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シナリオを書き換える者――アルフォンスの決断
しおりを挟む神殿の天蓋近く。誰にも気づかれないよう、ひとり高みから戦況を見下ろしていたアルフォンスは、
ふっと息を吐いて、自嘲気味に呟いた。
「……あーあ、やっちゃってるなあ。これ、完全に“運営外”のイレギュラーイベントじゃん」
掌に小さな青白い光の粒が灯る。
「転生特典:ログファイル閲覧&編集権限。
僕がもらったのは“システムの外から世界を読む”力。……ずっと使ってこなかったけどね」
彼の目が鋭くなる。
「でも、そろそろ──“観客”をやめても、いい頃かな」
⸻
◆戦場に降り立つ脚本家
神殿の天井が光とともに割れたように揺れ、そこからゆっくりと、まるで舞台の主役のように、アルフォンスが降り立つ。
「──脚本、変更させていただきます」
その一言に、敵側の転生者も、暴走する神殿も、ぴたりと動きを止めた。
「アルフォンス!?」
マリーが驚きの声を上げる。
「なにやってんのアンタ、今さらヒーロー気取り?」
アヤネリアは眉をひそめる。
「んー、ヒーローって柄じゃないけど、
“あの茶番を生き延びた転生者たち”には、これくらいの見せ場があってもいいと思ってさ」
アルフォンスは魔方陣の中央に立ち、右手を掲げた。
「この世界は“物語”だった。僕たちはその一部だった。
でも、原作者が消えた今──続きを書くのは、僕たちだろ?」
彼の言葉に、空間の魔力が震え始める。
「――全員の転生ログ、再同期。
改変された聖女フラグ、“認可フラグの重複確認”から除外。
不正アクセスルート、これより凍結処理に入ります」
神殿の奥に仕込まれていた“強制シナリオ”が、軋むような音とともに崩れ始めた。
「まさか……シナリオを、直接……!?」
敵側の転生者が叫ぶ。
「ええ、システムごと“ログアウト”していただきます」
アルフォンスが冷ややかに告げた。
⸻
◆脚本の再構築
シナリオの崩壊とともに、
“神に選ばれし唯一の聖女”のフラグが解除される。
ミキの額から光が抜け、彼女はふらりと座り込む。
「……あたし、また利用されてた……」
小さく泣きそうになるミキの肩を、アヤネリアがとんとんと叩く。
「うちは怒ってへんよ。立てるか?」
「うん……ごめん」
「ごめんは、一杯飲んでから聞いたる。うち、たぶん泣くから」
そのやりとりを見ながら、アルフォンスはマリーの隣に立ち、ぽつりとつぶやいた。
「脚本、書き直したよ。これで“主人公の席”、空いたけど……どうする?俺は降りたよ。」
マリーは答える。
「……主人公っていうのは、自分で舞台に上がる者よ。
選ばれるんじゃない。自分で立つの。最初から、そう思ってた」
アルフォンスは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、君の物語、期待してるよ。“黒バラのお方”」
◆新しい秩序の誕生 ――転生者管理局・仮設置報告
神殿の石造りの回廊に、静かな陽射しが差し込んでいた。
以前のような張り詰めた空気は、もうない。
書類を抱えて走る修道士も、巡回する騎士も、どこか朗らかな顔をしている。
そして──その神殿の一角には、ひとつの新しい看板が掲げられていた。
【異界来訪者記録課(仮)】
「……なんや、センスのない名前やな」
アヤネリアがため息をつくと、カイが書類を抱えて出てきた。
「正式名称は“異界来訪者管理局”になる予定です。
今は“転生者の登録”と“能力傾向の確認”、あと“適応支援”がメインです」
「ややこし……せやけどまあ、ええことやろ」
アヤネリアは神殿の奥を見やりながら、小さくつぶやいた。
「神さまのフリした“どっかの誰か”が、この世界を私物化してたんやもんな。
そのバグを、転生者が止めた──うちの可愛い夫と、黒バラのお嬢ちゃんと、ついでにミキちゃんも」
「“ついで”言わんといてくださいや」
ミキがぷくっと頬をふくらませて現れる。
今はもう“聖女様”ではない。
けれど、ちゃんと居酒屋に居場所がある。
サカイと結婚して、正式に“人のための祈り”を学び始めていた。
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