『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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王妃の怒り

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王都・大広間。
重臣たちの前で、王子ハロルドがぽつりと言った。

「ぼく、結婚って好きな人とするものだと思ってたんだよね……」

──沈黙。

「はぁぁぁぁぁぁああ!?」
重臣たちが一斉にのけぞり、
王妃がテーブルをひっくり返す。

「あなた何言ってるの!? 王子なのよ!? 血筋よ! 政略よ!」
バン! バン! と扇が王子の額に直撃。

「痛い! 痛いってば! お母さま~!!」

「身分制度、知らなかったの!?」
「……えっ、知らなかった……」

どよめく大広間。老宰相は溜息をつきながら一言。
「……これは、国難ですな」



ソフィアは静かに微笑んでいた。
「“好きな人と結婚したい”は素敵な気持ちです。
 でもそれを“いい加減に”扱うなら、話は別です。……王族なら、なおさら」

王子の顔はソフィアの言葉を思い出して、朝日に照らされ、土色だった。



数日後、王子は突然「ソフィアを助けに行く!」と叫び、
慣れない旅を決めようとしてよろける。

王妃:「いいから行ってきなさい!」
扇で押し出されるように王宮を出発。

馬車の中では謝罪スピーチの練習に励むも、
緊張で混乱し、叫んだのはまさかの:

「君は最高の……コマだよ!」

侍従に肘で突っ込まれた。



辺境の別荘前では、花を握って土下座。
「ソフィア様~! 戻ってきて~!!」




その夜、王妃に呼び戻される。

「何しに行ったの!? 王子って、何だと思ってるの!?
 “ソフィア様、子羊をお許しください”って、どういう意味!?」

原稿を読んでいた王子は、泣きながら弁解。

「違うんだ……! 結婚って、気持ちが大事なんだと思って……!」

バシン!

「黙りなさい!!!!!」



翌日は贈り物作戦。

・香水 → かけすぎて辺境伯に「何の匂いだ」と言われる

・高級腕輪 → 村の子どもたちに「ソフィア様はそんなの要らないよ」と返される

スピーチ会を開けば、緊張で言葉が崩壊し、
「ソフィア様、僕のパンを受け取ってください」など意味不明発言を連発。

王妃は椅子から転げ落ち、
老宰相は咳払いをしながら笑いを堪える。



最後にはセレナまでもがトドメを刺す。

「殿下……私、殿下が優しくしすぎて怖かったです、だから仕方なく」
(=粘着気味で引いていたと、本気じゃなかったと告白)

大広間はもはや苦笑とため息の嵐。
王子、土下座のまま動けず、
王妃が背後からバシン!

「勉強しなさい! 身分! 政略! 礼儀! 全部ゼロなのよ!」



一方、辺境では──
ソフィアはバルツアーと静かにお茶を飲んでいた。
猫のシャルルがテーブルにのび、
子どもたちが「王子また来たって」と新聞を読む。

「また何かやってるのね」
「……平和ですね」
「うちの国の王子、ちょっとおもしろいから好きよ」

ソフィアはそう言って、紅茶をそっと啜った。




結局――

王子は何度空回りしても、
何を差し出しても、
“心を雑に扱った”という事実だけは、覆せなかった。

それが“ざまぁ”という名の、
ささやかで優しい報いだった。


王妃
あの子の後ろには、筋肉が3人と伯爵が1人いるのよ

王子が「まだソフィアを諦めたくない」と泣きついた夜。
王妃は紅茶を置き、深いため息をついた。

そして静かに、鋭く言った。



「ねえ、あなた。
 ……忘れているかもしれないけれど」

「ソフィアには、兄が2人いるのよ」

「どちらも戦場帰り。
 公爵より体が大きくて、腕っぷしも強い。
 それに加えて、あなたのこと――大嫌いみたい」



王子:「……あ、あの……」

王妃は止まらない。

「そして今、あの子がいる辺境には――」

「辺境伯がいるのよ。
 あの、冷静沈着で頭もキレて、
 しかも“ガタイもいい、剣も使える”、おまけに“猫にも好かれてる”っていう――」

「……あなたの真逆。」



王子、黙る。



王妃、にこりともせず告げる。

「その4人に囲まれて、
 あの子を奪いに行く覚悟、ある?」

「……あなたが。
 ひとりで。
 対抗してみせなさいな?」
「護衛は、無理、あなたを助けれない。」



王子、目を泳がせ、喉が鳴る。

「……む、むりかも……」

王妃、すっと立ち上がる。

「でしょうね。
 生きて帰れる想像、できた?」

「……できません」(ガクブル)




王妃が、紅茶を口に含みながらぽつりと呟く。

「……セレナ。
 ソフィアの兄たちのこと、忘れてしまったのかしら」

「それとも、知らなかっただけなのかしらね、会ってなかったかしら、」

老執事が少しだけ口元を緩める。

「あれだけの騒動を起こして、
 “許される”と思っているなら、
 本当に何も知らないんでしょう」



▪️王妃が冷静に吐くバージョン

「あの子(セレナ)は、
 “あの娘の兄たち”が何者か、知らなかったのかしらね」

「だったら、もう少し早く教えてあげるべきだったかもね。

 “どうしてこの国の騎士団が、あの家をめちゃくちゃ恐れているのか”を」



▪️重臣がひそひそと呟くバージョン

「まさか、公爵令嬢を追い出して、
 筋肉の兄二人と辺境伯の怒りを買って……
 無事でいられると?」

「……セレナ嬢、ほんとうに、わかってなかったのかもしれませんな」


王都の空は今日も澄んでいる。
でも、セレナの胸は、冷たいものが這い上がるようだった。

ソフィアの兄が来る。
戦場から戻るらしい。
ふたりとも、戦場帰りだと聞いた。

しかも、王子も顔色を変えるような、“有名な”兄たちらしい。



「兄がいるのは、知ってたの」
セレナは、ひとりごとのように呟く。

「でも……会ったことはなかったの。
 母が結婚してすぐ、あの人たちは戦場に行って……
 私が屋敷に来たときには、もういなかった」

だから、
だからどこかで思っていた。

(もう忘れられてるかも)
(私は“あとから来た人”だし)
(ソフィアが我慢すれば、それでいいと思ってた)



けれど──

扉の向こうから聞こえた足音だけで、
セレナの背中は凍りついた。

床が鳴った。
空気が震えた。

まるで、戦場の空気が屋敷に流れ込んできたようだった。



「ごめんなさい」
誰に聞かれるでもなく、セレナは呟いた。

「“ごめんなさい”で……許してもらえると思ってた」



でも今は違う。
扉が開く、その音だけで分かる。

(これは……“謝って済む話じゃなかった”)


その日、空気が変わった。
屋敷の外で、馬のいななきと重い足音。
まるで地鳴りのような圧。

玄関の扉が開いた瞬間、
怒鳴り声が屋敷中に響き渡った。



「ソフィアをいぢめたのは――どこのどいつだあああ!!」



セレナ、反射的に叫んだ。

「な、ナマハゲ!?」



静寂。

執事が隣で、静かに答える。

「違います。ロイド様です。
 ……筋肉で構成された兄上のほうです」



次の瞬間、背の高い男がずかずかと廊下を進んでくる。
その後ろには、もう一人の大柄な男。無言で肩幅が壁にぶつかりそうだ。



ロイド:「おい、そこのちっこいの。ソフィアを泣かせたのは、お前か?」

アラン:「……俺たち、ずっと我慢してたけど。今日だけは、我慢しない」

セレナ、ぷるぷる震えながら後退り。



(ち、違う、ちが――)

足がもつれて転びかける。



セレナ、目を見開いた。

(“ソフィアが許してくれても”、私は……)

(この人たちに“許されない”――!)


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