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第三章 6年前の戦争
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「話ってなんですか?」
警察の捜索が終わった後、誠は相馬のロッジを訪ねていた。
「夕べの口論のことについて、詳しく聞きたいと思いまして」
勧められた椅子にかけて、切り出す。
「どうも気になっていたんです。オーナーは、『やはり事前に知っていたな』『証拠もあるんだぞ』と言ってました。ラバンスキーさんが慰問団の存在をあらかじめ知っていたと、オーナーはなにを根拠に言ったんです?」
その質問に、相馬は考える顔になる。難しい問題なのだろう。彼女もまた、状況次第で戦犯として裁かれ得る立場だ。
「これを見ながらの方が、わかりやすいでしょうね」
そう言って自分のスマホを取り出す。例の動画を再生する。
「ここです」
『落ち着け。慰問団かなにかだろうが、作戦に変更はない。シャドウ2、予定通り狙撃だ』
(あれ……この声……)
ふと、どこかで聞いた声であると思い当たる。しかも、彼が指揮官のようだ。
「ラバンスキーさんですね、これ」
「そうなの。なにか気づかない? 特にこれとセットで」
相馬はネット記事を開く。あちらの新聞の和訳版のようだ。『慰問団、キーロア軍により虐殺される』とある。
「あれ……? そう言えば……なんでラバンスキーさんは慰問団だってわかったんだろう……?」
改めて動画を見直してみる。かなり遠目だ。民間人で子どももいるのはわかるが、小さすぎて子細までは見えない。
「気づきましたね。倉木少佐も同じ疑問を持った。非戦闘員なのはわかるけど、強制連行されたキーロアの民間人かも知れないし、モスカレル側だとしても別の理由かも知れない。しかしなぜか、彼は具体的に慰問団という言葉を使った。そして、事実そうだった」
ジャムを入れた紅茶を口に含みながら、相馬が応じる。
(そう言えば……あの戦争……。国際社会はキーロアの味方で、情報戦では圧勝していたとか……。ハッキングとか無線傍受とか……慰問団の存在を事前に知る方法があってもおかしくないわけだ……)
そこまで考えて、一つ引っかかることがあった。
「相馬さん、倉木さんの言ってた慰問団虐殺の証拠ってなんですか?」
そこが気になった。
「それが、聞いても教えてくれないんです。時が来たら話すって……。まあ、あたしも全面的に信用されなくて当然ですけど……」
エキゾチックな美貌が寂しそうになる。
戦犯として裁かれるかどうかという問題だ。倉木と彼女の利害が、完全に一致するとは限らない。状況次第では、ラバンスキーの側についてしまう事もあり得た。故に倉木も彼女を信用しきれない。理解はできても悲しいことだ。
……………………………………………
「聞きたいことってなに?」
誠は次に、台所で働くブラウバウムを訪ねていた。彼が食事の仕込みを終えたタイミングで声をかけたのだ。
「停戦命令が出た日。ようするに、あの動画の空爆があった日のことを、詳しくお願いしたいんです」
なるべく穏やかに語りかける。あの戦争の当事者だった者たちには、思い出したくないことも多いだろうから。
「外人部隊を辞めるとき、『除隊後も機密保持義務は有効である』っていう書面にサインしてる。話せることには限りがあるが」
オーストリア生まれのゴツいイケメンは渋面になる。彼にも良心や倫理はあるが、それと軍規は別問題。生真面目なのだろう。
「その点を考えて、話せる範囲で構いません。機密保持に触れない範囲で」
念を押して続ける。
「あの空爆の日、ラバンスキーさんと山瀬さんがなにか特別な情報を掴んでた。その可能性は高いようです。ブラウバウムさんはなにか聞いてませんでしたか?」
「そうは言われてもなあ……。俺はドライバーで、車で待機してる役だった。民間人を巻き込んだ空爆があったって話も、後で知ったんだ。ま……共犯と言われりゃそうだがね……」
ブラウバウムの顔には、根深い悔恨が浮かんでいた。直接引き金を引いていないからといって、無関係ではない。そう思っている。
(いい人だな……)
誠はブラウバウムに好感を持った。彼のように良心的な人間ばかりなら、戦争などそもそも起こらない。そんなことさえ思えた。
「じゃあ、当時の部隊のことを教えてください。動画を観てて思ったんです。ずいぶん温度差があるなって。倉木さん……当時は大尉でしたか……? 彼は民間人を巻き込むことに反対してるのに、ラバンスキー少佐はまるでためらいがない」
抱いていた疑問をぶつけてみる。凄腕ぞろいの優秀な部隊だったと聞いている。内部で対立があるというのは、素人考えでも妙だ。
「それこそ……。リアルプラトーンだよ。結束は強かった。戦争なんだ。戦うことに迷いなんかなかった。だが……毎日人が死ぬのを見てれば、そうそう普通じゃいられないさ。あるものは憎しみに駆られ……あるものは必死で理性にしがみつく……」
ブラウバウムが料理の手を止めて、天井を仰ぐ。古い映画の中の地獄が、そのまま現実になった。
狂気に取り付かれた曹長と、あくまで人間らしさを保とうとする軍曹の対立。それはやがて取り返しのつかない事態へと発展していく。ラバンスキーと倉木にも、同じことが起きたのだろう。
「話ってなんですか?」
警察の捜索が終わった後、誠は相馬のロッジを訪ねていた。
「夕べの口論のことについて、詳しく聞きたいと思いまして」
勧められた椅子にかけて、切り出す。
「どうも気になっていたんです。オーナーは、『やはり事前に知っていたな』『証拠もあるんだぞ』と言ってました。ラバンスキーさんが慰問団の存在をあらかじめ知っていたと、オーナーはなにを根拠に言ったんです?」
その質問に、相馬は考える顔になる。難しい問題なのだろう。彼女もまた、状況次第で戦犯として裁かれ得る立場だ。
「これを見ながらの方が、わかりやすいでしょうね」
そう言って自分のスマホを取り出す。例の動画を再生する。
「ここです」
『落ち着け。慰問団かなにかだろうが、作戦に変更はない。シャドウ2、予定通り狙撃だ』
(あれ……この声……)
ふと、どこかで聞いた声であると思い当たる。しかも、彼が指揮官のようだ。
「ラバンスキーさんですね、これ」
「そうなの。なにか気づかない? 特にこれとセットで」
相馬はネット記事を開く。あちらの新聞の和訳版のようだ。『慰問団、キーロア軍により虐殺される』とある。
「あれ……? そう言えば……なんでラバンスキーさんは慰問団だってわかったんだろう……?」
改めて動画を見直してみる。かなり遠目だ。民間人で子どももいるのはわかるが、小さすぎて子細までは見えない。
「気づきましたね。倉木少佐も同じ疑問を持った。非戦闘員なのはわかるけど、強制連行されたキーロアの民間人かも知れないし、モスカレル側だとしても別の理由かも知れない。しかしなぜか、彼は具体的に慰問団という言葉を使った。そして、事実そうだった」
ジャムを入れた紅茶を口に含みながら、相馬が応じる。
(そう言えば……あの戦争……。国際社会はキーロアの味方で、情報戦では圧勝していたとか……。ハッキングとか無線傍受とか……慰問団の存在を事前に知る方法があってもおかしくないわけだ……)
そこまで考えて、一つ引っかかることがあった。
「相馬さん、倉木さんの言ってた慰問団虐殺の証拠ってなんですか?」
そこが気になった。
「それが、聞いても教えてくれないんです。時が来たら話すって……。まあ、あたしも全面的に信用されなくて当然ですけど……」
エキゾチックな美貌が寂しそうになる。
戦犯として裁かれるかどうかという問題だ。倉木と彼女の利害が、完全に一致するとは限らない。状況次第では、ラバンスキーの側についてしまう事もあり得た。故に倉木も彼女を信用しきれない。理解はできても悲しいことだ。
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「聞きたいことってなに?」
誠は次に、台所で働くブラウバウムを訪ねていた。彼が食事の仕込みを終えたタイミングで声をかけたのだ。
「停戦命令が出た日。ようするに、あの動画の空爆があった日のことを、詳しくお願いしたいんです」
なるべく穏やかに語りかける。あの戦争の当事者だった者たちには、思い出したくないことも多いだろうから。
「外人部隊を辞めるとき、『除隊後も機密保持義務は有効である』っていう書面にサインしてる。話せることには限りがあるが」
オーストリア生まれのゴツいイケメンは渋面になる。彼にも良心や倫理はあるが、それと軍規は別問題。生真面目なのだろう。
「その点を考えて、話せる範囲で構いません。機密保持に触れない範囲で」
念を押して続ける。
「あの空爆の日、ラバンスキーさんと山瀬さんがなにか特別な情報を掴んでた。その可能性は高いようです。ブラウバウムさんはなにか聞いてませんでしたか?」
「そうは言われてもなあ……。俺はドライバーで、車で待機してる役だった。民間人を巻き込んだ空爆があったって話も、後で知ったんだ。ま……共犯と言われりゃそうだがね……」
ブラウバウムの顔には、根深い悔恨が浮かんでいた。直接引き金を引いていないからといって、無関係ではない。そう思っている。
(いい人だな……)
誠はブラウバウムに好感を持った。彼のように良心的な人間ばかりなら、戦争などそもそも起こらない。そんなことさえ思えた。
「じゃあ、当時の部隊のことを教えてください。動画を観てて思ったんです。ずいぶん温度差があるなって。倉木さん……当時は大尉でしたか……? 彼は民間人を巻き込むことに反対してるのに、ラバンスキー少佐はまるでためらいがない」
抱いていた疑問をぶつけてみる。凄腕ぞろいの優秀な部隊だったと聞いている。内部で対立があるというのは、素人考えでも妙だ。
「それこそ……。リアルプラトーンだよ。結束は強かった。戦争なんだ。戦うことに迷いなんかなかった。だが……毎日人が死ぬのを見てれば、そうそう普通じゃいられないさ。あるものは憎しみに駆られ……あるものは必死で理性にしがみつく……」
ブラウバウムが料理の手を止めて、天井を仰ぐ。古い映画の中の地獄が、そのまま現実になった。
狂気に取り付かれた曹長と、あくまで人間らしさを保とうとする軍曹の対立。それはやがて取り返しのつかない事態へと発展していく。ラバンスキーと倉木にも、同じことが起きたのだろう。
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