源を切った。これをしかけた人間に聞かれる心配はないはずだ。
「いくらなんでも昔の戦友を……。説得が通じればいいですが……」
「あれは戦争だった。そこは譲るつもりはない。民間人の犠牲がどうのなんぞ、くそくらえだ。今更蒸し返させるものか!」
 ラバンスキーが大きな声を出す。
「あれは戦争だったんだぞ。敵は容赦なく殲滅しなければならなかった。あいつが一番よくわかっていたはずだ。今になって変な感傷に流されてもらっちゃ困るんだ」
 金髪碧眼の容貌に決然とした表情が浮かぶ。昔は戦友だったが、相容れないならば容赦はできない。眼がそう言っていた。
「大佐……」
 山瀬は、すでにかつての仲間たちの道は分かたれているのだと悟った。
……………………………………………
 一方、こちらは倉木が私室としているロッジの書斎。
「聞こえているぞ。ヤキが回ったな、大佐、大尉」
 倉木は口の端をつり上げる。どうやら彼らは、盗聴器を見つけてすっかり油断しているようだ。こちらのもくろみ通りに。あいにくだが、盗聴は続いている。戦友であった彼らにさえ教えていない。自分の奥の手だ。
「あの日の真実は、必ず白日の下にさらしてみせるぞ」
 そう独りごちて、サイドボードを見やる。子どもたちと並んだ自分が、笑顔で映っている。
 もし、もくろみが成功すれば自分も共犯だ。最悪、子どもたちとはお別れだろう。血のつながりはない。が、一緒に暮してから一度として他人と思ったことはない。彼らの父親として恥じない男であろうと努めてきた。子どもたちも、自分と父と思ってくれている。が……。
(子どもたちよ、理解しておくれ。特にラリサ、お前に我々がしたことは、なんとしても償わなければならない)
 胸中につぶやいて、決意を新たにする。ダンディで穏やかな中年男が一変。実践の中で場数を踏んできた戦士の顔になる。
 そこでふと、別の写真立てが目に入る。軍服に身を包み、銃を担いだ兵士たち。その中には自分もいる。倉木はその写真立てを伏せた。罪を罪とも思っていなかった、かつての自分。殺した敵の数を自慢し合っていたころの己を見るのが、ひたすら忌まわしかった。
………………………………………………
「うん……?」
 ニコライ・マリコフは、妙な音に気づいた。自室で宿題をしていると、隣室から聞き慣れない音が聞こえたのだ。
 ピアノを弾くので防音壁が入っているが、なにかを床に落とせば、振動と一緒に音も伝わる。金属でできたなにかが落ちたような音だった。
(なにやってるんだ……?)
 どうも胸騒ぎがして、自室を出る。二世帯構造のロッジの隣の部屋の窓を、覗き見る。運良く、レースのカーテン越しに中が見える。
(…………!?)
 ジェンダーレスな美少年は息を呑んだ。中で行われている光景に。
(なにをするつもりなんだ……? まさか……)
 恐ろしい推測が、十二歳の少年の頭に浮かぶ。信じられないことだった。隣人の笑顔を思い出す。あんなに優しくて穏やかな人間が、自分が想像したようなことをするはずがない。そう信じたかった。
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