『原作者が消えた世界で婚約破棄されましたが、転生者は負ける気しません』

夢窓(ゆめまど)

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第11話:物語の外にいる誰かの、悪い癖

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夜。

家の灯りはすでに落ち、街も静まり返っていた。
ただ一室、薄く照らされた台所の片隅で、マリーだけが起きていた。

マグカップの湯気もすっかり消えたころ。
ひとり、ノートを広げ、鉛筆を走らせる。

ページにはびっしりと文字。
《バラチカ・原作シナリオ》
《登場人物ごとの行動パターン》
《現実との差異、観察記録》
彼女は、まるで答えを炙り出すように、過去と今を繋ぎ続けていた。

「……アルフォンス」

名前に、少しだけペン先が止まる。

「彼、原作では“空気の読めない変人”だった。王族なのに、選択肢通りに動かない。
でも……あれって、本当にただの“変人”だったのかな?」

彼の言動を、ひとつひとつ思い返す。
決まったセリフを拒むように、いつも“行間”を読もうとしていたあの目。
“空気を読まない”のではなく、“読んだうえで黙殺している”ような振る舞い。

「……プレイヤーの選択肢にない行動。
あれは、“設定外の生き方”をしてる証拠」

次に視線を滑らせたのは、銀髪の寡黙な騎士――カイ。

「カイもそう。神殿で、警護中に鼻歌。
原作では“無音主義”の徹底ルートのはずなのに」

彼が無意識に口ずさんでいたメロディ。
それは、かつて息子が夕飯を待ちながら鼻歌まじりに歌っていた――
『前世のアニメ、ドラ○もんのエンディング』だった。

「完全に、転生者の癖。あの癖は、ゲームじゃプログラムされてなかった」

そして今日、新たな違和感がまた一つ。

「“レキシエル”」

ページの余白に、その名をくっきりと書き込む。
その文字列は、記憶の中の“プレイデータ”にはなかった。
だが、βテストの噂掲示板、開発者の裏話、バグデータ抽出ログ――

「“存在しない”んじゃない。“削除された痕跡がある”のよ。
つまり、“予定されていたけど、表に出なかった答え”」

マリーは一度、ペンを置いた。
ノートを閉じるでもなく、ページを見つめたまま、ぽつりと呟いた。

「この世界に、存在するはずのなかった“答え”が現れ始めたとき……
それは、“物語を書いていた誰かの癖”が、漏れ出した証拠」

つまり。

(この物語の“神様”――原作者は、まだこの世界の“内側”にいる)

ノートの角に、無意識に線を描きながら、マリーは目を細めた。

「……観察者でも、外部プレイヤーでもない。
世界の内側にいる、“脚本を綴る誰か”。
物語の筋を、伏線を、結末を――いまだに自分で動かしてる者がいる」

言葉は、静かに、でも確実に熱を持ち始める。

「ねぇ、“神様気取りのストーリーテラー”。
どこに隠れてるの? そのご自慢の伏線の中に、ちゃっかり紛れて。
私が、ぜんぶ暴いてあげる。……この世界に、“本当の自由”を取り戻すために」

夜の静寂が、何かの始まりを告げていた。
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