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再び、王都へ
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「そなたを責めるつもりはない。
そなたにとっても気に染まぬ結婚を強いたのはこちらなのだから」
フィリップはそう言うと、少しばつが悪そうな目でオレリアンを見下ろした。
「私は、コンスタンス嬢との婚約解消が決まってからその後のことは、全て母上に任せきりであった。
不本意ではあるが見方によっては彼女を捨てた私が、中途半端に関わるべきではないと思っていたのだ。
だから、彼女の新しい婚約者であるそなたのことも、結婚した後のことも、なるべく耳に入らないようにしていた。
知ってしまったら、気になって仕方がないとも思ったからだ。
勝手な話だが、私は彼女に幸せでいて欲しかった。
幸せだと、思い込みたかったんだ。
だが、5ヶ月前にコンスタンス嬢が事故に遭ったと聞いた時、目の前が真っ暗になった。
すぐに駆けつけ、この目で無事を確かめたかった。
その後軽い怪我で済んだと聞いて安堵したが、それを機に、そなたの過去、結婚後の彼女の暮らしぶりを調べさせたのだ」
そこまで言って一息つくと、フィリップは今度は射抜くような強い眼差しでオレリアンを睨みつけた。
「そなたは1年も妻の存在を無視し、捨て置いたそうだな。
先日ヒース侯爵家よりそなたの義母を追い出すためのサインを求められたが、実質ヒース侯爵家の女主人は侯爵夫人ではなく、その義母だったとも聞いている。
たしかに、2人に不幸な結婚を強いたうえ、私は何も知ろうとしなかった。
だから…、コニーが不幸な結婚生活を送っているなら、それは私の罪だ」
またフィリップはコンスタンスを『コニー』と呼んだ。
でももうオレリアンは、それを正す気は起きなかった。
王太子はまだ、コンスタンスに未練があるのだ。
それも、有り余るほどの。
2人は国策で引き裂かれたと言っても過言ではないのだから、余計に想いが残るのは当たり前と言えば当たり前なのだろう。
だが…。
「殿下は思い違いをされています。
たしかに最初は王命で結ばれた私たちではありますが、今は互いに想い合い、自分たちの意思で共にあります。
殿下がご憂慮されることは、何一つないのです」
そう言ってオレリアンはフィリップを見上げた。
しかしフィリップは薄く笑う。
「それはおかしいな、ヒース侯爵。
そなたは1年もの間、妻を自領に閉じ込めたまま会いに行かなかったと報告を受けている」
「それは…」
オレリアンは思わず口を噤んだ。
フィリップはヒース侯爵夫妻について調べあげた上で来ているのだろう。
うっかりしたことを言えばきっとそれを突かれる。
たしかに最初の1年間、コンスタンスを遠ざけ、敢えて夫婦としての生活を送って来なかったのは自分だ。
しかし今は、心の底から彼女を愛し、生涯共にありたいと願っているのに。
黙ってしまったオレリアンを睨み、フィリップが続ける。
「コニーと私は10年間に及ぶ婚約期間があった。
その間婚約者として愛を育み、信頼関係を築いてきたんだ。
私はずっと、コニーと手を携えて歩いていくものだと思っていた。
彼女の手を離すつもりなど、これっぽっちもなかったんだ…。
例え側妃ではあっても、私はコニーを愛し、慈しむと誓える。
夫に捨て置かれる侯爵夫人でいるよりずっと幸せにしてやれると思う」
フィリップの話を聞きながら、やっぱり王族というのは傲慢だ…、とオレリアンは思う。
2人の10年間がどんなものだったのかなんて、オレリアンは知らない。
でも、例え心から想い合っていて、今もまだお互い未練を持っていたとしても、側妃になることが幸せだとは、全く思えない。
2人の妻を持つ夫が幸せだとは思えないし、夫の愛を他の女と分け合う妻が幸せとは、どうしても思えないのだ。
全くもって不敬だが、オレリアンは呆れるようにため息をついた。
「殿下…。何度でも言いますが、コニーと私は想い合っています。
私たちは昨日まで、自領で蜜月とも言うべき2ヶ月を過ごして参りました。
私たちは本当に、幸せな夫婦なのです」
「自領に引きこもっていたのはコニーの療養のためと言うより、醜聞の鎮火をはかってのことであろう?
私はそなたの話は信用出来ない。
もしどうしても夫婦仲がうまくいっていると言うなら、コニーからその言葉を聞かせてくれ」
オレリアンは心の底からウンザリしていた。
王太子でなければ、部屋から蹴り出し、邸からつまみ出すところだ。
しかしそんなことをすればオレリアンの首が飛ぶ。
だからと言って、今のコンスタンスに会わせるわけにはいかない。
フィリップはコンスタンスが事故に遭ったことは知っているが、7歳以降の記憶を失っていることは知らないはずだ。
それはヒース侯爵家とルーデル公爵家だけの極秘事項であるのだから。
「私は本当にコニーを愛しています。
彼女を手放す気はありません。
きっかけはともかく、妻と私は、今は幸せに暮らしているのです。
王太子殿下とはいえ、それを引き裂く権利はないはずです」
「貴様…!不敬だぞ!」
護衛が剣の柄に手をかけるが、いちいち過剰に反応する護衛にもウンザリだ。
貴人の護衛としては当然の反応なのだろうが、理不尽なことを言われているのはこちらなのに。
権力を振りかざす王太子にも護衛にも吐き気がする。
コニーが慕っていた王太子とは、こんな話のわからない人間だったのか?
一体この傲慢で独善的な王子に、どうやって帰ってもらえばいいのだ?
そなたにとっても気に染まぬ結婚を強いたのはこちらなのだから」
フィリップはそう言うと、少しばつが悪そうな目でオレリアンを見下ろした。
「私は、コンスタンス嬢との婚約解消が決まってからその後のことは、全て母上に任せきりであった。
不本意ではあるが見方によっては彼女を捨てた私が、中途半端に関わるべきではないと思っていたのだ。
だから、彼女の新しい婚約者であるそなたのことも、結婚した後のことも、なるべく耳に入らないようにしていた。
知ってしまったら、気になって仕方がないとも思ったからだ。
勝手な話だが、私は彼女に幸せでいて欲しかった。
幸せだと、思い込みたかったんだ。
だが、5ヶ月前にコンスタンス嬢が事故に遭ったと聞いた時、目の前が真っ暗になった。
すぐに駆けつけ、この目で無事を確かめたかった。
その後軽い怪我で済んだと聞いて安堵したが、それを機に、そなたの過去、結婚後の彼女の暮らしぶりを調べさせたのだ」
そこまで言って一息つくと、フィリップは今度は射抜くような強い眼差しでオレリアンを睨みつけた。
「そなたは1年も妻の存在を無視し、捨て置いたそうだな。
先日ヒース侯爵家よりそなたの義母を追い出すためのサインを求められたが、実質ヒース侯爵家の女主人は侯爵夫人ではなく、その義母だったとも聞いている。
たしかに、2人に不幸な結婚を強いたうえ、私は何も知ろうとしなかった。
だから…、コニーが不幸な結婚生活を送っているなら、それは私の罪だ」
またフィリップはコンスタンスを『コニー』と呼んだ。
でももうオレリアンは、それを正す気は起きなかった。
王太子はまだ、コンスタンスに未練があるのだ。
それも、有り余るほどの。
2人は国策で引き裂かれたと言っても過言ではないのだから、余計に想いが残るのは当たり前と言えば当たり前なのだろう。
だが…。
「殿下は思い違いをされています。
たしかに最初は王命で結ばれた私たちではありますが、今は互いに想い合い、自分たちの意思で共にあります。
殿下がご憂慮されることは、何一つないのです」
そう言ってオレリアンはフィリップを見上げた。
しかしフィリップは薄く笑う。
「それはおかしいな、ヒース侯爵。
そなたは1年もの間、妻を自領に閉じ込めたまま会いに行かなかったと報告を受けている」
「それは…」
オレリアンは思わず口を噤んだ。
フィリップはヒース侯爵夫妻について調べあげた上で来ているのだろう。
うっかりしたことを言えばきっとそれを突かれる。
たしかに最初の1年間、コンスタンスを遠ざけ、敢えて夫婦としての生活を送って来なかったのは自分だ。
しかし今は、心の底から彼女を愛し、生涯共にありたいと願っているのに。
黙ってしまったオレリアンを睨み、フィリップが続ける。
「コニーと私は10年間に及ぶ婚約期間があった。
その間婚約者として愛を育み、信頼関係を築いてきたんだ。
私はずっと、コニーと手を携えて歩いていくものだと思っていた。
彼女の手を離すつもりなど、これっぽっちもなかったんだ…。
例え側妃ではあっても、私はコニーを愛し、慈しむと誓える。
夫に捨て置かれる侯爵夫人でいるよりずっと幸せにしてやれると思う」
フィリップの話を聞きながら、やっぱり王族というのは傲慢だ…、とオレリアンは思う。
2人の10年間がどんなものだったのかなんて、オレリアンは知らない。
でも、例え心から想い合っていて、今もまだお互い未練を持っていたとしても、側妃になることが幸せだとは、全く思えない。
2人の妻を持つ夫が幸せだとは思えないし、夫の愛を他の女と分け合う妻が幸せとは、どうしても思えないのだ。
全くもって不敬だが、オレリアンは呆れるようにため息をついた。
「殿下…。何度でも言いますが、コニーと私は想い合っています。
私たちは昨日まで、自領で蜜月とも言うべき2ヶ月を過ごして参りました。
私たちは本当に、幸せな夫婦なのです」
「自領に引きこもっていたのはコニーの療養のためと言うより、醜聞の鎮火をはかってのことであろう?
私はそなたの話は信用出来ない。
もしどうしても夫婦仲がうまくいっていると言うなら、コニーからその言葉を聞かせてくれ」
オレリアンは心の底からウンザリしていた。
王太子でなければ、部屋から蹴り出し、邸からつまみ出すところだ。
しかしそんなことをすればオレリアンの首が飛ぶ。
だからと言って、今のコンスタンスに会わせるわけにはいかない。
フィリップはコンスタンスが事故に遭ったことは知っているが、7歳以降の記憶を失っていることは知らないはずだ。
それはヒース侯爵家とルーデル公爵家だけの極秘事項であるのだから。
「私は本当にコニーを愛しています。
彼女を手放す気はありません。
きっかけはともかく、妻と私は、今は幸せに暮らしているのです。
王太子殿下とはいえ、それを引き裂く権利はないはずです」
「貴様…!不敬だぞ!」
護衛が剣の柄に手をかけるが、いちいち過剰に反応する護衛にもウンザリだ。
貴人の護衛としては当然の反応なのだろうが、理不尽なことを言われているのはこちらなのに。
権力を振りかざす王太子にも護衛にも吐き気がする。
コニーが慕っていた王太子とは、こんな話のわからない人間だったのか?
一体この傲慢で独善的な王子に、どうやって帰ってもらえばいいのだ?
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