世話好きな不死鳥に拾われました!

のは(山端のは)

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髪に触れる

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 イシャズは俺の命の恩人だ。
 彼が病気になって、俺は解決策を求めて単身村を飛び出した。そして山で魔獣に襲われた……らしい。
 そこから先の記憶はなくて、気づけばヴェルの羽の中にいた。
 うっかり世話を焼かれてしまったけれど、こうしてはいられない。
 一刻も早く、村に帰らなくては。

 だが、帰ると口にした途端、ヴェルはピシャリと跳ねのけた。
「ルアーカ、それはダメだ」
 ヴェルは俺を巣に戻して、重々しく首を振る。
「今のままでは、おまえの体がもたない」
「でも――」

 食い下がろうとしたとき、彼は俺の頬を包み込むように撫でた。口答えは許さない、そう言われた気がした。
 だが、そうではなかった。
 彼はむしろ、俺の身を案じているのだ。

「傷が治れば、好きなところに連れて行ってやる。洞窟内は退屈だろうからな」
 ヴェルはきっと、約束を守ってくれる。そう思ったら安心して力が抜けた。
 俺が落ち着いたのを見計らったように、彼は俺を包んでいた布をぺろりとめくった。

「わっ! 急にめくらないで!」
 どこもかしこも隠す暇がなかった。
 こちらの恥じらいなどお構いなしに、俺の足を持ち上げて、ずきずき痛む足首にキスをした。

「ヴェル、何をっ!」

 文句が引っ込んだのは、彼の触れたところがじわりと温まり、痛みが引いたからだ。
 治療されているのだと分かった。……わかったのだが、恥じらいは去ってはくれない。

「……っ、ヴェル!」
 
 彼の手は俺の太ももをたどり、腹を探る。そのままのしかかるようにして一番痛む場所に唇を寄せた。

「んっ!」

 思わず声が漏れた。
 吸いつくというよりは、息を吹きかけるような柔らかな触れ方で、痛みはすぐにくすぐったいような妙な感覚に代わる。
 不快ではない。むしろ心地よいとさえ感じる。
 自然と息が上がって、頬がほてってきた。

「ヴェル、俺、なんか……変」
「それでいいんだ、ルアーカ。魔力が体に巡っている証拠だ。おまえの体が私の魔力に馴染み始めているんだ」
 ヴェルの言葉もふわふわと頭をすり抜けていった。

 いつしか違和感は溶けて、俺はもう彼に身をゆだねるしかなくなった。
  気持ちいい……。
 ずっと味わっていたいのに、腹にもう一度キスをしただけで、彼は顔を上げてしまった。

「……あ……ヴェル、もっと……」
 彼は一瞬目を丸くして、すぐに微笑みを浮かべた。
「ねだるのが上手いな」
 自分が何を口走ったのか気が付いて、カッと頬が熱くなった。
 ヴェルはからかうような笑みを浮かべて、俺に顔を近づけた。
 
「叶えてやりたいが、私の魔力がなじんでからだ」

 そして仕上げとばかりに指先で、腹の上に円を描いてから、そっと俺を布で包みなおした。
 これじゃあ本当に赤ちゃんみたいだ。
 だけど彼はダメ押しのようにまた俺の口に指を突っ込んだ。
「水を飲んだら、休むんだ」
 
 うう……、恥ずかしい。
 でも、絶妙なタイミングなんだよな。実際、のどが渇いている。



 そうしてまたヴェルの羽の間で目覚めると、今度こそ朝だった。
 体に巻き付けていた布は、足元にわだかまっていた。それを体に巻きなおしながら尋ねた。

「ヴェル、俺の着ていた服はないの」
「もう着られないと思うが」

 そう言いながら彼は、どこからともなくボロきれを取り出した。俺の服だった。泥と血で汚れて元の色もわからなくなっているし、腹には大きな穴が開いている。
 俺は思わずうめき声をあげた。清潔な洞窟内でこれを身に着けるのはかえって勇気がいる。

「ひとまず、これでも着ているといい」

 ヴェルは何気ないしぐさで俺から布をはぎ取って、代わりにぶかぶかのローブを着せた。だけどこれじゃあ、どうがんばっても床をこすってしまう。
 何とか持ち上げようと悪戦苦闘していたら、かすかな笑い声が聞こえた。

「可愛いとはこういうことを言うんだな」
 からかわれたのだと思って、俺はムッとして、彼に服を押しつけた。
「返す。そっちがいい」
「そうか?」
 ヴェルは少し不服そうだ。だけどこの布はもう――。
「俺のだから」

 自分でもおかしいとは思う。妙に執着してしまっている。
「ヴェルがくれたんだろ?」
 返せと言われたら、そりゃ返すしかないのだけど、少し抵抗してしまうかもしれない。
「ああ、それはおまえのものだ」

 ヴェルは頬を緩め、俺の頭をなでた。
「可愛いな」
 今度のはなぜかちょっとドキッとした。思わず目を伏せる。
「なるほど。これは悪くない気分だ。――ルアーカ、私も可愛いか?」
「ん?」

 冗談かと思ったが、ヴェルはわくわくした様子で返事を待っている。

「ヴェルはどっちかというと……、かっこいい、だよ」
 瞬きしながら答えると、ヴェルの周りにいた小精霊たちが騒ぎ立てるようにわっと飛び上がり、俺とヴェルの周りをぐるぐるし出した。
 ヴェルは彼らには構わず、俺を見つめたまま会話を続ける。
「かっこいいとはどういうことだ?」
「そ、その……。態度とか話し方とかが、ゆったりしてるところとか。それに美人だし、髪も触り心地がよさそう!」

 焦ってしまって、変なことまで口走った気がする。
 ヴェルは腰まである髪をひょいと一束つかんで、しげしげと見つめた。
「触ってみるか?」
「……うん」

 ちょっと迷ったけれど、好奇心にはかなわなかった。
 ヴェルの淡いピンク色の髪は、とてもすべらかなさわり心地で、やっぱり少し暖かかった。羽毛のさわり心地と少し似ていた。
 髪に触れるため近づいたから、果実にも似た彼の香りがたっぷりと鼻に届いた。
「ヴェル、いい匂いがする」
 あまりにいい匂いだから、もっとかぎたくなって気づけば彼の胸のあたりに顔をうずめている。

 ああ、やっぱり変だ。
 イシャズのことが心配だし、焦る気持ちも確かにある。それなのにヴェルにくっついていると、安心のほうが勝ってしまう。
 まるで思考に靄がかかったみたいだった。
 ヴェルが怒らないのをいいことに、しばらく彼の匂いを嗅いでいるとふと疑問が湧いてきた。

「ヴェル、鳥の時と人の時で匂いが違うのはどうして?」
「うん? そうなのか? 気にしたことはないな」
 しゃらりと金の耳飾りを揺らして、ヴェルは首を傾げ、小精霊たちに目を向ける。彼らはふるふると震えたものの、何を伝えたいのか、俺にはさっぱりわからなかった。

「これって精霊なの? ヴェルは言葉がわかるの?」
「精霊のひなだ。言葉など持たない。彼らはただ、強い力に集まる習性がある。集まって一つになり、より強い精霊になる日を待っている」

 ヴェルの語る精霊の世界を、感心して聞く一方で、俺は強く思った。イシャズにも聞かせてあげたいって。
 彼は魔法を学んでいたから、きっとこういう話に興味がある。
「あの、ヴェル――」

 言いかけたそのとき、ヴェルの視線がふっと洞窟の出口へ向かった。
 小精霊たちもサワサワした。
 何かが来る。
 だけど、ヴェルたちの反応からして、悪いものではなさそうだ。

 いったい、誰が来たんだろう。

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