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第三章 6年前の戦争
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「オーナーだけAK―74じゃないのは……。スナイパーを兼ねてたからですか。これ、例の動画に映ってた銃ですよね」
そう言って、当時の彼を指さす。
倉木の持った銃だけが、他の隊員のものより一回り大きくマガジンも短い。装着されたゴツいサプレッサーと、システマティックなスコープ。見間違いようがない。あの動画に映っていた銃だ。
「ああ、正確にはマークスマン(選抜射手)だった。陸自で多少狙撃をかじったからって、期待されすぎだったよ」
倉木が苦笑いになる。殺しを仕事としていた当時を、振り返っていると見える。
(あれ……?)
そこで違和感を覚える。他の人間は銃を利き手に持っている。なのに、山瀬だけが逆であるはずの右手に持っているのだ。
「オーナー、山瀬さん左利きでしたよね?」
そう言って、写真立てを見せる。
「ああ……その時彼はたまたま左手を痛めていてね……」
言われてみると、確かに写真の中の山瀬は手首に包帯を巻いている。
「他の当時の写真は?」
「いや……今はそれだけだ。データも前のパソコンが故障したときに消失してしまった。バックアップを取っておかなかったのは失敗だったよ」
そう応答した倉木は、『あまり思い出したくないしな』と言外ににじませていた。
「さて……。ロッジでの会話そのものは聞こえませんでしたが……俺は確かにあなたの唇を読みました。『証拠もあるんだぞ』と」
誠はそこで言葉を句切る。倉木はポーカーフェイスで、表情はイエスともノートも言っていない。
「お話し頂けませんか? ラバンスキーさんが、事前に慰問団の存在を察知していた。その証拠は本当にあるのか、あるとしてなんなのか」
倉木のすぐ横の椅子に腰を下ろし、率直に尋ねる。
「申し訳ないが、それは言えない。だが……君の推理力であれば、いずれわかるんじゃないかな?」
ダンディな容貌をポーカーフェイスから一転、不敵な笑みにする。
「なるほど……。必ず暴いて見せますよ」
誠もつられて笑った。
……………………………………………
「今更……なんの意味もないんだ……」
誠が退出した後、倉木は独りごちる。ビールを冷蔵庫から取り出し、一気にあおる。辛口がむしろ平和の味に思える。
(あちらのビールは……もっと甘みがあった……)
六年前を思い出す。戦友たちと一緒に飲んだビールやズブロックの味も。
陸自第一水陸機動団を、詰め腹を切らされる形で退職した。部隊内でお定まりの不祥事が相次いだ。飲酒運転、万引き、児童買春。それらは倉木の監督不行き届きとされ、辞表を出さざるを得なかった。子どもができないことですれ違っていた妻とは、退職をきっかけに離婚した。
再就職先にもなじめずにいたとき、ラバンスキーが会いに来た。彼とは、日米合同の離島防衛訓練以来の知り合いだった。
『外人部隊? 俺がですか?』
『そうだ。かの国は、訓練された優秀な兵士を一人でも多く必要としている。国籍や年齢、前職など、一切問われない。私は行こうと思う。君もどうかと思ってね』
(キーロア政府は慧眼だったわけだ……)
当時キーロア政府と軍は、訓練された人材を一人でも多く欲していた。モスカレル軍に不穏な動きがあり、侵攻される可能性が高いと予測していたのだ。
各国の軍隊や警察の経験者を集めて、外人部隊を編成する。その作業が急ピッチで進められていた。陸自を退職して間もない倉木も、彼らのアンテナに引っかかった。ラバンスキーはリクルーターの使いだったのだ。彼もまた、部隊内の不祥事の責任を問われて退役に追い込まれていた身だ。
陸自のころとは比べものにならない高級につられ、倉木はオファーを受けた。ポーランド経由でキーロアに入国。あちらの言語は、陸自で習っていたので不安はない。ラバンスキー率いる961偵察隊に配属され、訓練を受け直した。
そして二ヶ月後、モスカレルの軍事侵攻は現実の物となった。
『敵通信兵を狙撃しろ! やつらを分断するんだ!』
『やってみます!』
『やつらの車列は崖崩れで立ち往生しています。脇腹を突けますよ』
『わかった。対戦車ミサイル準備。タイミングを合わせて一斉に射撃だ』
あの時は、戦いに集中するのに必死だった。迷っている余裕さえなかった。愛用していたライフルで、何十人もの敵を葬った。戦況が膠着すると、部隊の仕事は主に偵察とドローンの射撃指示が主になった。
ターゲットを狙う場合に一番正確なのは、ギリギリまで人間が接近してレーザーで目標をマークすることだ。どれだけ衛星や偵察機が優秀でも、それは変わらない。
『敵補給部隊を確認。南西に移動中です』
『予測通り。春が来て大地は泥濘。舗装された道をちんたら行くしかない』
『これならやれる。ドローン到着まで三分』
『誘導レーザー照準』
敵の司令部や補給部隊、通信施設などをレーザー照準。ドローンから投下される誘導爆弾を正確に命中させる。危険な任務だがやりがいはあった。虐殺や略奪で悪名高いモスカレル軍が相手だと思えば、人殺しの負い目もなかった。
そう言って、当時の彼を指さす。
倉木の持った銃だけが、他の隊員のものより一回り大きくマガジンも短い。装着されたゴツいサプレッサーと、システマティックなスコープ。見間違いようがない。あの動画に映っていた銃だ。
「ああ、正確にはマークスマン(選抜射手)だった。陸自で多少狙撃をかじったからって、期待されすぎだったよ」
倉木が苦笑いになる。殺しを仕事としていた当時を、振り返っていると見える。
(あれ……?)
そこで違和感を覚える。他の人間は銃を利き手に持っている。なのに、山瀬だけが逆であるはずの右手に持っているのだ。
「オーナー、山瀬さん左利きでしたよね?」
そう言って、写真立てを見せる。
「ああ……その時彼はたまたま左手を痛めていてね……」
言われてみると、確かに写真の中の山瀬は手首に包帯を巻いている。
「他の当時の写真は?」
「いや……今はそれだけだ。データも前のパソコンが故障したときに消失してしまった。バックアップを取っておかなかったのは失敗だったよ」
そう応答した倉木は、『あまり思い出したくないしな』と言外ににじませていた。
「さて……。ロッジでの会話そのものは聞こえませんでしたが……俺は確かにあなたの唇を読みました。『証拠もあるんだぞ』と」
誠はそこで言葉を句切る。倉木はポーカーフェイスで、表情はイエスともノートも言っていない。
「お話し頂けませんか? ラバンスキーさんが、事前に慰問団の存在を察知していた。その証拠は本当にあるのか、あるとしてなんなのか」
倉木のすぐ横の椅子に腰を下ろし、率直に尋ねる。
「申し訳ないが、それは言えない。だが……君の推理力であれば、いずれわかるんじゃないかな?」
ダンディな容貌をポーカーフェイスから一転、不敵な笑みにする。
「なるほど……。必ず暴いて見せますよ」
誠もつられて笑った。
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「今更……なんの意味もないんだ……」
誠が退出した後、倉木は独りごちる。ビールを冷蔵庫から取り出し、一気にあおる。辛口がむしろ平和の味に思える。
(あちらのビールは……もっと甘みがあった……)
六年前を思い出す。戦友たちと一緒に飲んだビールやズブロックの味も。
陸自第一水陸機動団を、詰め腹を切らされる形で退職した。部隊内でお定まりの不祥事が相次いだ。飲酒運転、万引き、児童買春。それらは倉木の監督不行き届きとされ、辞表を出さざるを得なかった。子どもができないことですれ違っていた妻とは、退職をきっかけに離婚した。
再就職先にもなじめずにいたとき、ラバンスキーが会いに来た。彼とは、日米合同の離島防衛訓練以来の知り合いだった。
『外人部隊? 俺がですか?』
『そうだ。かの国は、訓練された優秀な兵士を一人でも多く必要としている。国籍や年齢、前職など、一切問われない。私は行こうと思う。君もどうかと思ってね』
(キーロア政府は慧眼だったわけだ……)
当時キーロア政府と軍は、訓練された人材を一人でも多く欲していた。モスカレル軍に不穏な動きがあり、侵攻される可能性が高いと予測していたのだ。
各国の軍隊や警察の経験者を集めて、外人部隊を編成する。その作業が急ピッチで進められていた。陸自を退職して間もない倉木も、彼らのアンテナに引っかかった。ラバンスキーはリクルーターの使いだったのだ。彼もまた、部隊内の不祥事の責任を問われて退役に追い込まれていた身だ。
陸自のころとは比べものにならない高級につられ、倉木はオファーを受けた。ポーランド経由でキーロアに入国。あちらの言語は、陸自で習っていたので不安はない。ラバンスキー率いる961偵察隊に配属され、訓練を受け直した。
そして二ヶ月後、モスカレルの軍事侵攻は現実の物となった。
『敵通信兵を狙撃しろ! やつらを分断するんだ!』
『やってみます!』
『やつらの車列は崖崩れで立ち往生しています。脇腹を突けますよ』
『わかった。対戦車ミサイル準備。タイミングを合わせて一斉に射撃だ』
あの時は、戦いに集中するのに必死だった。迷っている余裕さえなかった。愛用していたライフルで、何十人もの敵を葬った。戦況が膠着すると、部隊の仕事は主に偵察とドローンの射撃指示が主になった。
ターゲットを狙う場合に一番正確なのは、ギリギリまで人間が接近してレーザーで目標をマークすることだ。どれだけ衛星や偵察機が優秀でも、それは変わらない。
『敵補給部隊を確認。南西に移動中です』
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