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第三章 6年前の戦争
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「大変だったんですね……。そうして戦後、あなたと倉木さん、相馬さんは軍を辞めた。一方のラバンスキーさんと山瀬さんは残った。違う選択をさせたものって、なんだったんですか?」
「少佐と少尉の心の内までは、はっきりとはわからんさ。俺は……もう殺しはうんざりだったし、国に帰って食っていくあてもない。少佐がヤーパン(日本)で商売をやるっていうから、ついて来ただけさ」
肩をすくめながら、彼は答える。
「なるほど、対立の外にいたブラウバウムさんなら、先入観なくものが見られるかも知れない。余談を持たず見たまま聞いたままを話すことも。教えてくれませんか? ロッジに集まってなにを話し合っていたのかを」
身を乗り出して問う。こういう時は、話が聞きたくて仕方がないところを見せるのが有効だ。
「今更隠しても始まらんな……。実は、少佐……オーナーは自首するつもりでいたんだ。六年前のことを国際司法裁判所に全て明かそうと。あの集まりは、それについての相談だったんだ」
ブラウバウムの返答に、誠は得心する。それなら、銃を向け合うほどに対立しても全く不思議はない。
「そういうことでしたか……。しかしそれは、外人部隊に残ったラバンスキーさんと山瀬さんには承服できないことだった……」
「そういうことだ。二人とも必死でオーナーを説得したが、彼の決意は固かった。ついに話は物別れ。あの有様だ……」
イケメンが悲しそうに歪む。かつて背中を預け合った仲間たちが、銃を向け合うまでに険悪になってしまった。無理もないことだ。
「最後にもう一つだけ。もし、本当に仮定の話ですが……。ラバンスキーさんと山瀬さんが事前に慰問団の存在を察知していたとして……。知らなかった場合と、どれくらい罪の重さが違いますかね?」
そこも聞いておきたいところだった。
「そりゃ大違いさ。たまたま慰問団が居合わせただけなら、業務上過失致死。状況が状況だ。執行猶予は確定。あるいは起訴さえされないかも知れない。だが、事前に知ってたとなれば、非戦闘員に対する殺意があったことになっちまう」
「計画的な殺人……ということになりますか……」
誠は顎に拳を当てる。
身近な例として、車で人をひいて死なせた場合を考えるとわかりやすい。うっかりひいてしまったなら、自動車運転過失致死。だが、最初から殺意を持ってひき殺したとすれば、それは立派な殺人だ。
(そう言えば……)
ロッジでの問答を思い出す。ラバンスキーが動揺していたのは、『事前に知っていた』よりも『証拠もある』と言われた時だったように思えた。
(だとしたら……『証拠』とはなんだ……)
先ほどの相馬に聞いたことと合わせ、謎は深くなる一方だった。
………………………………………………
「君も私を疑っているというわけですか」
ロッジの自室の中。倉木が自虐的に笑う。
「そういうつもりはありません。お話を伺いたいだけです。話せる範囲でまったくけっこうですから」
誠はできる限りの言葉でフォローする。状況を考えれば、一番怪しいのは倉木ということになる。が、正直なところ彼がかつての戦友を殺すような人間には見えなかった。
(悪い人間に……子どもがこんな表情するとは思えないしね……)
サイドボードの上に置かれた写真立てを見やる。倉木と、四人の子どもたちが笑顔で並んでいる。
ヴァシリ、ラリサ、ニコライ、アレクサンドラ。みな素敵な笑顔だ。養父が冷酷な殺人者であれば、あんなふうに笑うことができるものだろうか。
「ん……?」
サイドボードの上の写真立ての一つが、伏せられている事に気づく。
「あの、オーナー。これ、見せて頂いてもいいですか?」
「ああ……かまいませんよ」
所有者の許可を得た少年は、写真立てを起こす。それは、おそらく六年前の戦争の時の写真だった。
ラバンスキーを真ん中にして、倉木たちが笑顔で並んでいる。それぞれが手にした銃と、身にまとう野戦用の装備。いかにもそこが戦場という雰囲気だ。
「装備が全部バラバラですね。統一されてるのは小銃くらいか……。ハンドガンも各自がチョイスしてるみたいだし」
誠はそう言って倉木を振り返る。
彼らが身につけている装備はほとんどまちまちだ。チェストリグやプレートキャリアー、ベストなどが混在している。拳銃の種類も、身に付け方もそれぞれの裁量に任されていたようだ。レッグホルスターの者もいれば、ヒップホルスターを使っている者もいる。胸元に固定している者もいる。
「それはもう。当時キーロアではなにもかもが不足していたからね。正式採用の装備ではとても足りなかった。海外から民生品を輸入していたくらいさ」
ダンディなオーナーは肩をすくめる。
「使える物ならなんでも調達して使った。最新のブランド物から、湾岸戦争のころのお古までね。日本人だからって理由で、私と山瀬が装備の購入を任されたこともあった。秋葉原で必要なものを買いあさったよ。妙な気分だった。サバイバルゲームのために売られている装備を、本当の戦争のために買い付けているんだから」
倉木が天井を仰ぐ。
「それはそうですよね」
彼の思いを察した誠が、苦笑いで応じる。
「少佐と少尉の心の内までは、はっきりとはわからんさ。俺は……もう殺しはうんざりだったし、国に帰って食っていくあてもない。少佐がヤーパン(日本)で商売をやるっていうから、ついて来ただけさ」
肩をすくめながら、彼は答える。
「なるほど、対立の外にいたブラウバウムさんなら、先入観なくものが見られるかも知れない。余談を持たず見たまま聞いたままを話すことも。教えてくれませんか? ロッジに集まってなにを話し合っていたのかを」
身を乗り出して問う。こういう時は、話が聞きたくて仕方がないところを見せるのが有効だ。
「今更隠しても始まらんな……。実は、少佐……オーナーは自首するつもりでいたんだ。六年前のことを国際司法裁判所に全て明かそうと。あの集まりは、それについての相談だったんだ」
ブラウバウムの返答に、誠は得心する。それなら、銃を向け合うほどに対立しても全く不思議はない。
「そういうことでしたか……。しかしそれは、外人部隊に残ったラバンスキーさんと山瀬さんには承服できないことだった……」
「そういうことだ。二人とも必死でオーナーを説得したが、彼の決意は固かった。ついに話は物別れ。あの有様だ……」
イケメンが悲しそうに歪む。かつて背中を預け合った仲間たちが、銃を向け合うまでに険悪になってしまった。無理もないことだ。
「最後にもう一つだけ。もし、本当に仮定の話ですが……。ラバンスキーさんと山瀬さんが事前に慰問団の存在を察知していたとして……。知らなかった場合と、どれくらい罪の重さが違いますかね?」
そこも聞いておきたいところだった。
「そりゃ大違いさ。たまたま慰問団が居合わせただけなら、業務上過失致死。状況が状況だ。執行猶予は確定。あるいは起訴さえされないかも知れない。だが、事前に知ってたとなれば、非戦闘員に対する殺意があったことになっちまう」
「計画的な殺人……ということになりますか……」
誠は顎に拳を当てる。
身近な例として、車で人をひいて死なせた場合を考えるとわかりやすい。うっかりひいてしまったなら、自動車運転過失致死。だが、最初から殺意を持ってひき殺したとすれば、それは立派な殺人だ。
(そう言えば……)
ロッジでの問答を思い出す。ラバンスキーが動揺していたのは、『事前に知っていた』よりも『証拠もある』と言われた時だったように思えた。
(だとしたら……『証拠』とはなんだ……)
先ほどの相馬に聞いたことと合わせ、謎は深くなる一方だった。
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「君も私を疑っているというわけですか」
ロッジの自室の中。倉木が自虐的に笑う。
「そういうつもりはありません。お話を伺いたいだけです。話せる範囲でまったくけっこうですから」
誠はできる限りの言葉でフォローする。状況を考えれば、一番怪しいのは倉木ということになる。が、正直なところ彼がかつての戦友を殺すような人間には見えなかった。
(悪い人間に……子どもがこんな表情するとは思えないしね……)
サイドボードの上に置かれた写真立てを見やる。倉木と、四人の子どもたちが笑顔で並んでいる。
ヴァシリ、ラリサ、ニコライ、アレクサンドラ。みな素敵な笑顔だ。養父が冷酷な殺人者であれば、あんなふうに笑うことができるものだろうか。
「ん……?」
サイドボードの上の写真立ての一つが、伏せられている事に気づく。
「あの、オーナー。これ、見せて頂いてもいいですか?」
「ああ……かまいませんよ」
所有者の許可を得た少年は、写真立てを起こす。それは、おそらく六年前の戦争の時の写真だった。
ラバンスキーを真ん中にして、倉木たちが笑顔で並んでいる。それぞれが手にした銃と、身にまとう野戦用の装備。いかにもそこが戦場という雰囲気だ。
「装備が全部バラバラですね。統一されてるのは小銃くらいか……。ハンドガンも各自がチョイスしてるみたいだし」
誠はそう言って倉木を振り返る。
彼らが身につけている装備はほとんどまちまちだ。チェストリグやプレートキャリアー、ベストなどが混在している。拳銃の種類も、身に付け方もそれぞれの裁量に任されていたようだ。レッグホルスターの者もいれば、ヒップホルスターを使っている者もいる。胸元に固定している者もいる。
「それはもう。当時キーロアではなにもかもが不足していたからね。正式採用の装備ではとても足りなかった。海外から民生品を輸入していたくらいさ」
ダンディなオーナーは肩をすくめる。
「使える物ならなんでも調達して使った。最新のブランド物から、湾岸戦争のころのお古までね。日本人だからって理由で、私と山瀬が装備の購入を任されたこともあった。秋葉原で必要なものを買いあさったよ。妙な気分だった。サバイバルゲームのために売られている装備を、本当の戦争のために買い付けているんだから」
倉木が天井を仰ぐ。
「それはそうですよね」
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