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モブとして共に生きる、未来信じて
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その夜、居酒屋「グルメ亭」には、温かな灯りと笑い声が満ちていた。
カウンター席には、マリーとアルフォンス。ミキとサカイも並んで座っている。
奥の座敷では、アヤネリアとカイがちゃぶ台を挟んでじゃれ合っていた。
大皿いっぱいの唐揚げに、ぐつぐつ煮込まれた肉と野菜。
だし巻き玉子、神殿の庭で育てたハーブをたっぷり使ったサラダまである。
「よっしゃ、みんな聞きぃ!」
アヤネリアがぐいっと酒杯を掲げ、居酒屋の空気を引き締めた。
「転生者やら神やら王子やら、まあ、ややこしいことは山ほどあったけどな──
それでもこうして、元気で、生きてて、笑える今がある。それだけで上出来や!」
「うおおーっ!!」
「神殿も少しずつ変わってきた。ミキも酒場で働いとる。カイも最近は私に口答えせぇへん!」
「してませんけど、はいはい」
カイが苦笑しながら酒をつぎ足す。
アヤネリアは満足そうに頷いて、続けた。
「だから今日は、肩書きも特典も忘れて、“ただの人間”として乾杯しようや!
この先の未来が、みんなにとって“幸せに向かう日々”でありますように!」
「「「かんぱーい!!」」」
杯がぶつかる音。笑い声。
その中で、マリーの頬にも、ようやく穏やかな笑みが浮かんでいた。
⸻
◆神殿の新しい風
あれから。
神殿には少しずつ変化の兆しが現れた。
かつて“神の使い”と称され、特別視されていた転生者たち。
その扱いは見直され、今ではこう決められている。
• 転生者には定期的な心のケアと、自身の経験に基づいた報告を。
• 一般人には、“正しい知識と接し方”を啓蒙する場を。
• そして、どんな生まれや立場の者にも、“選択肢”を与えること。
神の代行ではなく、ひとりの人間としてこの世界に生きることが、尊重される時代へ。
「世界って、変わるのね」
ある日の午後、マリーは花壇のそばでそう呟いた。
「うん。たぶん、まだ始まったばかりだけど」
隣で花に水をやっていたミキが、笑ってうなずく。
マリーは青空を見上げて、ぽつりとつぶやいた。
「転生者も、神殿も、王族も――
みんなが“幸せ”になって、なにが悪いのよ」
風がふわりと吹き抜け、
花の香りが、世界をそっと包み込んだ。
⸻
◆“誰かの物語”の外で
ある朝。
市場のざわめきが始まるころ、小さな店の扉がきいと開いた。
「アルとマリの雑貨と紙もの屋」。
それが、ふたりが始めた新しい日々の拠点だった。
木の棚には、封蝋スタンプや古地図の複製、彩り豊かなインク瓶。
香りのする紙や小さな便箋が、通りを歩く人の目を引く。
「……アル。紫のインク、そろそろ切れるわよ」
「ほんと? 次はちょっとラベンダー寄りの色、仕入れてみようかな。マリーの好きな色で」
かつて“王子”と呼ばれた男は、今はただの雑貨屋の店主。
マリーはマリーで、黒バラ令嬢などどこ吹く風という自然体だった。
「お客様に、“元・黒バラのお方”って呼ばれてるけど」
「何度言えばいいのかしらね、それ禁止よ」
「でもカッコいいからさ、つい」
「はいはい」
マリーは苦笑して、アルフォンスの額を軽く小突いた。
「あなたって、本気でモブになりきる気あるの?」
「あるよー。“あなたの隣で生きてく”って、そういうことじゃない?」
アルフォンスの笑顔には、かつての軽さと、今の覚悟が共存していた。
マリーはそれを知っていて、受け入れている。
⸻
◆未来という名の、小さな灯
冬のある晩。
店じまいのあと、マリーがふと呟いた。
「ねえ、アル」
「ん?」
「“幸せ”って、もっとキラキラしたものかと思ってた。でも実際は……案外、地味ね」
「うん。だからこそ、ちゃんと見つけて、大事にしないと」
アルフォンスはマリーの手を取って、指先にそっと口づけた。
……その仕草だけは、いつまでもちょっと芝居がかっている。
「あなたは地味じゃないわよ。ほんと」
「お、褒めてくれた?」
「胡散臭いって意味で、だけどね」
ふたりは笑う。肩がふっと近づいた。
「“世界の主役”じゃなくていい。
でも、私の人生の相棒が、あなたでよかったって思う」
──外では粉雪が舞いはじめていた。
誰にも注目されない、“物語の外側”で。
ふたりは肩を並べて、また明日を迎える。
雑貨屋の扉に吊るされたベルが、
小さく、小さく、やさしく鳴った。
カウンター席には、マリーとアルフォンス。ミキとサカイも並んで座っている。
奥の座敷では、アヤネリアとカイがちゃぶ台を挟んでじゃれ合っていた。
大皿いっぱいの唐揚げに、ぐつぐつ煮込まれた肉と野菜。
だし巻き玉子、神殿の庭で育てたハーブをたっぷり使ったサラダまである。
「よっしゃ、みんな聞きぃ!」
アヤネリアがぐいっと酒杯を掲げ、居酒屋の空気を引き締めた。
「転生者やら神やら王子やら、まあ、ややこしいことは山ほどあったけどな──
それでもこうして、元気で、生きてて、笑える今がある。それだけで上出来や!」
「うおおーっ!!」
「神殿も少しずつ変わってきた。ミキも酒場で働いとる。カイも最近は私に口答えせぇへん!」
「してませんけど、はいはい」
カイが苦笑しながら酒をつぎ足す。
アヤネリアは満足そうに頷いて、続けた。
「だから今日は、肩書きも特典も忘れて、“ただの人間”として乾杯しようや!
この先の未来が、みんなにとって“幸せに向かう日々”でありますように!」
「「「かんぱーい!!」」」
杯がぶつかる音。笑い声。
その中で、マリーの頬にも、ようやく穏やかな笑みが浮かんでいた。
⸻
◆神殿の新しい風
あれから。
神殿には少しずつ変化の兆しが現れた。
かつて“神の使い”と称され、特別視されていた転生者たち。
その扱いは見直され、今ではこう決められている。
• 転生者には定期的な心のケアと、自身の経験に基づいた報告を。
• 一般人には、“正しい知識と接し方”を啓蒙する場を。
• そして、どんな生まれや立場の者にも、“選択肢”を与えること。
神の代行ではなく、ひとりの人間としてこの世界に生きることが、尊重される時代へ。
「世界って、変わるのね」
ある日の午後、マリーは花壇のそばでそう呟いた。
「うん。たぶん、まだ始まったばかりだけど」
隣で花に水をやっていたミキが、笑ってうなずく。
マリーは青空を見上げて、ぽつりとつぶやいた。
「転生者も、神殿も、王族も――
みんなが“幸せ”になって、なにが悪いのよ」
風がふわりと吹き抜け、
花の香りが、世界をそっと包み込んだ。
⸻
◆“誰かの物語”の外で
ある朝。
市場のざわめきが始まるころ、小さな店の扉がきいと開いた。
「アルとマリの雑貨と紙もの屋」。
それが、ふたりが始めた新しい日々の拠点だった。
木の棚には、封蝋スタンプや古地図の複製、彩り豊かなインク瓶。
香りのする紙や小さな便箋が、通りを歩く人の目を引く。
「……アル。紫のインク、そろそろ切れるわよ」
「ほんと? 次はちょっとラベンダー寄りの色、仕入れてみようかな。マリーの好きな色で」
かつて“王子”と呼ばれた男は、今はただの雑貨屋の店主。
マリーはマリーで、黒バラ令嬢などどこ吹く風という自然体だった。
「お客様に、“元・黒バラのお方”って呼ばれてるけど」
「何度言えばいいのかしらね、それ禁止よ」
「でもカッコいいからさ、つい」
「はいはい」
マリーは苦笑して、アルフォンスの額を軽く小突いた。
「あなたって、本気でモブになりきる気あるの?」
「あるよー。“あなたの隣で生きてく”って、そういうことじゃない?」
アルフォンスの笑顔には、かつての軽さと、今の覚悟が共存していた。
マリーはそれを知っていて、受け入れている。
⸻
◆未来という名の、小さな灯
冬のある晩。
店じまいのあと、マリーがふと呟いた。
「ねえ、アル」
「ん?」
「“幸せ”って、もっとキラキラしたものかと思ってた。でも実際は……案外、地味ね」
「うん。だからこそ、ちゃんと見つけて、大事にしないと」
アルフォンスはマリーの手を取って、指先にそっと口づけた。
……その仕草だけは、いつまでもちょっと芝居がかっている。
「あなたは地味じゃないわよ。ほんと」
「お、褒めてくれた?」
「胡散臭いって意味で、だけどね」
ふたりは笑う。肩がふっと近づいた。
「“世界の主役”じゃなくていい。
でも、私の人生の相棒が、あなたでよかったって思う」
──外では粉雪が舞いはじめていた。
誰にも注目されない、“物語の外側”で。
ふたりは肩を並べて、また明日を迎える。
雑貨屋の扉に吊るされたベルが、
小さく、小さく、やさしく鳴った。
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