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布の持ち主
しおりを挟む「ヴェルー! 来たよ!」
明るい声だ。だが、光を背にこちらへ向かってくるシルエットがどこかいびつだ。背は低いのに頭はかなり大きくて、ずんぐりしている。
怯える俺の背中をヴェルは後ろ手に軽くさすった。
「案ずるな、布の持ち主だ」
「あ、ヴェル、珍しい! 人型になってる!」
ずりずりと引きずるような音をさせながら、そいつは巣の中まで入ってきた。頭としっぽだけ見ればトカゲだ。二足歩行のトカゲが、都会人の好むような、ちょっと洒落た服を身につけているのは奇妙で、見ようによっては愛嬌があると取れるかもしれない。
でも俺にとっては警戒対象だった。
「カワイイネ、カワイイネ! その服すごく似合ってるヨ。まあ見立てたのはボクなんだけどネ!」
トカゲがふんぞり返ると、小精霊たちまで応援するようにピカピカ光った。
なんとなく、裏切られたような気分だった。
俺はヴェルの腕の間から顔だけ出してじっと相手を窺った。
すると向こうも俺に気づいて騒がしく指をさした。
「うわ、ナニソレ!」
「リィ、静かに。ルアーカが怯えている」
トカゲは多少声のトーンを落としたものの、胡散臭そうに俺をじろじろと見た。俺は思わず、ヴェルの背中に隠れなおした。
魔力……なんだと思う。ヴェルの魔力は柔らかく包み込む感じなのに、トカゲの魔力はビリビリして不快だ。
「人の子? 拾ってきたの?」
「ああ。今、育てている」
「なんでわざわざ、そんなまずそうなものを……」
「リィ? 私のひなが怯えている。そろそろその威嚇、引っ込めたらどうだ」
ヴェルの声が一段低いものに変わった。するとトカゲは「ヒィ」と小さく息を飲んで黙った。
ビリビリする魔力が収まって、俺はようやくほっとして、またヴェルの腕の間から顔を出した。
「ヴェル、このトカゲは何?」
「トカゲだってぇ! ボクはコウキなサラマンダーだぞ」
大きな声に驚いて、やっぱり引っ込もうとしたところ、ヴェルが小さく噴き出した。
俺の行動というよりは、きっとあいつの口ぶりに笑ったんだ。そう思っておこう。
そろりと後ろへ下がって、なかったことにしようとしたのだけど、無理みたいだ。ヴェルはひょいと腕を伸ばして俺を捕まえると、自分の体の前に抱え込んだ。
「ルアーカ。彼はリィだ。君が好んで巻き付けているその布も元は彼のものだぞ」
「……それ、アゲチャッタの?」
「まずかったか?」
「ベツにイイケド」
リィがもごもご言った。気に食わないのはまるわかりだったが、俺も譲る気はない。むしろ取られたりしないように腕を回してぎゅっとつかんだ。
「布の回収に来たのではないのか」
ヴェルの言葉に、リィは肩をすくめる。
「まあね、ちょっと見て回るね」
そういって、あちこち布の様子を見ては「コレはもうヨサソウ」「コッチはモウチョイ」などと一人でぶつぶつ言っている。
「ソウダ、ヴェル、また石をモラッテもいい?」
「ああ、好きに持っていけ」
トカゲは怖いが、何をするのか興味はあった。こっそり見ていると、トカゲは洞窟の壁から赤い宝石のようなものをもぎ取った。
「ヴェル、あれは何?」
「魔石だ。もとはただの石だが、私がここに住み着いているせいで、時々ああして変質する」
「ふうん」
「こちらもリィに頼みがある」
「ヴェルが? メズラシイね、ナニ?」
「彼にも服を作ってやってくれ」
「ボクが?」
「他に誰ができるというんだ?」
ヴェルが瞬きしながら尋ねると、リィは黙り込んだ。
「……ワカッタ」
いかにも嫌々という感じでうなずいた割に、仕事を始めた途端真剣になった。とっかえひっかえ俺に布を当て、どれが似合うか検討している。
「あの、ありがとう」
少し見直しかけたその時、彼は不意に声を落として忠告してきた。
「ヤサシクされたからってカンチガイするなよ。ヴェルはキミをタベチャウつもりなんだ」
俺はあっけにとられてヴェルを見た。にこりと微笑まれてしまった。
食べるだなんて、なんだか彼とは結びつかない。
「ヴェル、精霊って人間を食べるの?」
「セイレイだって!? なんてブレイなヤツ!」
「え、だってヴェルが自分でそう言った」
「セイレイの中でもフシチョウはベッカクなんだよ。ヴェルがユルしてもボクがユルサナイの!」
聞き取りづらい言葉に、一瞬反応が遅れた。
今、不死鳥って言ったのか……?
頭で理解するより早く、背筋に汗が伝った。
「ヴェルが不死鳥……」
――そんなことって。
「ナニそのマヌケヅラ。ヴェル、こいつの前でずっとヒトだった? あんなキレイなの、フシチョウのほかにいないって!」
俺はイシャズの病を治すため、不死鳥を探していた。けど、まさかヴェルがそうだったなんて。
いや、俺は、わざと考えないようにしていたんじゃないのか――?
「ルアーカ?」
覗き込まれても、俺は顔を上げられない。息すらうまくできなかった。
「どうした、眠たくなったのか?」
違う、と言葉にもできなくて、俺はゆるく首を振った。
「リィ、今日のところは帰れ、ルアーカを休ませたい」
「……ワカッタヨ」
リィを帰すとヴェルは「少しはしゃぎすぎたな」と囁いて、俺を羽の間に挟んで寝かしつけた。
けど俺は、ちっとも眠れなかった。
俺は彼に隠し事をしている。
腹を掻きむしろうとして、ふと違和感に気づいた。なにか、硬いものが爪に当たるのだ。
外に出て確認しようとしたら、小精霊たちが顔面にぺちぺちとぶつかってきた。抜け出すなということらしい。仕方ないので、彼らを羽の中に招き入れて明かり代わりにした。
「なんだこれ……」
ヴェルがキスしたところが、三か所、鱗のように固くなっている。
痒いと思っていた足首にも、同じような鱗ができていた。
ヴェルはなんて言っていた? 確か、魔力によって変質するって。
ううん、その前だ。
確か、俺に魔力を馴染ませるって……。
「そういえばお腹もすかない」
少しだけ、彼のことが怖くなった。
不誠実なのは俺のほうだ。それなのに――。
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