【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編

舞い降りた天使

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 冷えてしまわぬよう己の外套でその小さな体を包み、白馬へ跨ったキュリオは速度を抑えながらも城へと急いだ。傾いた太陽が西の空を橙色に染めると、ほのかに冷気をおびた風が頬をかすめていく。
 彼の後ろに続く従者たちは、乱れぬ列を成しながら一定の間隔でついてくる。なかには魔術師や剣士がおり、その精悍な顔つきから日々の行いが垣間見ることができた。

 やがて前方に見えたのは淡い輝きを放つ巨大な建造物だ。それこそ王の住まう悠久の城で、彼の身の回りを世話する女官や侍女を含めば数百を超える者たちがここで従事していた。

外壁の門をくぐり馬小屋へ愛馬を連れて行くと、顔を撫でながら労いの言葉をかける。

「たくさん走らせてしまったな。今夜はゆっくり休むといい」

 水まで弾くような艶のある毛並に黒真珠の輝きを秘めた瞳。
そもそも彼は王へ献上されるほど立派な馬ではなく、世話をするにも懐かず音を上げた馬屋の主人から引き取ったのである。そもそも"生活の足"として多く活躍する彼らは、見目の良さだけでは値がつかない。主の言いつけに従順で、どこに繋いでも大人しくしていられる穏やかさが求められるのだ。

 そんな経緯でやってきた白馬のはなしを小耳にはさんだキュリオが馬屋を訪れると、まるで今までの彼とは似ても似つかぬ態度を示してみせたのである。甘えるように頭をさげて頬擦りをし、銀髪の王が行く方へ寄り添って歩こうとする。それから一瞬にしてキュリオの愛馬となった彼は主であるキュリオにのみ心を許し、他の者には一切触れさせない気難しい性格もありのままに受け入れられたのだ。

そして走らせてみれば目を見張るほどの駿馬で、持久力もかなりのものだった。そんな彼を大層気に入ったキュリオは自ら手入れをし、毎日のように馬小屋へと足を運んでいた。

「もう少しお前と戯れていたいところだが……今日のところは失礼するよ」

まるで人間に言い聞かせるように囁くと、白馬の彼も大人しく頷いたようにみえる。

「いい子だ」

最後のもうひと撫でしたキュリオは、待っていた従者をしたがえ城を目指す。
目の前に聳え立つのは巨大な二本の大理石。王の帰還とともにその間にある重厚な扉が音をたててゆっくり開くと、煌びやかなシャンデリアから放たれる光が一同を照らした。

「お帰りなさいませ、キュリオ様」

出迎えた数十人の大臣や女官らが一糸乱れぬ動作で恭うやうやしく頭を下げる。

「あぁ、今戻った。変わりはないかい?」

「はい、何事も起きておりませんわ」

聖母のような笑みをたたえた女官が一歩前に出た。
孤児の報告を受けていた彼女は、主あるじが胸に抱く子をそのまま孤児院へ向かえるつもりで両腕を差し出す。しかし、片腕をあげてそれを制したキュリオ。

「あ、あの……キュリオ様?」

女官が困惑した表情を浮かべると、背後で様子を伺っていた大臣のひとりが慌てたように王の背を追う。

手足の長い彼は早くも巨大な階段に差し掛かり、銀髪を靡かせながら優雅に歩く。そこには口元に笑みを浮かべ、目覚めたらしい赤ん坊へ笑いかける珍しいキュリオの穏やかな顔があった――。
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