【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編

小さな体を抱きしめてⅠ

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(キュリオ様……なんてお顔を……)

民や聖獣を愛する王の愛はどこまでも深く、全て平等に向けられているものだ。そして等しく愛しているからこそ、それらに優劣はない。

彼にとって特別な存在など皆無なのだ。

そんな彼を立派な王だという者がほとんどだが、彼の傍で従事する者たちはそう思わない。いくら王といえど、人並みの幸せを得てもよいのではないかと感じているのだ。もちろん王が伴侶を持ってはならないという誓約はなく、彼が一人身なのは心惹かれるような女性と出会っていないことと、……とある問題が関係しているからだと思われる。

「キュリオ様、そのお方はプリンセスですかな? それとも王子プリンスですかな?」

背後から声をかけてきた初老の大臣にキュリオが振り返ると、彼は孫を見るような優しい瞳で赤ん坊を覗き込んだ。

「この愛くるしい表情はきっと……プリンセスだよ」

と、幸せそうに囁いたキュリオ。
赤ん坊が驚かぬようにと声の大きさを気遣う優しさをみせた。

「では、女官らにプリンセスのお召し物を用意させましょう」

「あぁ、よろしく頼む」

再び自室のある最上階を目指すキュリオ。

 最上階をうろつくことができるのはごく僅かで、王の部屋に入ることが許されている者はさらに少ない。身の回りの世話以外で女性を招き入れたことは一度もなく、むしろ赤ん坊が特別というわけでもない。

体力も魅力も桁外れの彼は、呼吸を乱すことなく百以上の階段を滑るように上がっていく。

そして最上階。
正面のバルコニーから夜の帳が降りた藍色の空が見える。

「……常春の悠久とて夜は冷える……」

"もし、この子が一晩寒空の下に置き去りにされていたら……"と考えると胸が痛んだ。

悲しそうな瞳でバルコニーを横目に歩いて行くと、薄暗い視線の先に一際重厚で豪華な扉が見えてきた。キュリオは迷うことなくその中へと入っていく。片手で扉を閉め、腕の中で丸くなる小さな赤ん坊を両手で抱えなおした。

そして部屋の奥へと歩みをすすめ、扉をくぐる。
大きな脱衣所へ到着すると、外套や柔らかい布にくるまれた赤ん坊をあやしながら自身も上質な衣を脱いでいく。

「体が冷えてしまうな……」

その言葉にきょとんと瞳を丸くした愛くるしい幼子を布から抱き上げ、さらに扉をいくと……沸き立った白煙の中へ足を踏み入れた。

 片足を湯の中にいれると、ほどよい温かさがじんわりと体中を駆け巡る。
キュリオの力により癒しや浄化作用をもったこの湯ならば浸かるだけで十分素晴らしい効果が得られるため、あえて体を洗う必要はないのだ。

「お前は熱くないかい?」

 手ですくったわずかな水滴を赤ん坊の体にかけてみる。
すると、きゃっきゃと声をあげて頬を染める幼いプリンセス。

「あぁ、気持ちがいいね」

まるで赤ん坊の言葉を理解しているようにキュリオが微笑む。

彼は広い湯船のなか、夜空を見渡せる開けた場所まで歩き――
外気が頬をかすめるとゆっくり腰をおろした。

「……これなら湯渡りもしないだろう」

赤ん坊の吸い付くような肌を手のひらに感じながら、具合を確かめようとゆっくり体を撫でる。

「大丈夫、悪いところは何もない」

彼女もキュリオの言葉を理解しているのか、それとも穏やかな笑顔に安心したのか……先ほどから機嫌よさげに笑い声をあげている。

「…………」

そんな純真な笑顔をみた空色の瞳は真剣さをおび、やがて悲しそうに眉間へ皺をよせた。

「お前の父と母はどこにいるんだろうね……こんなに可愛いお前を置き去りにするなんて……」

ピチャ――と水音が響き、キュリオの周りを波紋が広がる。

もしかしたら子供を手放さなくてはならない余程の事情があったかもしれない。

しかし国や人々は潤い、捨て子など最近は存在していなかったほどに豊かなのだ。城のそばにある孤児院でさえ、両親に先立たれた身寄りのない子らで、この赤子と同じ境遇の子は誰ひとりいない。

なにも知らぬであろうこの純粋無垢な赤ん坊が不憫でならないキュリオは、その小さな体をそっと抱きしめた。

――すると彼女の手が躊躇いがちに胸元へ伸びてきて……

「心配はいらないよ。私が傍にいる……」

キュリオは赤ん坊の不安を全身で受け止めようと腕に力を込めた――。

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