召喚された世界でも役立たずな僕の恋の話

椎名サクラ

文字の大きさ
56 / 59
第八章 神々の争い

06.神の暴走と二人の未来3

しおりを挟む
 二人の神は驚き、風に近い場所にいたクリサジーク神はそのまま己の技を受け、ドゴは素早く避けた。

『なにをしているのですか。この世界を壊すつもりですか』

 穏やかで温かみのある声が風と共に部屋の空気を震わせた。同時に窓から入ってきたのはアーフェンの愛馬ローシェンの黒く大きな体躯だ。火が広がった部屋だというのに、怯えることなくまっすぐにアーフェンの元へとやってきた。

「ロ……シェ……」

 真柴を背中に乗せて逃げろ。
 僅かに瞼を開き捉えたその姿に、アーフェンは縋るように手を伸ばす。
 なぜルメシア領の馬小屋にいるはずのローシェンがここに居るかなど疑問に思う暇もなくそう指示しようとした。
 ローシェンは大きな舌でぺろりとアーフェンの頬を舐めた。ふわりと身体が浮きズドンと重いものが背中の奥へと落ちてきた。

「がはっ」

 肺に溜まった息が一気に吐き出されたが、衝動の後、動けなかったはずの身体が羽のように軽くなる。

「どういうことだ……」

 アーフェンの身体が元に戻ったのを優しい目で見つめ、ローシェンはすぐに真柴へと近づいた。この喧騒の中じっと眠る顔を見つめた後に鼻を寄せる。クンクンと匂いを嗅ぎ、盛大に鼻息を吹きかける。漆黒の濡れたような艶やかな髪が一気に吹き飛ばされ、小さなおでこが現れる。

『間もなく命が終わるわ。なぜ異なる世界のものがここにいるのかしら』

 また優しい声が轟く。

『クリサジークはやったのですね。しかも無理矢理に力を与え命と繋げたのですか、可哀想に。ブリアードの祝福がなければもっと早くに死んでいたことでしょう』

 ローシェンは長く大きな舌で真柴のおでこを舐めた。

『優しい子。私の子供が申し訳ないことをしました。摂理に反することはできませんが貴方は何を望みますか……そうですか、分かりました。その願いを叶えましょう』

 ローシェンはアーフェンにしたのと同じように真柴の頬も舐め、それから固まっている二人の神をじとりと見つめた。

『ブリアードはなぜここにいるのです。自分の世界はどうしましたか?』

「はんっ、俺の世界は上手くいってるから良いんだよ」

『そう、誰よりも貴方の世界は人間が多いですね。ですが、この子のように疲れ果てています。幸福とは言いがたいでしょう。慢心してはいけませんよ』

 ドゴはむっとして不貞腐れた顔を露わにした。変わらない態度のドゴに反して、しゃがみ込んでいるクリサジーク神は見て分かるほど怯えていた。

『クリサジーク、貴方は何度言えば理解するのですか。信仰を得るために他の世界より人間を連れてきてはいけないと、奇跡を起こさせるために命を使わせてはいけないとあれほど言ったにも拘わらず、また愚を犯しましたね』

「全世界を作りし母なる全知全能の最上神。これには理由があるのです!」

『どのような理由があろうと、他世界の人間を引き込むことは重罪。貴方は何度罪を犯せば気が済むのですか。最も幼い神と甘やかしてしたのがいけなかったようですね。これよりその身に厳しく教えなければなりません』

 穏やかで優しい声音を続けているのに、クリサジーク神は怯え、だが相手の思い通りにするものかとまたしても力を放つ。

「我は何も悪くない。この世界を正しく導いてきたが信仰が少なすぎるのだ。信仰がなければ力をつけることができないではないか!」

『そのために人間の脅威を作り、他世界より救世主を呼ぶなど愚か。その一瞬の信仰しか得られないとなぜ気付かないのですか。もっと人間に目を向けることを教えなければなりませんね』

 ローシェンは嘶《いなな》き、飛んできた力を再び跳ね返せば、避けきれずにまた己の力で倒れたクリサジーク神を光の輪で縛り上げた。両腕両足が光の輪により引き上げられる。

「放せ、放すのだ!」

『頑是無い。性根を入れ替えるまではこの世界に戻れると思わないことです。さあ行きなさい』

 光の輪はさらに一回り小さくなると、クリサジーク神の身体をきつく締め付け、宙を上がり消えていった。ローシェンは消えるまで見て、次にドゴを見つめた。

『さあブリアード。貴方も自分の世界へと帰りなさい。といっても、この子が目を覚ますまではここに居るのでしょうね』

「そりゃそうだ。俺が祝福を与えた奴がどうなるか見届けなきゃ納得できねー」

『変わらず頑固ですね。けれど、これ以上この世界に干渉をしてはいけません。世界の均等が崩れてしまいます』

「……聞くけどよぉ、創造の神。この子に何をした」

 寿命の入れ替えしかできなかったドゴは真柴を見てその様子が異なるのを察すると悔しそうに訊ねた。

『寿命は寿命。私でも摂理に反することはできません。ただ力と命の繋ぎを解き、この子の時を緩やかにしただけ。異世界よりやってきたからこそ可能なこと。あなたと共に年を重ねることが願いでしたから』

 ローシェンは変わらぬ穏やかな眼差しでアーフェンを見つめた。アーフェンはハッとして真柴に目を向ける。変わらず穏やかな寝息を立てているが先程よりも顔色が良いように見えるのは気のせいか。呼吸も僅かに深くなっている。

『見届けたらば、必ず自分の世界へと帰るのです。約束してください、ブリアード』

「分かったよ、創造の神にしてすべての神の母……ありがとうよ」

 ローシェンは穏やかで優しい眼差しをもってドゴを見つめると、数度瞬きをした。神が宿っていたとは思えないほど、いつもと変わりない愛馬の仕草でアーフェンの側へとやってきた。
 突然に起こった出来事が未だ整理できていないローデシアンが腰を抜かしたまま、クリサジーク神が消えた宙を見上げていた。

「……神を失った我らはどうなるのだ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

処理中です...