【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編

小さな体を抱きしめてⅡ

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 湯殿からあがると部屋の中にはキュリオの身の回りの世話を担当している女官たちが待機していた。バスローブに身を包んだキュリオの腕の中で丸くなる少女の肌は蒸気し、淡いピンク色に染まっている。

その様子をみた女官のひとりが安心したように言葉を発した。

「とても小さくていらしたので心配しましたが……お体に大事はないようですね」

「あぁ、置き去りにされて間もないのかもしれない。珍しい髪と瞳の色をしているから親もすぐ見つかるだろう」

女官たちはキュリオの言葉に頷きながら、赤ん坊に上質な生地の肌着を着せてやる。女の子らしくピンクの可愛らしいリボンがあしらわれており、白く透き通った肌によく似合っていた。

「んまぁ! 本当に珠のように可愛らしい子っ!!」

うっとりしたように頬を染める彼女たちは次々に赤ん坊を抱きかかえる。赤ん坊はというと、ぐずりもせず、ただ驚いたように彼女らの顔をじっと見つめていた。

――コンコン

そんなとき、和やかな雰囲気に暗雲を齎もらたすノック音が響く。

『……キュリオ様、少しよろしいでしょうか?』

「入れ」

かしこまったような声が扉の外からかかり、キュリオが答えると最近就任したばかりの年若い家臣が深く頭を下げながら入ってきた。

『はっ! 失礼いたします』 

「――赤ん坊の発見された場所、その容姿から現在付近の村や町をあたっております。今のところ有力な情報はありませんが、いささか気になる目撃情報がありまして……」

「……話を聞こう」

ふたりはキュリオの部屋の一角にある白銀の細工が施されている美しいソファに腰をおろした。

 報告を聞きながら運ばれてきた紅茶のカップを手に取るが、民に目撃されたというその内容がにわかに信じられず……美しい王は整った眉間に深い皺を刻んだ。

そして、女官に抱きかかえられている赤ん坊に目を向けると静かに呟く。

(……関連があるとは思えないが……)

「……まさか、な」

「赤ん坊が関係しているかどうかはわかりませんが、その衝撃ののち、あの泉の水が干上がってしまっていたのは事実のようです」

「……警戒心の強い聖獣の森に足を踏み入れる者がそういるとは考えにくいが、第三者が関係していると考えるのが妥当か……」

(我が子を捨ててしまおうと考えている者が聖獣の森に立ち入るようなことがあれば彼らに心を読まれ、自らの命さえも危険にさらされるはずだ)

「ええ、キュリオ様のお力が行きわたるこの悠久の地で、自然に泉が枯れるようなことは今までに例がありません。このまま調査をすすめ、追ってご報告させていただきます。赤ん坊の出生が不明な以上、キュリオ様もどうかお気をつけください」

「…………」

家臣の心配する言葉が聞こえなかったように、キュリオは女官たちに抱えられている幼い少女の姿を静かに見つめている。

  そして彼が部屋を出て行って間もなく食事の支度のため退室した女官たち。
 部屋には幼い赤ん坊とキュリオだけが取り残されていた。

「大人しい子だねお前は」

キュリオは自分の腕のなか、声もあげずじっとしている幼子おさなごに目を向ける。やがて大勢に抱き上げられて疲れたのか、つぶらな瞳がうとうとと閉じかけている可愛らしい姿が視界に飛び込んでくる。

「ゆっくり眠るといい。おやすみ」

 穏やかな笑みを向けたその心には言いようのない感情が込み上げ、彼はその想いを唇にのせるように幼子の額へ優しく口付けを落とした。

それからゆっくり窓辺に近づき手身近な椅子に座ると、いつのまにか夜の帳とばりが降りていることに気付く。

(もう夜か……今日は一日が過ぎるのが早い気がするな)

そのとき、腕の中の小さなぬくもりがわずかに身じろぎした。

(起こしてしまったか?)

手元へと視線をうつしてみるが、起きる気配はなさそうだ。

「お前はどこから来たんだい?」

「…………」

赤ん坊から聞こえてくるのは健やかな寝息だけで反応はない。

(……眠ってしまったか……)

キュリオは指先で赤ん坊の額にかかる前髪を優しく梳くと、彼女の頬に顔を寄せ……囁いた。

「どこから来たかなんて関係ないさ……」

「……あぁ、それよりいつまでも"お前"じゃ可哀想だね」

(明日、ゆっくり考えることにしよう)

わずかに高鳴る胸に気付かずにキュリオは寝台へと向かう。

この白く大きな天蓋てんがいのベッドに、いまだかつて彼以外の人物が立ち入ることはありえなかった。それを躊躇ちゅうちょすることなくそっと胸に抱いた赤ん坊を横たえ、穏やかな寝顔をもう一度見つめる。

「良い夢を……」

半ば離れがたいような気持ちを抑えながらキュリオは音もなく部屋をあとにする。

(あのくらいの子の食事といえば、やはりミルク……だろうな)

キュリオは食事の用意されている広間ではなく、滅多に立ち入らない厨房へと足を向けるのだった――。

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