ダークファンタジア番外編

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14部

うれしいアマンザ

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(人間とうまく会話ができるようになってきた。うれしいなあ)
アマンザは人間の言葉を習っていたが、最近スムーズに会話が出来るようになっていた。それが自分でもわかってうれしくてたまらなかった。
(話せば話すほど会話も上達するんだね)

うれしそうな顔で神殿に戻ってきたアマンザを見て、ジンラは「うまくいったんだな」と言った。アマンザがソルのお供で人間界にでかけたことをジンラは知っていたのである。
「はい、うまくいきましたよ。巫女もすっかり元気でした」
「そうか、よかったな」
「それであのーお酒のことでお話があるんですけど、僕、樽を一つもらってもいいですか?」
アマンザはおずおずとジンラに聞いていた。
「ん? 何に使うんだ?」
「実は、人間界で素敵な芸術品を見つけて、どうしても欲しくなったんで、制作を頼んできたんです。僕は人間のお金をもってないので、お酒と交換してもらうことにしました」
アマンザは目を輝かせて言った。
「お酒と交換?」
「はい」
「そうか。まあ、お前も酒造りをしているんだし、うちのお酒はお前のものでもある。お前がそうしたいならしてもいい。お酒を100樽くれってわけじゃないからな。その素敵な芸術品ってなんだ?」
「秘密です。早く神殿に飾りたいな」
アマンザはうれしそうに言ってジンラのそばから去って行った。

その後ラーズが酒をもらいに来たので、ジンラはラーズにその話をした。ラーズはかなり爆笑している。
「アマンザはジンラの酒の価値がわかってないんじゃないのか?」
「うーん、まあ、それはあるかもしれんが、だが、アマンザだって酒の神だ。酒蔵の酒の何割かはアマンザの物だと主張してもいいくらいだからな。アマンザ以外の子供が言い出したことならば、私だってむっとするがな」
「そうか、まあ、アマンザのお酒でもあるというのならば、アマンザがお酒を何かと交換したとしても、変なことではないかもしれないがな。何がほしかったんだろうな」
「私も楽しみだ。もしかして、ジェラルドクラスの者が作った芸術品かもしれないし」
「ジェラルドクラスか。その何かが来たら私にも教えてくれよ」
「ああ。考えてみたら、私は酒と交換に何かを人間にねだった記憶がない。アマンザがうらやましいような気がする」
「なるほど」
「私は心のどこかで、ジェラルド以上に優れた物を生み出せる者などいないと決めつけていたのかもしれない。人間の芸術品にもあまり感心を持ったことがなかった。今まで興味があるのは酒だけだったからな。自分の視野がすごく狭い気がしてきた。今度聖地の博物館にでも行ってみようかな」
「ははは、まあ、神の感性もそれぞれ違うからな。アマンザはそれを見てピピッときたんだろう。もしたいしたものではなくても、怒らないようにな」
「怒らないさ。でも何が来るか気になるな」

木像か、絵画か、それとも石像?

一度気にしたらどうにも頭から離れない。

ジンラは次の日アマンザに聞こうとしたのだが、「僕、あっちのお母さんに会ってきますね。昨日の報告があるんで」と言ってアマンザはさっさと行ってしまった。

「私もあっちのガーベラに会いたい。うらやましい」

その後アマンザは笑顔で帰って来た。
「お母さん元気でしたよ」
「そうか。お前は身軽でいいなあ」
「えへへ」
「ところで、昨日の話だが、お前が気に入った芸術作品がすごく気になってる。私もみてみたい。どこにあるんだ?」
「雷獣の国の巫女が持ってました。彼女はまだ病院にいて、病室に飾ってました。売ってるものじゃないみたいで、頼んでくれるって」
「雷獣の国の巫女か。巫女は子供っていってなかったか?」
「子供ですよ。お父さん行く気なんですか?」
「すごく気になるから見てみたい」
「見に行きましょう!」
「そうだな。行こう」
息子が感動したものをジンラは自分の目でどうしても見たくなった。

「だが、その病院の場所とやらがわからん。そうだ。ヒルデリアに送ってもらおう」
というわけで、ジンラとアマンザは雲の上の神殿にいるヒルデリアに会いに行った。ジンラはその前に農園に行ってでかい葡萄を何個かとってきて袋に入れて持って行った。

「ジンラが巫女に何用なのだ?」
ヒルデリアは当然聞いた。
「実は……」
ジンラはアマンザのことを話して、自分が巫女に会いたい理由も話した。
「芸術品、トルメンタは知っているか?」
ヒルデリアは横にいるトルメンタに聞いた。
「私は気がつきませんでした。私も見てみたいですね。ジンラ様と一緒に行ってもいいですか?」
「では病院に一緒に送ろう。帰りはジンラは自分で帰ることができるからよいな?」
「ああ、帰りは勝手に帰ることにする」

その頃病院にいるララは、まだ雪が積もっているので部屋でこもってガーベラの本を読んでいた。
そこに、ララの世話をしていた女性が慌ててやってきた。
「ララ様大変です! 今日はジンラ様が巫女様に会いにいらっしゃいました!」
「え? ジンラ様? ジンラ様って?」
「お酒の神様のジンラ様です!」
「え……神様? なぜに!?」
「着替える暇がありませんからそのままの格好でお願いします」
「えー」
ララも大慌てだったが、病室の外の者達も大慌てだった。
「ジンラ様ってアマンザ様のお父さんよね?」
ララは鏡を見て慌てて髪を整えたり、スカートのしわを手で払ったりしている。

「ジンラ様がいらっしゃいました!」
(もう来たー!)

ララは慌てて床にひざをついて頭を下げた。
そして恐る恐る顔をあげた。目の前にいたのは紫系統のローブ姿のジンラとおもわしき神、それにアマンザにトルメンタもいた。
(トルメンタ様-!!)
ララはトルメンタが一緒だったのですごくうれしかった。
「急にごめんね。お父さんがさ、僕がほしいと言った芸術品を見たいっていうものだから」
「え?」
「怖いことじゃないから安心してくださいね」
トルメンタがララに近づいて言った。
ジンラが近づいて来て何かをララに渡した。
「贈り物だよ」
アマンザが教えてくれた。
「ありがとうございます」
ララは麻の袋をちらりと明けてみた。紫色のぶどうが5つも入っていた。
「すごい、ぶどうだわ。ありがとうございます」
(神様からもらっちゃっていいのかな? それにしても……ジンラ様迫力、やっぱり大人の神は違う。親方に見せたい!)

「お父さんこっちですよ」
アマンザはジンラにベッドサイドにあるガーベラの切り絵を見せていた。
「ほお」

二人は並んで切り絵を眺めていた。トルメンタもその横に並んでいる。
「こちらが」
「僕、これを見てすごくいいなって思ったんですよ。神殿に飾って毎日眺めたいなって」
「ふーむ」

アマンザとジンラはなにやら話している。するとトルメンタがララに近づいてきた。
「ジンラ様が、他の作品も見てみたいそうです」
「え、あ、そういえば、私も今度見せてもらう約束をしていたんです。今から頼みましょう!」
ララが言った。

こうして、伝令が急ぎ城に飛び、かなりの大騒ぎになった。

「高級馬車をすぐに病院に手配せよ! アーロンにも知らせろ! それからカルロスにも!」
二人は城から離れた場所にいたので、国王は急ぎ伝令を走らせた。幸いなことに、カルロスの屋敷までの道のりはすでに除雪されていたし、屋敷は病院からさほど遠くはなかったので、馬車を出すことができた。この一族は、蛇の国のように思念を使ったりはできないし、瞬間移動もできなかった。その代わり、魔石を作る技術に長けており、攻撃魔法の威力は蛇の一族よりも高い。瞬間移動の代わりに、街と街の間に移動できる魔法陣も完備されていた。

「アーロン、アーロン! すぐに屋敷に戻ってくれ!」
アーロンの元にはランカン王子が自ら伝令に来ていた。アーロンは街の除雪の指示を出している最中だった。
「殿下、どうしたんですか?」
「ジンラ様がお前の作品がみたいといらっしゃったんだ。今お前の屋敷にララちゃんと向かってる」
「は!?」

アーロンが雪で転びそうになりながらなんとか自分の屋敷に戻った時には、ジンラ達はすでに屋敷の中で、アーロンの作品を眺めていた。屋敷の廊下の壁には、アーロンの切り絵がずらりと並べられていた。すべてガーベラである。

離れた所にいた屋敷の使用人達は、膝を突いて涙を流し、執事と母親にいたっては、ララのことを知っていたのでそのこともあり号泣していた。

(ジンラ様……本当にジンラ様がいる!)
半分王子のジョークかと思っていたが、ジョークではなかったようだ。ララはアーロンを見ると近づいてきた。
「アーロンさん、私、ものすごく感動してます。アーロンさんのガーベラ様愛に、本当に感動しました! 素晴らしいです!」
壁に飾ってあったのは、ララがもらったよりも一回り大きかった。どのガーベラも、妖艶というよりは、かわいらしさを感じるものだった。上半身裸のガーベラもいたが、切り絵なのであまり露骨ではなく、芸術的に仕上がっている。

「確かに、素敵な作品ですね」
トルメンタが言った。
『君はガーベラの熱心な信者なんだな。ここにある作品を買うことはできないかな』
ジンラの言葉をトルメンタが通訳した。

「え、あ、気に入った作品がありましたら、どうぞお持ちください」
アーロンは膝を突いてまま答えた。

「今もらってもいいんですか? じゃあソルのも一緒に選んでいいですか?」
アマンザが聞いた。
「どうぞ」
どっちみち構図に悩みまくっていたので、気に入った作品があるのならば、それを選んでいただく方がアーロンにとっても楽である。

『どれにするか悩むな。こっちのユニコーンとたわむれるガーベラもよいし、小鳥と一緒のもいいし……アマンザはどれがいいんだ?』
『悩みますね。どのお母さんもかわいいし』
「どれもいいですよね。ほんと」
神の言葉が分からないララだったが、話の内容はなんとなくわかったようだ。

ジンラとアマンザは悩みまくっていたので、トルメンタはアーロンに近づいて、「あなたは芸術家ですか?」と聞いた。
「いえ、趣味でずっと作っていただけです」
「もったいないですね。あなたの芸術的センスは素晴らしいです」
「ありがとうございます」

『3つまでは選んだが、2つに絞れない。そうだ。1つガーベラに贈ったらいいんじゃないか?』
『ちょっと聞いてみましょう』

「あのー、三つ選んでもいいですか? 1つお母さんに贈りたいんです」
アマンザがアーロンに頼み、アーロンは「へ?」と間の抜けた返答をしていた。

「すごい! ガーベラ様の神殿に飾られるなんて!」
ララは大興奮している。
「し、しかし、私は名の知れた芸術家でもないし……神の国には優れた芸術品がたくさんあるのではないですか?」
さすがにアーロンは戸惑っている。

「そうかもしれないけど、僕はこれが好きです。毎日眺めても絶対飽きないと思います」
「はあ……」
「近いうちにお酒を持ってきますね」
「そのことなんですが、対価をいただくわけにはいきません。どうかお気になさらずにお持ちください」
「僕は払いたいんです」
「アーロンさん、遠慮しちゃだめ」
ララが横で口を挟んでいた。

こうして、アマンザとジンラは気に入った切り絵を三つ選んで持って行った。その頃になり、ようやく息も絶え絶えのカルロスが屋敷に戻ってきた。
「お父さん、遅かったですね」
アーロンが言った。
「ちょっと遠くにいたもんでな。あ、巫女様……」
「カルロス様、いつも学校の行事に来てくださり、ありがとうございます。カルロス様の応援は、いつも励みになってました」
ララは笑顔で言っていた。
「そ、そうですか」
「ううっ……」
執事が嗚咽をもらしていた。
「今日はとても素敵な日でした。アーロンさんの作品がガーベラ様の神殿に飾られるなんて、私もうれしいです」
「アーロン、本当にジンラ様がいらしたのか?」
カルロスがアーロンに聞いていた。
「はい、ガーベラ様が気に入ってくださるかどうかはわかりませんが」
「気に入ってくださいますよ。絶対」

神の国に帰ったジンラは、とりあえず作品をジェラルドの元に持って行った。作品に保護魔法をかけてもらうためである。切り絵を見たジェラルドは、「切り絵とは珍しいですな。なかなか良いですねえ」と言っていた。

アマンザが「最初にソルに選ばせてあげよう」と言ったので、その後切り絵はカサンドラの神殿に移動した。
「え? もうできたの?」
ソルは驚いている。
「実はできてるのを見せてもらって、それをもらってきたんだよ。ソルはどれがいい?」
「うーん、悩むね」
その場にサントスがやってきた。
「あ、ガーベラだ」
「お父さんはどれがいいですか?」
「え? ……どれもいいな」
「1つはここで、もう1つはうちで、残りはお母さんにあげるんです。どれを選んでも、他の神殿で違うのを見る事が出来ますよ」
アマンザが言った。
「小鳥と遊んでるお母さんがいいかな」
ソルが1つ選んだ。
「じゃあうちにはお花一杯のお母さんにしよう」

クーリーフンがガーベラの神殿に戻ると、ガーベラは突っ立って壁を眺めていた。クーリーフンも壁を見た。そこには初めてみる作品がかかっていた。ユニコーンとたわむれる半裸のガーベラである。
「それ、どうしたの? 工房の人が作ったの?」
「ううん。人間が作ったんですって。ジンラがくれたの。先に見つけたのはアマンザなんですって」
「へえ? アマンザ?」
「三つ買ってきて1つはジンラの神殿、もう一つはカサンドラの神殿にあるのよ」
「そうなんだ。これ、紙を切って作ったんだよね」
「そうね」
「飾るってことは気にいったんだ?」
「いーや気に入らない。だって、この私って、なんかかわいすぎない?」
「色気たっぷりのほうがよかったの?」
「うーん、はっ無邪気の塊、あっちの私っぽいかも。これを作った人、あっちの私に会ったのかしら」
「まさか。気に入らないならちょうだいよ」
「だめよー。別に邪魔にならないからここに飾っとく」
「気に入ったんじゃない」
「これを作った人、私のことがすごく好きみたい。私のことをこんな風に思ってくれてる人間は大事にしなきゃね。なにせガーベラといえば、毎晩男とやってる女神だとおもわれがちだからね」
「あながち間違ってもないけどね」

アーロンの屋敷には本当にジンラの酒が一樽届いていた。アーロンは一部をもらい、残りは王家に献上している。噂を聞いた人達から切り絵の制作を頼まれるが、今は心境的にそれどころではなかった。

それから五日ほど過ぎて、聖地からの客人がやってきた。ガーベラの神殿にいる神官らしく、切り絵がみたいというので、アーロンの屋敷に案内された。またもや急なことだったので、アーロンは遅れて屋敷に戻った。金髪の神官はアーロンを見て、「こんにちは、思ったより若い方なんですね」と挨拶した。
「こんにちは。ガーベラ様の神官様というのは本当なんですか?」
「ええ、こちらをどうぞ」
神官はアーロンにちょっとでかい封筒を渡した。
「なんでしょう?」
「私が帰った後に開けてください。ガーベラ様はあの切り絵を見て、かわいらしすぎる、などと言ってましたが、うれしそうでしたよ」
「え? 本当ですか?」
アーロンの目が輝いた。
「はい、本当ですよ」
「よかった。気に入ってくださるかどうか不安だったんです」
「こちらの作品もいいですね。それでは私はこれで、それはガーベラ様からですよ」
「え?」
神官はさっさと屋敷を出て行った。
アーロンは遅れて後を追ったが、神官の姿はすでになかった。
屋敷に戻り、封筒を開いてみた。
色紙のような分厚い紙に、ピンクの女性の右の手形と、ピンク色の唇の跡のようなものがあった。

「え……ええー!!!! ガーベラ様……ええええー!」
アーロンは信じられない面持ちで、しばし色紙を眺めていたのだった。
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