97 / 100
あの日、あの場所で
2
しおりを挟む
そもそもコンスタンスが事故に遭ったのは、セリーヌを庇ったため。
しかし事故の直後に意識を失いそのまま記憶までなくしたコンスタンスは、その後セリーヌがどうなったのかも知らない。
オレリアンは戸惑いながら、
「貴女に助けられたおかげで、彼女はかすり傷一つなかったよ」
と答えた。
コンスタンスはとりあえずその答えに安堵する。
オレリアンの大切な人を守れたのだ。
そして畳み掛けるように、
「セリーヌ様をお迎えに行かれなくてよろしいのですか?」
とたずねた。
この8ヶ月余りの記憶を呼び戻してみても、オレリアンの周囲にセリーヌの影は一切無かった。
彼はコンスタンスを連れてヒース領に行ったり、王都では毎日ルーデル公爵邸に通ったりと、コンスタンスに尽くしてきたのだから。
でもその間、彼の想い人であるセリーヌは一体どうしていたのだろう。
「私が記憶をなくしてしまったから、またお2人の邪魔をしてしまったのですか?」
そうだ。
きっとコンスタンスが事故に遭ったせいで、また2人が一緒にいられなくなってしまったのだ。
「私のせいで…、」
「違う!」
オレリアンは引き抜かれた妻の手を再び掴んだ。
「彼女とは…!ノントン子爵夫人とは二度と会わない!」
「…え?」
「そもそも、迎えに行こうなどと思ったこともないし、そんなこと、するはずがない。
彼女とは貴女と婚約するかなり前に、すでにちゃんと終わっていたんだ。
正直あんな騒ぎを起こされて迷惑だし、貴女に怪我をさせられて憤りこそすれ、やり直したいなどと思うはずがない」
「…迷惑…?」
「ああ、迷惑だとも。
人妻が男に迫るなど…、しかも妻のいる男に迫るなど、正常な人間のすることではない。
だから夫であるノントン子爵にそう抗議したんだ。
彼女は今、夫に軟禁されているらしい」
「…軟禁…!」
「当然の処置だよ。
俺を冷たい男だと蔑むか?
でも、貴女をあんな目にあわされ、許せなかったんだ。
いや…、一番悪いのは俺なのに、俺は自分を差し置いて子爵夫人や義母を罰した」
「…お義母様も⁈」
そう言えば、この8ヶ月を振り返ってみても、義母のカレンの姿も見えなかった。
「ああ、貴女には義母のことも話さないとな。
義母…、いや、あの女が貴女と俺にしていたことが全てわかったんだ。
あんな女を放置していたこと、本当に申し訳なかった」
オレリアンはコンスタンスに対するカレンの罪を話した。
そして今彼女が実家のダドリー男爵の領で監禁されていることも。
「そんなことが…」
コンスタンスは絶句した。
オレリアンとのすれ違いの陰に義母の思惑があったなんて。
そして自分が記憶を失っている間に、オレリアンはそれを取り除くべく奔走していたなんて。
思えば、王妃の思惑で結婚が決まり、義母の思惑で夫とすれ違い、なんて他人に振り回される結婚生活なのだろうか。
コンスタンスは夫を見つめた。
彼はコンスタンスとの結婚生活を憂いなく送るために義母や元恋人を排除した。
本気でやり直したいと思っていなければ、きっとそんなことはしない。
彼は本気でコンスタンスに償う気なのだ。
でも償いで一生側にいて、果たして彼はそれで幸せなのだろうか?
「…オレリアン様」
コンスタンスは夫の手を握り返し、微笑んだ。
「償いはもう、十分にしていただきました。
貴方はもう、自由になってもいいのですよ?」
オレリアンは目を見開き、妻を見つめる。
「自由?どういうことだ?
それに俺はまだ何も貴女に償ってなどいない」
「いいえ、貴方は十分すぎるほど償ってくださいました。
7歳の幼女のようになってしまった私に飽きもせずに付き合い、貴方の存在さえ忘れ、冷たく接した16歳の折にも、こんな私に毎日会いに来てくださいました。
そして王宮では、王族を敵に回すのも厭わず私を助けてくださいました。
もう、十分すぎるほどではありませんか?」
「あれは…、あれは、償いなどではない!」
オレリアンは縋るような瞳をコンスタンスに向けた。
その蒼い瞳は潤んでいるように見え、コンスタンスは驚きに目を見開く。
しかし事故の直後に意識を失いそのまま記憶までなくしたコンスタンスは、その後セリーヌがどうなったのかも知らない。
オレリアンは戸惑いながら、
「貴女に助けられたおかげで、彼女はかすり傷一つなかったよ」
と答えた。
コンスタンスはとりあえずその答えに安堵する。
オレリアンの大切な人を守れたのだ。
そして畳み掛けるように、
「セリーヌ様をお迎えに行かれなくてよろしいのですか?」
とたずねた。
この8ヶ月余りの記憶を呼び戻してみても、オレリアンの周囲にセリーヌの影は一切無かった。
彼はコンスタンスを連れてヒース領に行ったり、王都では毎日ルーデル公爵邸に通ったりと、コンスタンスに尽くしてきたのだから。
でもその間、彼の想い人であるセリーヌは一体どうしていたのだろう。
「私が記憶をなくしてしまったから、またお2人の邪魔をしてしまったのですか?」
そうだ。
きっとコンスタンスが事故に遭ったせいで、また2人が一緒にいられなくなってしまったのだ。
「私のせいで…、」
「違う!」
オレリアンは引き抜かれた妻の手を再び掴んだ。
「彼女とは…!ノントン子爵夫人とは二度と会わない!」
「…え?」
「そもそも、迎えに行こうなどと思ったこともないし、そんなこと、するはずがない。
彼女とは貴女と婚約するかなり前に、すでにちゃんと終わっていたんだ。
正直あんな騒ぎを起こされて迷惑だし、貴女に怪我をさせられて憤りこそすれ、やり直したいなどと思うはずがない」
「…迷惑…?」
「ああ、迷惑だとも。
人妻が男に迫るなど…、しかも妻のいる男に迫るなど、正常な人間のすることではない。
だから夫であるノントン子爵にそう抗議したんだ。
彼女は今、夫に軟禁されているらしい」
「…軟禁…!」
「当然の処置だよ。
俺を冷たい男だと蔑むか?
でも、貴女をあんな目にあわされ、許せなかったんだ。
いや…、一番悪いのは俺なのに、俺は自分を差し置いて子爵夫人や義母を罰した」
「…お義母様も⁈」
そう言えば、この8ヶ月を振り返ってみても、義母のカレンの姿も見えなかった。
「ああ、貴女には義母のことも話さないとな。
義母…、いや、あの女が貴女と俺にしていたことが全てわかったんだ。
あんな女を放置していたこと、本当に申し訳なかった」
オレリアンはコンスタンスに対するカレンの罪を話した。
そして今彼女が実家のダドリー男爵の領で監禁されていることも。
「そんなことが…」
コンスタンスは絶句した。
オレリアンとのすれ違いの陰に義母の思惑があったなんて。
そして自分が記憶を失っている間に、オレリアンはそれを取り除くべく奔走していたなんて。
思えば、王妃の思惑で結婚が決まり、義母の思惑で夫とすれ違い、なんて他人に振り回される結婚生活なのだろうか。
コンスタンスは夫を見つめた。
彼はコンスタンスとの結婚生活を憂いなく送るために義母や元恋人を排除した。
本気でやり直したいと思っていなければ、きっとそんなことはしない。
彼は本気でコンスタンスに償う気なのだ。
でも償いで一生側にいて、果たして彼はそれで幸せなのだろうか?
「…オレリアン様」
コンスタンスは夫の手を握り返し、微笑んだ。
「償いはもう、十分にしていただきました。
貴方はもう、自由になってもいいのですよ?」
オレリアンは目を見開き、妻を見つめる。
「自由?どういうことだ?
それに俺はまだ何も貴女に償ってなどいない」
「いいえ、貴方は十分すぎるほど償ってくださいました。
7歳の幼女のようになってしまった私に飽きもせずに付き合い、貴方の存在さえ忘れ、冷たく接した16歳の折にも、こんな私に毎日会いに来てくださいました。
そして王宮では、王族を敵に回すのも厭わず私を助けてくださいました。
もう、十分すぎるほどではありませんか?」
「あれは…、あれは、償いなどではない!」
オレリアンは縋るような瞳をコンスタンスに向けた。
その蒼い瞳は潤んでいるように見え、コンスタンスは驚きに目を見開く。
234
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。
MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。
記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。
旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。
屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。
旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。
記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ?
それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…?
小説家になろう様に掲載済みです。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。
記憶が戻ったのは婚約が解消された後でした。
しゃーりん
恋愛
王太子殿下と婚約している公爵令嬢ダイアナは目を覚ますと自分がどこにいるのかわからなかった。
眠る前と部屋の雰囲気が違ったからだ。
侍女とも話が噛み合わず、どうやら丸一年間の記憶がダイアナにはなかった。
ダイアナが記憶にないその一年の間に、王太子殿下との婚約は解消されており、別の男性と先日婚約したばかりだった。
彼が好きになったのは記憶のないダイアナであるため、ダイアナは婚約を解消しようとするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる