7歳の侯爵夫人

凛江

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16歳、やり直し

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ルーデル公爵家からしばらく顔を出すのは遠慮して欲しいと言われてはいたが、オレリアンは毎日欠かさず公爵邸をたずねていた。

コンスタンスに会わせてくれと言うわけではない。

毎日ただ、使用人伝いに花を贈るのだ。



あれから、1ヶ月が過ぎた。

その間コンスタンスはフィリップとの婚約解消の事実を受け止めることに精一杯で、毎日変わる花の存在など目に入っていなかった。

目覚める前の夜、コンスタンスはたしかにフィリップと一緒に舞踏会に参加していた。

もうすぐ16歳になるコンスタンスに、フィリップは『一緒にお祝いしよう』『プレゼントは楽しみにしておいて』と悪戯っぽく囁いていた。

それなのにー。

もう、フィリップには会えない。

フィリップはすでに隣国の王女のものになってしまった。

その事実は彼女の心を抉り、どうしようもない哀しみに毎日泣き暮れた。


最初の半月は家族や侍女たちともほとんど言葉を交わさず、部屋に引きこもっていた。

当然夫の存在も忘れていたし、時々誰かと話をしても、彼の名前が上がることも全くなかった。

そして次の半月で、コンスタンスは自分の中で16歳になっていた。

一緒にお祝いしてくれるはずだったフィリップは居ないし、本当の誕生日はもう少し先らしいのだが。

しかもその時自分は20歳になるという。

混乱と、慟哭の1ヶ月間であった。


だが、この1ヶ月で彼女は、少しずつ、少しずつではあるが、なんとかこの事実を受け止め、この哀しみから這い出そうともしていた。

本来の彼女は、私を捨て、公のために生きるよう教育されてきた人間である。

フィリップが隣国との縁談を受け入れてコンスタンスとの婚約を解消したのは全て国のため。

だったら、やがて王妃になり国に殉ずる覚悟だったコンスタンスも、それに従い、受け入れなくてはならない。

フィリップを1人の男として愛し、恋愛対象として見ていたからこんなに辛いのだ。

そもそもフィリップとコンスタンスの婚約だって、国のためだったのに。

あんなに、いつも凜として貴婦人の模範であれ、と教育されてきたのに、恋に惑わされるとはなんて愚かなことだろう。


1ヶ月かけて、コンスタンスは少しだけ顔を上げた。

周りを見回せば家族や使用人たちが皆気遣ってくれていて、皆にどれだけ心配をかけていたのだろうと今更ながら申し訳なく思う。

そして、部屋の窓辺に飾られている一輪の花にも気づいた。

それは、毎日変わるようだ。


そしてコンスタンスはリアにたずね、それが毎日ヒース侯爵オレリアンから贈られるものだと知った。

この1ヶ月、存在さえ忘れていた夫の名を、初めて認識したのである。


まだ、彼に会う心のゆとりはない。

夫と言われても、コンスタンスにとっては時々見かける近衛騎士で、言葉も交わしたことがない、全く未知の男であったのだから。

金色の髪に蒼い瞳の、容姿の整った男性ではあった。

背が高く凜として、騎士姿で立つ姿は美しくもあったように思う。

だが、彼に対して特別な思いは全く湧いてこなかった。

この先も、彼を夫として受け入れ、愛する日が来るかはわからない。


両親も兄も、急かすことなく、いつまででも、コンスタンスが望む限りルーデル公爵邸にいていいと言う。

お妃教育で忙しかった頃はなかなか甘やかしてやれなかったから、これからたくさん甘えていいんだよ、と言う。

だからしばらくは、その言葉に甘えようと思う。

ただ、もう少し心の傷が癒えたら、夫という男性に会おうとは思う。

こうして毎日花を贈ってくれる彼を放置しているのはさすがに申し訳ないと思うし、いつまでも自分に縛り付けておくのも可哀想だ。

そう。

彼と会って、これからのことを話さなくてはいけないのだろうから。



一方オレリアンは、妻と会えないのはわかっているのに、それでも毎日公爵家に足を運んだ。

「毎日毎日ご苦労様です」

門番にまで憐れむような目を向けられ、オレリアンは苦笑した。

花はほとんど門番に託すのだが、時々リアやエリアスが出て来てコンスタンスの様子を教えてくれる。

『今日は部屋から出てきた』

『食事を一緒にとるようになった』

『時々笑顔を見せるようになった』

などという報告は、オレリアンを喜ばせた。


「君も難儀な奴だよなぁ。
こんなこと、いつまで続けるんだ?」

公爵家からの帰り道、護衛のダレルに胡乱な目を向けられた。

ダレルは乳兄弟であり、2人きりになると突然こんな風にくだけた口調になる。

「さぁ、いつまでだろうなぁ」

そう言ってオレリアンは遠い目をした。

オレリアン自身、いつまでこんなことを続けるのかわからない。

正直、もしかしたら、もうコンスタンスとは二度と会えないのかもしれないとも思っている。

今の彼女の中に、全く自分はいないのだから。

「ただの、自己満足だよな」

ポツリとこぼす主人に、ダレルはなんとも言えない切なげな目を向けた。
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