7歳の侯爵夫人

凛江

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あの日、あの場所で

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「7歳の貴女は、あんなに俺を慕ってくれただろう?
16歳の貴女だって、生涯を共にと約束してくれたはずだ。
俺はどちらの貴女も、可愛くて仕方なかった。
償いで側にいたわけじゃない!
貴女が好きだからだ!
貴女を愛しているんだ、コニー!」

突然の告白に、コンスタンスはさらに目を見開く。

「でも、貴方は償うと…」

「記憶が戻ったばかりで気持ちが追いついていない貴女に愛など告白しても、重いだけだと思ったんだ。
貴女の気持ちが俺に無いのはわかっている。
だから償いなんて狡い言葉で貴女を縛ろうとした」

オレリアンは離縁を切り出したコンスタンスの気持ちをなんとか変えたかった。

だが、あの事故に遭った時、彼女の気持ちが自分から離れていたのは当然のことだしよくわかっている。

『償い』を理由にしてでも、離縁を回避したかったのだ。

「俺はもうコニー無しでは生きていけない。
俺は、貴女と本当の夫婦となり、寄り添っていく未来を諦めたくないんだ。
だから、もしまた何か間違えても、何度でもやり直すと思う。
貴女が好きなんだ、コニー」

オレリアンの涙腺が決壊する。

双眸から大粒の涙がボロボロッと零れ落ちた。

それを見たコンスタンスは息を飲み、そして俯いた。

「でも、貴方が慈しんでくれたのは記憶がない時の私です。
今のを、貴方が愛してくれるとは思えません」

「本当って何だ⁈
全部本当の貴女だろう?
あの、毎日裸足で駆け回った貴女も、俺に歩み寄ってくれると言った貴女も、俺のために手袋を縫ってくれた貴女も、全部本当の貴女だろう?
俺は全部ひっくるめて、貴女の全部が好きなんだ!
どうしてこんなに伝わらない⁈」

「……っ…」

オレリアンは妻の手を握る自分の手に力が入っていることに気づいた。

「…!……すまない…」

手の力を緩めると、妻の右手首は薄っすら赤くなっている。

左手は自傷行為で包帯が巻かれ、右手は夫に強く握られたせいで赤い痕がついた。

オレリアンはその手を見ると、頭を抱えて嗚咽を漏らした。

大事にしたいのに…、傷つけたくないのに…、何故こんなに伝わらないのだろう。

その姿にコンスタンスは絶句し、どうしたらいいのかと手を彷徨わせる。

オレリアンは妻の顔を見ずにすっくと立ち上がった。

今、猛烈に恥ずかしかった。

近衛騎士ともあろうものが、妻に切々と恋情を吐露し、それが伝わらないからといって泣き出すなんて。

妻にこれ以上みっともない姿を晒すのも、彼女を責めるのも嫌だ。

だから、少し離れて冷静になろうと思ったのだ。

隣室にはコンスタンスの母も休んでいるし、侍女も控えている。

コンスタンスが目覚るのを今か今かと待ち焦がれている彼女たちにも、早く伝えてやらなければならない。

「俺は、貴女が嫌がっても絶対に離縁はしない」

妻の顔を見ぬままそれだけ告げると、背を向け、部屋の出口に向かって歩き出した。

だがその背中に、微かな声が投げかけられた。


「……で、……ル」


「………?」


「待っ……て、……ル」


オレリアンが振り返る。


「行か……で、……ル」

コンスタンスはオレリアンに向かって右手を伸ばしていた。

その顔はすでに涙でぐしゃぐしゃになっている。


「……ル、……レール…、オレール…」


オレリアンは走り寄って、その手を左手で掴んだ。

「コニー!」

右手はコンスタンスの背中に回す。

小さな体を包み込むように抱きしめると、彼女はオレリアンの胸に額をつけて、嗚咽を漏らし始めた。


「オレール、オレール…。行かないで…」

コンスタンスは初めて、『7歳の自分』以外で夫を『オレール』と呼んだ。

その可愛らしい呼びかけに、オレリアンは歓喜する。

妻の細い体を、ギュッと、力強く抱きしめた。


「オレール、ごめんなさい。行かないで…」

コンスタンスも、本当は目覚めた時からわかっていたのだ。

自分の心が誰を求めているかなんて。


「オレール、行かないで。ここにいて」

「コニー、俺はここにいるよ。どこへも行かない」

オレリアンは喜びに震えながら、妻の髪を撫でる。

「好き…、好き、好き。オレール、大好き」

妻の口から、夢のような言葉が零れ落ちる。


「好きなの、オレール。ごめんなさい、好きなの」


「俺は…、愛してる。
愛しているんだ、コニー…」


オレリアンはしばらく妻の体を抱きしめ続けた。

妻が泣き疲れて再び眠ってしまうまで。



扉の外では、公爵夫人とリアが聞き耳を立て、もらい泣きをしていた。

隣室の様子でコンスタンスが目覚めたことに気づいたが、ここは、2人きりにしてやろうと気をつかったのだ。


次にコンスタンスが目覚めた時は、両親と兄、リア、アンナ、そして愛おしい夫オレリアンが周りを囲んでいた。

その後夫婦が皆に祝福を受けたのは言うまでもない。
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