『悪役令嬢に仕立て上げられたけど、猫カフェを開いたら辺境伯が通ってきます』

夢窓(ゆめまど)

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あの筋肉は、怖いじゃなくて――安心だった

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マーサの心の声(独白形式)



こうして座って、
紅茶を飲みながら見ていると――

(ロイド様って……けっこう、素敵な方だったのね)

最初は、ただただ「大きい」「怖い」って思ってた。

だって、あの背丈、あの肩幅、あの無表情。
黙って立ってるだけで、壁か柱みたいだったし。



けれど。

今日、子どもたちに囲まれて、
ひざに乗せてパンをちぎってあげる姿を見て。

その手が、とてもやさしかった。

声は低いけど、怖くない。
話す言葉も少ないけど、ちゃんと相手を見ている。



……慣れって、不思議。

最初は「この筋肉男どうしよう」って思ってたけど――

今は、なんだか安心する。
むしろ、こう……包まれたらあったかそうというか……?

(ぬいぐるみ、みたい……?)



いやいやいや!

ぬいぐるみって! 私何言ってるのよ!?
貴族令嬢として! もっと理性的に!

(でも、あの腕の中に入ったら……もふもふ……)



しかも、目が合ったとき――
ロイド様が一瞬だけ、すごくすごく、やさしい目をしてた。

あれだけで、心がふわってなって、
もうなんだか、顔が熱くなって――



(だめよ、マーサ。
 政略結婚だし、ちゃんとしたお嬢様らしく……)

でも、

(ちょっとだけ……好きになっても、いいかしら)



『俺たち、ちょっと大きいだけなんです。伝えたいだけなんです。』

バルツアー邸の書斎にて(夜の“筋肉恋バナ”)



夜のバルツアー邸。
灯りの落ちた静かな書斎に、3人の男が集まっていた。

アラン、ロイド、バルツアー。
戦場を駆けたこともある無骨な男たちが、
今夜ばかりは紅茶を前に並んで座る。

目的はひとつ。
“恋の伝え方”について、真剣に話し合うためだ。



アランが切り出す。

「いやぁ、うちはもう新婚バカップルだからね」
「……」
「……」
「……うん、今のは黙って聞き流してくれて構わない」

ロイドが腕を組んで言う。

「……マーサ嬢は、俺を見ると、少し……怯える」

アラン:「うん。兄さん、でかいからな」

ロイド:「……どうすれば、“怖くない”と思ってもらえる?」

バルツアーが紅茶を口に運びながら、ぽつりと言った。

「……小さな声で、丁寧に話すようにしているが……“伝わっていない”ことは多い」

アラン:「うちのマリーナ、最初バルツアーさんのこと、全然怖がってなかったよな?」

バルツアー:「……マリーナは、私の屋敷で働いていた。慣れ、だ」

ロイド:「……ソフィアもそうだ。“筋肉”を怖がったことがない。兄がふたりいるからか」

アラン:「つまり――慣れてない子に、いきなり“筋肉系の愛”をぶつけると、誤爆するんだよな……」



沈黙。

3人は一斉に、紅茶をすすった。



ロイド:「マーサ嬢は……普通の女の子なんだな」

アラン:「うん、ほんとにな。だからって、“じゃあ小さくなる”のは無理だしな」

バルツアー:「……要は、“気持ちをちゃんと伝えるための一言”が必要なのだと思う」

ロイド:「……決定的な一言」

アラン:「でも、それが一番難しいんだよな。言い慣れてないし」



3人が黙る。

そして、同時に目を閉じて考え込んだ。

紅茶の香りが、静かに漂う書斎。
誰もふざけず、誰も誤魔化さず、
ただ――

「どうしたら、大事な相手に“怖くない”って伝わるか」
それだけを、真剣に考えている。



バルツアー:「……“私は、あなたを大切にしたい”」

アラン:「それ、言えるか?」

ロイド:「…………(口パク練習中)」

アラン:「……がんばれ、兄さん。恋は、筋トレと一緒だ。最初はきつい」



シャルル:「にゃあ(がんばって)」
キティ:「にゃっ(筋肉、ファイト)」


ロイド、決意の告白(噛む)】

翌日、アラン邸の庭で。
ロイドは深呼吸してから、マーサの前に立った。

ロイド「ま、マーサ嬢……お、俺は……あなたを、たい、せ、つ……っ」
マーサ「……?」

ロイド「……だめだ、噛んだ……」
マーサ(くすっと笑って)「もう一度、お願いします」



【マーサ、耳赤くして】

ロイド「……私は、あなたを、大切にしたい」

マーサ「…………」

その言葉に、耳まで真っ赤に染まる。

マーサ「はい。わたしも……そう思えたら、嬉しいです」



【バルツアーの静かな告白】

紅茶を並べるバルツアーとソフィア。
彼が、ぽつりと口を開いた。

バルツアー「……私も、慣れていなかった。伝えるということに」

ソフィア「……え?」

バルツアー「あなたの手が、冷えていないか、気になっていた。
あなたが笑っていると、……私は、安心する」

ソフィア(紅茶のカップを持ったまま、固まる)

バルツアー「……私は、あなたを、大切にしたい」

カップがカチリと揺れた。
ソフィアは真っ赤になりながら、心の中で叫ぶ。

(や、やられました……!)




『ロイド様って、ぬいぐるみですか?(違います)』



マーサ視点

紅茶のカップを置いた瞬間、
ふと、ロイド様の背中が目に入った。

(……大きい。やっぱり)

肩幅も、腕も、手も。
“すごい”の一言に尽きる、筋肉量。

けれど。

(……なんでかしら。もう、怖くないのよね)



最初に会ったときは、緊張で声も出なかった。
でも今は、その後ろ姿を見ていると――

(……なんか、安心する……)



……ふわふわしてるわけじゃない。
でも、がっしりしてて、温かそうで。

(あれ……?)

(これ、もしぬいぐるみだったら――)



(抱きつきたいくらい……?)



脳内に浮かんだ、シミュレーション。

ベッドの上に、ロイド様サイズのぬいぐるみ。
ふかふかの筋肉。ちょっと無表情。無口。だけどあったかい。

マーサ(妄想):
「おやすみなさい、ロイド様♡」
ロイドぬいぐるみ(無言でぽんぽん)



(……だめだわ、もう私、末期かもしれない)



ふと、視線に気づかれたのか、ロイドがちらりとこちらを見た。

ロイド:「……?」

マーサ:「っ、なんでもありませんっ!!」(ぶんぶん)

(思わず抱きつきたくなったなんて言えない!!)



ロイドは怪訝そうな顔をしつつ、紅茶を差し出してくれた。

「……温かいうちに、飲んだ方がいい」

マーサ:「は、はい……ありがとうございます……っ」

(しかもやさしい……ぬいぐるみじゃない……やさしい実物です……)



ソフィアが隣から、そっと声をかけた。

「……ねえ、顔……ちょっと赤いけど?」

マーサ:「……気のせいですっ!!!」

(これが、恋なんですのね!?)

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