世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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「おそらく群れからはぐれたのだろう、魔獣に襲われているところを拾ったんだ」
 王様みたいな精霊が、痛ましげに顔を歪めたので俺は少々うろたえた。
 いや、俺は不死鳥を探すため、一人で村を飛び出したんだ。はぐれたわけではない。

 その言葉は、彼には伝えられなかった。
 なぜって彼が急に、布の隙間に手を突っ込んでするりと俺の腹を撫でたからだ。
 突然の行動に驚いて、俺は「ひえっ!」と情けない声を上げた。
「今は落ち着いているが、痛みが出るかもしれない」

 彼の美しい顔に下心めいたものはない。単純に俺を案じてくれているようなので、文句も引っ込んでしまった。
「助けてくれたんだね、ありがとう」
「素直なひなには褒美を与えなくてはならないな。喉が渇いただろう。――そら」

 と、指を一本ピンと立てる。今度は何だと身構えたところ、彼の爪の先にみるみる水が溜まって、飴玉みたいな丸い形になった。

「すごい……」

 不思議でたまらなくて、一瞬前にされたことへの抗議なんてどこかへすっ飛んだ。もっとよく見ようと身を乗り出したところ、指ごとひょいと口に突っ込まれる。
「んんっ!?」
「大丈夫だ。充分にあるから、しっかり飲め」

 いや、そういうことじゃない。
 この精霊は、俺のことを本気で『ひな』扱いしているらしかった。

 けれど、落ち着いて味わえばただの水ではなく、ほのかに甘くて俺はすぐに夢中になった。
 カラカラだった喉が満たされ、さすがにもう飲めないと思ったところで、指が離れる。少し名残惜しい。
 ほうっと息を吐くと、彼がじっとこちらを覗き込んでいた。

「どうだ?」
 ようやく羞恥心を取り戻した俺は、恨めしく彼をにらんだ。
「……やり方はともかく、美味しかった。ありがとう」
「やり方?」
「ひなじゃないから、器をもらえれば自分で飲める」
「なんだそんなことか。遠慮しなくていい」

 訴えは、どうにも伝わったふうもなく、彼は俺の背をぽんぽんと叩いた。
「おまえ、自分の名前は言えるか」

 その口ぶりに少々引っ掛かったものの、ひとまず素直に答えておく。
「ルアーカ」
「ルアーカ……。良い名だ。私の魔力を受け入れやすい理由がひとつわかった。おまえは名前に光の輝きを持っている」
 そんなこと初めて言われたから、たくさん瞬きしてしまった。それに……、ひとつって、二個目もあるってこと?
 質問したかったのだが、彼は寝かしつけるみたいに、俺の瞼にそっと手を置いた。

「さあ、もうお休み」
 背中も目もじんわりと温かく、本当に眠たくなってきた。でもせめてこれだけは聞かなくちゃ。
 
「精霊さん」
「私はヴェルアロレイ。ヴェルと呼ばれている」
「ヴェル?」
「そうだ。ルアーカ」

 彼は再び巨鳥の姿になって、俺をふかふかの羽の間に包み込んだ。こうなるともう眠気にあらがえない。
 ちょっとだけ……。

 そう思ったのだが、次に目が覚めた時には夜になっていた。
 外は真っ暗でも、洞窟の中はやっぱり明るい。

 巨鳥も炎のような淡い光をまとっているが、それだけじゃない。彼の周りに、オリーブの実ほどのちいさな光が、わさわさと集まっているのだ。ヴェルアロレイが精霊なら、これらは小精霊とでも呼べばいいのだろうか。青白く繊細で、きれいだった。

 俺は外の様子が気になった。
 ヴェルからもらった布を肩からかぶって、そろりと立ち上がった。足が痛むけど、立ち上がれないほどじゃない。
 腹の痛みにも気づかないふりをした。
 そうして洞窟の出口を目指した。小精霊たちが数匹、心配するかのようについてきた。

 洞窟のすぐ外は岩棚になっていて、ヴェルはここから飛び立つのだろうと容易に想像ができた。
 岩棚から下をのぞき込んで、俺はその場にへたり込んだ。
 月明かりが照らす森の木々が、はるか下に広がっている。間違って落ちれば、命はないだろう。
 星ばかりが冴え冴えと輝いて、生き物の気配は酷く遠い。

 死にかけたって? 本当はもう死んでしまったんじゃないのか。
 だから、精霊に会えたんじゃないのか。
 背筋にぞっと寒気が走り、布をきつく掻き合わせた。
 初めて怖いと思った。

 その時、ふわりと後ろから抱きしめられて、そのまま逞しい腕に抱き上げられた。
「落ちるぞ。落ちれば死ぬ」

  ヴェルの体は温かかった。オレンジ色の瞳は真剣そのもので、彼の言葉はすとんと俺の心に落ちた。
  そうか俺、まだ生きているんだ。

「生きているなら――、帰らないと」
  ヴェルの視線から逃げるように、俺は森へ目をやった。
  そうだ、帰らないと。

  イシャズ、彼のもとへ。

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