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第6章 健吾side
第六話
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その夜、健吾は一人でアパートにいた。
完了証明書を机の上に置いて、改めて自分の自由を噛みしめる。
蛍のことを考えた。
蛍とは、家が隣同士だった。
二軒とも同じ時期に家を建て、健吾は小学校に上がる前に引っ越した。
蛍は生まれる前だったはずだ。
年齢が離れているので、隣に住んでいても一緒に遊ぶことは少なかった。
それでも、蛍が成長して小学校に入学した時は、一緒に学校に通うようになった。
こぼれそうなほど大きな目をした可愛い子で、まるで弟のような存在だった。
蛍がオメガだと気づいたのもその頃だ。
幼いながらも、どこか繊細で優しい雰囲気があった。
だが、しばらくして蛍は引っ越していった。
詳しい事情は知らず、どこに引っ越したかも知らなかった。
子供心に、少し寂しかったのを覚えている。
そして、教育実習での再会。
成長した蛍の姿に、健吾は胸を打たれた。
しかし同時に、最も辛い記憶でもある。
蛍からの告白を断った日のことを、健吾は忘れることができない。
夕焼けに染まった教室で、蛍は勇気を振り絞って想いを伝えてくれた。
その真剣な瞳、震える声。
すべてが健吾の心を揺さぶった。
それなのに健吾は「番がいる」と言って断った。
尚を守らなければという義務感が、蛍の純粋な気持ちを拒絶させた。
あの時の蛍の表情を思い出すたび、胸が締め付けられる。
失望と悲しみに曇った瞳。
それでも「健ちゃんが幸せなら」と言って笑おうとした蛍の健気さが、かえって健吾の罪悪感を深くした。
大学での再会は、三度目の運命だった。
蛍も同じように驚いていたように思う。
けれど健吾は、蛍の気持ちがまだ残っているのかどうか確信が持てずにいた。
高校での拒絶から年月が経ち、蛍の心は変わっているかもしれない。
それでも蛍は変わらず優しかった。
研究室を訪ね、真摯に質問を重ねる姿。
映画について語る時の生き生きとした表情。
健吾の体調を気遣ってくれる温かな眼差し。
バーベキューでのヒートの時も、健吾は蛍のそばにいることができなかった。
番の絆に縛られた自分には、蛍を助ける資格がないように感じられた。
代わりに桜庭や神崎が適切に対応し、蛍を守ってくれた。
心から感謝している。
治療が進み、蛍のフェロモンを感じるようになってから、健吾の気持ちはより鮮明になった。
これは番の絆が弱くなったからではない。
きっと、ずっと前からあった想いが、ようやく表面に現れただけなのだ。
でも、蛍の気持ちはどうなのだろう。
確かに蛍は優しく接してくれる。
でもそれは、昔からの知り合いとしての親しみなのかもしれない。
高校で告白を断られた相手に、そう簡単に想いを寄せ続けられるものだろうか。
蛍ほど魅力的な人なら、他にもっと良い相手がいるはずだ。
桜庭のように同世代で、蛍を理解し優しくフォローしてくれる人が。
そんな不安が胸をよぎる。
でも同時に、もうこれ以上時間を無駄にしたくないという想いもあった。
尚の言葉が蘇る。
「僕たちみたいに、時間を無駄にしちゃダメだよ」
健吾は決意していた。
今度こそ、自分の本当の気持ちを伝えたい。
責任ではなく愛のために。
義務ではなく選択として。
たとえ振られても構わない。
今度は健吾から、勇気を出して一歩踏み出したい。
蛍が高校生の時にしてくれたように。
完了証明書を机の上に置いて、改めて自分の自由を噛みしめる。
蛍のことを考えた。
蛍とは、家が隣同士だった。
二軒とも同じ時期に家を建て、健吾は小学校に上がる前に引っ越した。
蛍は生まれる前だったはずだ。
年齢が離れているので、隣に住んでいても一緒に遊ぶことは少なかった。
それでも、蛍が成長して小学校に入学した時は、一緒に学校に通うようになった。
こぼれそうなほど大きな目をした可愛い子で、まるで弟のような存在だった。
蛍がオメガだと気づいたのもその頃だ。
幼いながらも、どこか繊細で優しい雰囲気があった。
だが、しばらくして蛍は引っ越していった。
詳しい事情は知らず、どこに引っ越したかも知らなかった。
子供心に、少し寂しかったのを覚えている。
そして、教育実習での再会。
成長した蛍の姿に、健吾は胸を打たれた。
しかし同時に、最も辛い記憶でもある。
蛍からの告白を断った日のことを、健吾は忘れることができない。
夕焼けに染まった教室で、蛍は勇気を振り絞って想いを伝えてくれた。
その真剣な瞳、震える声。
すべてが健吾の心を揺さぶった。
それなのに健吾は「番がいる」と言って断った。
尚を守らなければという義務感が、蛍の純粋な気持ちを拒絶させた。
あの時の蛍の表情を思い出すたび、胸が締め付けられる。
失望と悲しみに曇った瞳。
それでも「健ちゃんが幸せなら」と言って笑おうとした蛍の健気さが、かえって健吾の罪悪感を深くした。
大学での再会は、三度目の運命だった。
蛍も同じように驚いていたように思う。
けれど健吾は、蛍の気持ちがまだ残っているのかどうか確信が持てずにいた。
高校での拒絶から年月が経ち、蛍の心は変わっているかもしれない。
それでも蛍は変わらず優しかった。
研究室を訪ね、真摯に質問を重ねる姿。
映画について語る時の生き生きとした表情。
健吾の体調を気遣ってくれる温かな眼差し。
バーベキューでのヒートの時も、健吾は蛍のそばにいることができなかった。
番の絆に縛られた自分には、蛍を助ける資格がないように感じられた。
代わりに桜庭や神崎が適切に対応し、蛍を守ってくれた。
心から感謝している。
治療が進み、蛍のフェロモンを感じるようになってから、健吾の気持ちはより鮮明になった。
これは番の絆が弱くなったからではない。
きっと、ずっと前からあった想いが、ようやく表面に現れただけなのだ。
でも、蛍の気持ちはどうなのだろう。
確かに蛍は優しく接してくれる。
でもそれは、昔からの知り合いとしての親しみなのかもしれない。
高校で告白を断られた相手に、そう簡単に想いを寄せ続けられるものだろうか。
蛍ほど魅力的な人なら、他にもっと良い相手がいるはずだ。
桜庭のように同世代で、蛍を理解し優しくフォローしてくれる人が。
そんな不安が胸をよぎる。
でも同時に、もうこれ以上時間を無駄にしたくないという想いもあった。
尚の言葉が蘇る。
「僕たちみたいに、時間を無駄にしちゃダメだよ」
健吾は決意していた。
今度こそ、自分の本当の気持ちを伝えたい。
責任ではなく愛のために。
義務ではなく選択として。
たとえ振られても構わない。
今度は健吾から、勇気を出して一歩踏み出したい。
蛍が高校生の時にしてくれたように。
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