召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ

文字の大きさ
24 / 59
第四章 聖者の力の源は

02.副団長、怯む

しおりを挟む
「そんなっ! 俺は反対です!」

 ダンッと机を叩き、唾を飛ばす勢いで怒鳴れば、ローデシアンが困ったように眉間を揉んだ。

「お前がなんと言おうと、次の討伐には聖者は同行させない」
「なにを言っているんですか! それじゃあ獲物が手に入らないじゃないですかっ!」

 冗談じゃない、真柴なしで魔獣と戦うなど。
 ひと冬で行った討伐は今までで一番多く、しかも成果も充分に出した。騎士団の金庫は潤い、装備も充実してあまりある。雪が溶け、ようやく遠方の領地にまで討伐にいけるし、騎士団の評価は今うなぎ登りだ。赴いた地の領主が皆手放しに褒めそやすから、近頃はすぐにわが領地へと貴族たちが詰めかけてきている。

 しかも真柴がいつも良いタイミングで力を発動させてくれるので、いつだって仕事は楽だ。その上無傷の魔獣を手に入れる機会も増えた。いくつかを研究所に送り、彼らの弱点や生態を知ることができればもっと効率の良い倒し方を手に入れることができる。
 今が絶好のチャンスだというのに、なぜローデシアンが苦々しい顔をするのかが分からない。

「これは決定事項だ。お前がなにを言っても駄目なものは駄目だ」
「もっと現実を見てください! あいつを使えばいくらでも魔獣を倒すことができるんですよっ、俺たちがもっと評価されるんですよ! この好機を逃してどうするんですか!」
「……お前、変わったな」

 嘆息と共に吐き出された言葉にビクリと肩が震えた。
 変わった?
 アーフェンはどこも変わっていない。魔獣を倒し、騎士団の名声を轟かせたい……それがひいてはローデシアンの為になると信じてやっている。

「防具も武器も充実した、これからは私たちだけで戦うんだ、もう聖者に頼るのではなく」
「なにを綺麗事を言ってるんですか。あいつはそのためにここに来たんだから使わなくてどうするんですか」

 真柴の力さえあれば怪我だって怖くない。どれほどの深手を負ったところで瞬時に治るのだ。それはもう騎士団の誰もが知ることである。だからこそ、皆が全力で戦うことを躊躇わなくなった。この次に魔獣に遭遇したらと考えなくても良くなった。
 同時に魔獣を怖れなくもなった。新人ですらどんなに怖ろしい容姿をしていようと果敢に立ち向かうようになったというのに。なぜこの勢いを止めるようなことをするのだ。

「随分と愚かになったな、聖者が現れてからは……。いや、召喚された最初の方がずっと人間味があって良かったぞ」
「なにを……っ。俺は反対ですからね。それは貴族や国のお偉方だって同じでしょうが」

 そうだ、聖者がいるなら存分に使ってやると考えているのはなにもアーフェンだけではない。領地に利益が出てさらに煩わしい魔獣が減るのなら誰だって喜んでその力を使わせる。
 なによりも領民が喜んでくれる。
 倒した魔獣を持ち帰る姿を見て皆が歓喜している。

 だがアーフェンは、その成功が自分たちの力で成し遂げられているのではないという部分に少しだけ目を瞑る。苛立ちを宿しながらも。

「行った先々の領地でどれほどの人が喜んでくれたか……俺は他の領地で魔獣に怯えている人たちを助けたい!」
「それは私も同じだ。だがそれに聖者は不要だ。私たちの力でしなければならない」
「でもっ、あいつがいれば効率が上がるし、誰も傷つかないんですよ!」
「その考えが駄目なんだ、アーフェン。お前はなぜ騎士になったんだ?」
「そんなのっ……団長が一番よく知ってるじゃないですか……」

 飛び散った血の跡、落ちた肉片。今思い出してもゾクリと鳥肌が立つ。
 もうあんな思いをする子供を増やしたくない、自分で終わらせたい、そう願って騎士団に入ったのだ。自分の力が、存在が、一助になるのならばと。自分の手で誰かを守ることができるのならばと。
 そして今、理想に近づいてきている。

「もう……俺みたいな子供はいなくなればいい」
「そうだ。不幸な子供はいないに越したことはない。そのためにお前も私も騎士団に入った。自分の力でこの世界を変えたいと願って……な」

 ビクッとした。
 目を背けている部分に無理矢理に顔を向けろと言っているように思えて、アーフェンは本能的に抗った。
 自分はなにも間違えていない。
 これ以外の道はない。
 そう信じてこの冬を過ごしたのだ。
 成果は上がっている。
 団員の士気も高まっている。
 雪が溶けたなら本格的にもっと遠い領地にも赴ける。もっと多くの魔獣を討伐できる。それのなにがいけないんだ。

「だから、聖者は同行させない」
「……それを決めるのは、俺たちじゃない。それに、討伐のためにあいつはいるんですよ。連れて行かなければ召喚した意味がない!」
「お前はそう思うのか?」
「俺だけじゃないです。貴族だって王宮だって、神殿だって同じことを考えているはずですっ!」

 そうだ、自分だけではない。
 誰だってあるものを有効に使おうと考えている。
 せっかく召喚したのだから見合った仕事をさせて何が悪い。この世界のために来たのだから存分に活用して何が悪い。

 ――それが、聖者の役目だろう。

 神から遣わされた存在ならば、人々の役に立つのが使命だ。
 一体何が問題だというのだ。

「他の団員だってそう思っています。聖者が来てから戦いが楽になった、傷つくのさえ怖れなくなった。良いじゃないですか、それで。もっと役に立って貰ってなにが問題なんですか」

 そうだ。なにも問題はない。
 ローデシアンは深く息を吐いた。
 椅子から立ち上がり、大きな窓から下を見る。そこには訓練している団員の姿があるだろう。雪が溶けるのを待って自分たちが活躍するその瞬間のために剣技を磨いているはずだ。
 だがローデシアンはそれを冷たい眼差しで見つめるばかりだ。

「そんなに……か」

 冷たい一言にズキリと胸に何かが重くのしかかった。
 違う、と否定しようとすると自分が発した言葉が喉を塞ぎ、舌を硬くさせた。
 アーフェンはギュッと拳を握り、返事をしなかった……できなかった。
 唇を噛み、けれど気持ちを変えることはできない。

「本当に聖者は必要なのか?」
「……はい」
「それでも私は反対だ。聖者は同行させない」
「……っ!」

 アーフェンはカッと目を見開き、初めてローデシアンを睨めつけた。怒りの感情が渦巻き、言葉にならなかった。

(どうして分かってくれないんだ、団長! こうなったら……)

 踵を返し、乱暴に部屋から出た。
 騎士団の建物の応接室は今や貴族で溢れかえっている。次は是非とも自分の領地をと望む者たちだ。ここにいることで分かるが、領地運営など雇ったものに任せて自分たちは魔獣に怯えることなく王都で面白おかしく過ごしているのだ。
 今までは忌み嫌っていた存在である。ルメシア候のように新たな薬を開発して儲けたいという下心だけが透けて見える。

「ベルマン副団長、次の討伐地は決まりましたか? うちの領地は火虎がよく出没するんです……きっと雪が溶けた辺りから村に降りてきて……」

 我先にと声をかけてくる貴族の顔と名前はどれ一つとして覚えられない。
 虎視眈々と己の懐を潤そうとしている彼らをちらりと見て、わざとらしく嘆息した。しかも沈痛な面持ちで。

「次は……聖者の随行がないかもしれない……」

 ぼそりと呟けば、周囲にいた貴族たちの顔面が蒼白になった。
 当たり前だ。聖者がもたらした利益を目当てにしているのだから。

「神殿がそう言ってきたのですか!?」
「わかりません。けれど、難しいと……」

 言葉をぼかせば貴族たちは顔を見合わせ、すぐさま応接室を出て行った。

 ――それでいい、たっぷりと動いてくれよ。

 アーフェンはこっそりと嗤い、建物を出た。
 きっと先程出て行った貴族たちは王に奏上するはずだ、聖者を同行させろと。
 ローデシアンがどれほど禁じたとしても、王が認めればなにも言わない。貴族と密に接してきたこの数ヶ月でアーフェンにも分かってきた、貴族の社会というものが。彼らから上がってくる金が国庫を潤し、国を動かすのだ。だから王だって多くの意見が集まれば言うことを聞かざるを得ないのだ、と。
 何があっても絶対に真柴を連れて行く。
 そう、何があっても……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

処理中です...