『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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『ちょっとだけ……ぎゅって、してもいいですか?』

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マーサ視点(悶絶キュンと焦りの連続)



(言いたい。言いたいけど……どうして口に出しちゃうの、私!?)

心臓の音がうるさくて、もう紅茶の香りもわからない。

ロイド様は、目の前にいる。

いつもの通り、どっしりと静かに、そこにいて。
ただ、お茶を飲んでいるだけなのに。

(ああもう! なんでそんな、ぬいぐるみみたいに落ち着いてるんですか!)



そして、私は――言ってしまった。

「……あの、ロイド様」

彼がゆっくりと顔を向けた。
真っ直ぐな視線が、まるで体温を伴って胸に届く。

「……ちょっとだけ……」

「……はい?」

「……ぎゅって、してもいいですか?」



  沈黙 



ロイド、完全静止。

まばたきもせず、固まったまま、コップだけを手に持っている。

(止まった!? 人間って緊張すると本当に固まるの!?)



ソフィア(少し離れたところから):「……ロイド兄、フリーズ中ね」
アラン:「筋肉って、フリーズすると重さあるからな」
マリーナ:「マーサちゃん、がんばれ~♡」

シャルル:「にゃ(=無理しないで…でも見たい)」



ロイド:「………………」

マーサ:「だ、だめ、ですよね!? ごめんなさい、今の忘れてくださいっ!!」

ロイド:「…………いい、です」

マーサ:「えっ」

ロイド(小声):「……すこしだけ、なら」



マーサの頭が真っ白になった。

(えええええええええ!? 本当にいいって言った!? 筋肉ぬいぐるみ、許可出した!?)



ぎこちなく、そっとロイドの腕に触れて、
胸元に顔を寄せて――

(あ、あったかい……大きい……やさしい……)

ほんの数秒、でも一生分の勇気だった。

マーサ:「……ありがとうございました……」

ロイド:「……怖く、なかったか?」

マーサ:「……ぬいぐるみより、安心しました」

ロイド:「……ぬいぐるみ?」

マーサ:「……い、今の忘れてください!!」


『また、ぎゅっとしてもいい時は――(死)』

マーサ視点(この男、破壊力SSS)



ぎゅっとして。
数秒だけ、ロイド様の腕の中にいた。

たったそれだけのはずなのに、
私の心臓はもう、ずっと跳ねっぱなしだった。

(……ぬいぐるみ、より……あたたかかった)



ロイド様は、変わらず無表情気味だけど、
ほんの少しだけ、視線がやさしくなっている気がする。

そして、静かに口を開いた。

ロイド:「……また、ぎゅっとしてもいい時は……教えて」



マーサ:ズドンッッ!! 

私の心に、何かが直撃した。



(……え?)

(え? 何それ。言った? 今、言ったの!?)

(や、やさしすぎない!? 不意打ち!!)



マーサ:「…………」
マーサ:「…………っ、はいっ!!」(変な声出た)



ソフィア(キッチンから小声で):「……聞いた?」
マリーナ:「……聞きました。あれは確信犯です」
アラン:「うん。プロポーズかと思った。違ったけど」
シャルル:「にゃ~(うらやま)」
キティ:「にゃあっ(抱きつきたい)」



ロイド様は何事もなかったかのように、紅茶をすする。

……でも私はもう、何を飲んでも、味なんかわからない。マーサ



マーサ(心の声):

(あんな風に言われたら……
 次も、ぎゅってしてもらいたくなるに決まってるじゃないですか……!!)



『“ぎゅっ”って、週何回が正解なんでしょうか?』

ソフィア視点

昼下がり、カフェの片付けをしていたら、
ひょっこり現れたのは――兄、ロイド。

「お疲れさまです……?」
いつになく落ち着かない様子のロイドに、ソフィアは首をかしげる。

「なにか、あったの?」

ロイド:「……相談がある」

ソフィア:「うん、なに?(まさか筋トレの話じゃないわよね)」

ロイド:「“ぎゅっ”の、頻度について――」

ソフィア:「……ぎゅ?」

ロイド:「……抱きしめる、やつだ」

  間 

ソフィア:「………………………っっっっっ!!??」
シャルル:「にゃっ!?」



ロイドは真剣そのものだった。
顔はいつもの無表情。けれど、声には本気があふれている。

「マーサ嬢が、“また”と言った」
「しかし、また、とは、いつか。どのくらいの間隔が、理想なのか」
「……わからん」

ソフィア:「ぎゅっ……の、間隔……」

ソフィア(心の声):
(え、なにこの相談!? 兄から!?)



「週に一度なのか、日に一度なのか、
 一度ぎゅっとしたら、何日か空けるべきなのか……」

ソフィア:「そんなに論理的に分析すること!?」



ロイド:「ソフィアは、……その、バルツアー殿と……」

ソフィア:「言わせないで!? その話、聞きたくない妹心もあるの!!」



しかし、兄は真面目だった。真剣だった。

「抱きしめることで、怖がらせたくない。
 でも、忘れられるのも困る」
「最適な、“ぎゅ”とは――どれくらいの頻度だと思う?」



ソフィアは黙って、紅茶を一口飲んだ。
そして、ふっと微笑んで答えた。

「……その子が、あなたの“ぎゅ”を、嬉しそうにしてたら」

「――また、したくなったときで、いいと思うわ」

ロイド:「……自由変動制、ということか」

ソフィア:「違うけど、そういう解釈でもいいわ……!」



シャルル:「にゃー(=好きなときでいいと思う)」

キティ:「にゃ(=むしろ自分から行け)」



ロイド:「……ありがとう。参考になった」

ソフィア:「……兄さまが“ぎゅ”の相談してくる日が来るなんてね……」

彼女はふわりと笑って、言った。

「でも、きっと大丈夫。……兄さま、怖くないもん。マーサさん、きっと気づいてる」

ロイド:「……ありがとう」

ソフィア:「ぎゅっ、がんばって」

ロイド:「……ああ」



『私、いつでもどこでもお待ちしてます!(照)』

ソフィア視点(決意の瞬間)

書庫の奥で、彼の低い声が落ちた。

「……私も、参考になった」

それは、独り言のように――
けれど確かに、私に届いた言葉だった。



(聞こえましたよ、バルツアー様)

紅茶の香りがふわりと立つ静寂のなかで、
私は、胸の奥がぽっと熱くなるのを感じた。

(……なら、わたしも言ってしまおう)



ソフィア:「その……バルツアー様」
「わたしも、いつでも――どこでも――お待ちしていても、いいですか?」



 沈黙。そして、爆発 

バルツアー:「……ッ!」

無表情だったその顔に、
スッ――と紅が走った。

(うそ、真っ赤!)



バルツアー:「……………」

彼は言葉を失ったまま、目をそらした。
けれど、耳まで、完全に真っ赤だった。

シャルル:「にゃーん(=レア!レアです!)」



ソフィア:(あれ……これ、今……押せるタイミング!?)

もはや、わたしの中で理性が小さく手を振ってフェードアウトしていく。

そして――

ソフィア:「では、その……行きます!!」

バルツアー:「……え?」



ふわり。

背中に回した腕に、
確かに彼の体温が伝わる。

無言のまま、彼は一瞬だけ固まった――
けれど、そっと、背中に手を添えてきた。

ソフィア:「……ぎゅ、です」

バルツアー:「……ああ、これは……ぎゅだな」



そのまま、静かに、しばらくの間。

誰も喋らず、誰も邪魔しない。
ただ、穏やかなぬくもりが、そこにあった。
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