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第一章 聖者召喚と騎士団
02.聖者のためらい
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どうして自分はこんな所にいるんだろう。
甲斐真柴は案内された簡素な椅子に腰掛け、胸まで髭を生やした老人の顔をまじまじと見た。眉毛も長く、目が隠れてしまっている。しかも、古代ギリシャの壁画に出てくるような服を着ている。
(どっきり……とかかな?)
だが周囲を見回してもカメラらしきものどころか、コンセントすらここにはない。
そんな中、伝えられたことに驚く以外なかった。
「聖者しょうかん……ですか?」
「そうじゃ。お前さんを召喚した一番偉い人が、わし。わかったか?」
いや、ちっとも分かりません……と言いたいのをグッと飲み込んで小さく頷いた。
「えっと……この世界は魔獣がたくさんいて、それであなた方が僕を召喚した、ということですね」
相手の言葉を復唱すれば、嬉しそうに頷いて髭の先を摘まんだ。
口にしてみたがさっぱり分からない。
「どうして召喚したんですか、僕を」
「さてなぁ、誰か来るかなんかわからん。神様が決めるからのぉ」
「……そう、ですか」
やっぱり分からない。
(うん、天国じゃないのは確かだ)
真柴は頷いていつものように少しだけ口角を上げた。もう癖のようなもので、その場を諦めるときにする癖だ。
「分かりました」
やれば良いんだ、やれば。何も考えないでただ言うとおりにすれば、きっと良いんだろう。真柴は撫でた肩をさらに落として小さくなった。
こうしていても状況の打開にはならないと知っている。
なぜ自分がここにいるのか。
ここで何をしなければならないのか。
果たしてできるのかどうか。
何一つ自信はない。けれど少しでも口角を上げていれば、誰からも怒られはしないだろう。
「そうかいそうかい。いやー理解のある聖者で助かったわい。さて、お前さんの部屋に案内しようかね。おーい、誰かいるかー」
のんびりとした言葉は危機感はなく、本当に魔獣が存在しているのかすら疑わしくなる。
(ここ、異世界ってやつなのかな……)
どうみても、真柴がいた世界ではない。
窓の外に広がるのは中世ヨーロッパのような街並みだ。
高い塀に囲まれた城郭都市の様相をなし、その中で人々が生活している。この大きな神殿は中央に位置している。そして山を背にして建っているのが王宮だ。
(タイムスリップ……といったほうが納得するな)
街並みだけ見れば。
だがこの世界には魔獣という恐ろしいものが人々の生活を脅かしている、らしい。そして聖者は魔獣をどうにかできる唯一の存在のようだが、自分に何も力がないことは、真柴が誰よりも知っている。
(ただ突っ立って祈ってれば良いのかな? それで褒められるなら……いいのか?)
本当にそれでいいのか?
真柴はちょっとだけ現実に引き戻され、だがまたすぐに心のシャッターを下ろした。
そうすれば傷つかないから。
そうやって生きてきたから。
そっと瞼を閉じればなにも見なくて済む。
「大司教様、お呼びですか?」
「ああ。聖者をな、部屋に案内してやっておくれ」
若い神官に案内されて入ったのは、なんとも言えない部屋だった。
「ここ……ですか?」
「はい。代々聖者が使っている部屋です」
「あ……、はい」
嘘だろ……とあんぐりと口を開いたままでいれば、すぐに扉が閉まった。
代々の聖者がここで過ごしていたと言うにはあまりにも簡素なのだ。木で組んだベッドが一台あるだけで他は何もない。窓にカーテンも掛かってなければ小さな机すらない。本当にベッドだけ、なのだ。
「信じられない」と口の動きだけで呟いてみても、部屋が一瞬にして変わることはない。
「……もしかして、僕は騙されているのかな? いや騙されてる、きっとそうだ」
だって招いたのにこの扱いはないだろう。
と思っていても口に出すことができないのが、日本の社会人。グッと飲み込んで言いたいことを嘆息として吐き出した。
「まあ、なにを言っても仕方ないよな」
諦めが肝心。
期待しないのを当然にすればなにも傷つかない。
真柴は真っ白なシーツが敷かれたベッドに転がってゆっくりと目を閉じた。
(ここでやっていけるのかな……というか、仕事は大丈夫かな?)
突然真柴がいなくなって『あっち』は大丈夫だろうか。もしかしたら捜索願とか出されているのだろうか。
(誰も気にしないか)
ふと昨日までの日々を思い出しそうになって慌てて蓋をした。
大丈夫、誰も気にしない。大丈夫。
そう自分に言い聞かせてゆっくりと目を閉じていった。
妙に身体が重かった。
甲斐真柴は案内された簡素な椅子に腰掛け、胸まで髭を生やした老人の顔をまじまじと見た。眉毛も長く、目が隠れてしまっている。しかも、古代ギリシャの壁画に出てくるような服を着ている。
(どっきり……とかかな?)
だが周囲を見回してもカメラらしきものどころか、コンセントすらここにはない。
そんな中、伝えられたことに驚く以外なかった。
「聖者しょうかん……ですか?」
「そうじゃ。お前さんを召喚した一番偉い人が、わし。わかったか?」
いや、ちっとも分かりません……と言いたいのをグッと飲み込んで小さく頷いた。
「えっと……この世界は魔獣がたくさんいて、それであなた方が僕を召喚した、ということですね」
相手の言葉を復唱すれば、嬉しそうに頷いて髭の先を摘まんだ。
口にしてみたがさっぱり分からない。
「どうして召喚したんですか、僕を」
「さてなぁ、誰か来るかなんかわからん。神様が決めるからのぉ」
「……そう、ですか」
やっぱり分からない。
(うん、天国じゃないのは確かだ)
真柴は頷いていつものように少しだけ口角を上げた。もう癖のようなもので、その場を諦めるときにする癖だ。
「分かりました」
やれば良いんだ、やれば。何も考えないでただ言うとおりにすれば、きっと良いんだろう。真柴は撫でた肩をさらに落として小さくなった。
こうしていても状況の打開にはならないと知っている。
なぜ自分がここにいるのか。
ここで何をしなければならないのか。
果たしてできるのかどうか。
何一つ自信はない。けれど少しでも口角を上げていれば、誰からも怒られはしないだろう。
「そうかいそうかい。いやー理解のある聖者で助かったわい。さて、お前さんの部屋に案内しようかね。おーい、誰かいるかー」
のんびりとした言葉は危機感はなく、本当に魔獣が存在しているのかすら疑わしくなる。
(ここ、異世界ってやつなのかな……)
どうみても、真柴がいた世界ではない。
窓の外に広がるのは中世ヨーロッパのような街並みだ。
高い塀に囲まれた城郭都市の様相をなし、その中で人々が生活している。この大きな神殿は中央に位置している。そして山を背にして建っているのが王宮だ。
(タイムスリップ……といったほうが納得するな)
街並みだけ見れば。
だがこの世界には魔獣という恐ろしいものが人々の生活を脅かしている、らしい。そして聖者は魔獣をどうにかできる唯一の存在のようだが、自分に何も力がないことは、真柴が誰よりも知っている。
(ただ突っ立って祈ってれば良いのかな? それで褒められるなら……いいのか?)
本当にそれでいいのか?
真柴はちょっとだけ現実に引き戻され、だがまたすぐに心のシャッターを下ろした。
そうすれば傷つかないから。
そうやって生きてきたから。
そっと瞼を閉じればなにも見なくて済む。
「大司教様、お呼びですか?」
「ああ。聖者をな、部屋に案内してやっておくれ」
若い神官に案内されて入ったのは、なんとも言えない部屋だった。
「ここ……ですか?」
「はい。代々聖者が使っている部屋です」
「あ……、はい」
嘘だろ……とあんぐりと口を開いたままでいれば、すぐに扉が閉まった。
代々の聖者がここで過ごしていたと言うにはあまりにも簡素なのだ。木で組んだベッドが一台あるだけで他は何もない。窓にカーテンも掛かってなければ小さな机すらない。本当にベッドだけ、なのだ。
「信じられない」と口の動きだけで呟いてみても、部屋が一瞬にして変わることはない。
「……もしかして、僕は騙されているのかな? いや騙されてる、きっとそうだ」
だって招いたのにこの扱いはないだろう。
と思っていても口に出すことができないのが、日本の社会人。グッと飲み込んで言いたいことを嘆息として吐き出した。
「まあ、なにを言っても仕方ないよな」
諦めが肝心。
期待しないのを当然にすればなにも傷つかない。
真柴は真っ白なシーツが敷かれたベッドに転がってゆっくりと目を閉じた。
(ここでやっていけるのかな……というか、仕事は大丈夫かな?)
突然真柴がいなくなって『あっち』は大丈夫だろうか。もしかしたら捜索願とか出されているのだろうか。
(誰も気にしないか)
ふと昨日までの日々を思い出しそうになって慌てて蓋をした。
大丈夫、誰も気にしない。大丈夫。
そう自分に言い聞かせてゆっくりと目を閉じていった。
妙に身体が重かった。
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