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第3話:中学時代①
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中学時代の事について振り返ってみる。
中学の入学式、まさに中学生活スタートの初日にあろうことか、緊張でお腹を壊して、我慢しきれず失敗をしてしまった。そこから、嫌味の弄りを含めた「うんも」というあだ名として一年間晒されてしまうことになる。
正直、中学一年の一年間は、思い出したくない1年間になる、、ところだった。同じクラスにあの人がいなければ。
その人は、一年間クラスの学級委員長を務めていた女性。友梨さんといったその女性は、入学式の日に私が失敗したことを心配して、翌日のレクリエーションから声を掛けてくれた。最初の頃は挨拶のやり取りが出来ず、恥ずかしくて。頷きだけで精一杯だった。それでも、友梨さんは、私のことを気にかけてくれて、保健室の先生に掛けよって理解してもらったりと根回しをしてくれていたようで、逃げたい時とかに理由なく保健室に駆け込んでも保健室の先生は、いつも優しく迎えてくれた。そんなことが安心材料だったのかもしれない。
部活は、小学の頃からの剣道のスポ少の流れから剣道部を選んだ。部活にいる間はきちんと名前で呼ばれていたので気持ちを切り替えることが出来た。個人戦では結果は振るわなかったが、団体戦で、県大会、ブロック大会まで進み、部活引退前にはスポ少の方で団体戦のメンバーに選ばれ全国大会に出場する事が出来、日本武道館でしあいをする事が出来たのは、剣道続けていて良かったなって、今でも良き思い出となっている。
あだ名で弄られ晒され、その延長線上でトイレの床に顔を押し付けられて、押さえつけられて、モップで擦られたり、階段下に連れていかれてお腹を殴られたり、上履きの中に画鋲、机の引き出しにスライムやローション入れられてたり。その他諸々。それでも学校は休まず行くことが出来たのは、保健室っていう逃げれる場所、部活で気持ちの切り替えができたこと、いつも気にかけてくれてる友梨さんがいたからだろうなと思う。
ある日、友梨さんが、私のノートが切り裂かれている、筆箱に接着剤つけられて画鋲を貼り付けてあるのを見つけて、担任の先生に進言。先生は、すぐさまその日の帰りの会でみんなに問いただした。すると、私への「いじり」に加担していたのは男子の一部だけではなく、女子の一部も加担していたことに私は呆然とその場に立ち尽くした。
聞くところによると、その女子たちは、男子の主犯格の子から弱みを握られそれを餌にして脅していて断りきれず加担したとの事。女子たちや主犯格を除く男子の子は、その場で謝罪をしてくれたが、主犯格の子からは無かった。
その日は偶然にも友梨さんと日直をやる日。帰りの会が終わり、私が日直の日誌を書いていると、友梨さんが声を掛けてきた。
「ごめんね、みんなの前で私が喋ってしまって。迷惑、だったかな?」
「そんな事ないよ。ありがとう。でも、なんで僕なんかを?」
「ん~、なんだろう。守ってあげたくなるんだよね。新川君のこと。」
「あ、ありがとう。」
私は、素直に庇ってくれたことには嬉しく思ったが、守ってあげたいと思われるほど、どうしようもないのかと嬉しさと虚しさが混在してしまった。
その日から私は、友梨さんの事を無意識に目を追っていた。気がつけば1学期が終わり夏休みに入った。
夏休み、私は部活、スポ少、大会に明け暮れていた。ある日の部活の帰り、昇降口で不意に声を掛けられる。振り向くと、そこには友梨さんの姿があった。
「新川君、部活終わり?」
「うん。これから帰るとこ。友梨さんは?」
「私は、検定試験があったんだ。数検の。」
「お疲れ様。数学は、僕には無理だな。」
「数学、パズルみたいでなんか、ハマっちゃうんだよね。新川君も、漢検持ってるんでしょ。」
「僕も漢字が好きだからね。」
そんな事を話しながら私は靴を履いて立ち上がった。すると友梨さんが、再び話しかけてきた。
「僕君、家どの辺?」
「僕は、ドームの方だよ。」
「うそ、やった!私も同じ方向なの。一緒に帰ろ♩」
「うん、良いよ。」
この昇降口での会話を、偶然にも同じクラスの女子に見られていた、ということはこの時の私は微塵も感じていなかった。
新学期になり2学期の係を決める日、紗希さんがひょんなことを言い出した。
「先生、新川君は副学級委員が良いと思います。」
私は、いきなりの事で開いた口が塞がらないでいた。人前に立つのだけは避けようと思っていた所にまさかの指名。そんな僕を知り目に紗希さんは、私に向かって屈託の無い笑顔で「頑張ってね」と手を振っていた。
この日は、偶然にも友梨さんと日直が被っていたので、放課後に二人で教室に残って日直の作業をしていると、友梨さんが話しかけてきた。
「僕君、副学級委員、引き受けてくれてありがとう。よろしくね。」
「こちらこそ、よろしく。」
「ちょっと困った表情してたけど、大丈夫だった?」
「ん~、うん。人前に出たり、纏めたり、意見したりが苦手で、迷ったかな。」
「そうだったんだ。でも、私がサポートするから大丈夫だよ。」
「うん。よろしく。」
そんな話をしながら、日誌を書いたり、整理整頓して、終わったら二人で職員室に日誌を持って行った。その日は、流れで二人で帰った。
週末、誰とも予定してなかった私は、一人、自転車で「ハロウィン」というゲーセンに向かった。夏休みにポップンミュージックを知ってから、週に1~2回のペースで通っている。200円で4曲、毎月0の日になると100円8曲になる。私は千円を握りしめて、練習に励んでいる。毎週行くと、店員さんとも仲良くなり、点数を上げるやり方とか教えてもらうことが出来た。
ハロウィンでは、毎月定期的に記録会が行われる。ハロウィンに通い始めて3ヶ月。ポップンミュージックに慣れ始めた頃、仲良くなった店員さんから記録会への参加の誘いを受けて、初めて参加することに。
記録会までの一ヶ月は、参加者は500円で一時間フリープレイが出来るということもあり、回数を増やして通って課題曲の練習をしていた。
記録会は、課題曲と一緒に、クリア条件もあるため、その条件をクリアするために何度も練習を重ねた。その結果、練習だと難なく条件をクリアすることが出来た。しかし、記録会の本番になると、いつもの練習以上にギャリーがいて、その空気に飲まれてしまい、課題曲のクリア条件の点数はクリア出来たが、BADの数が条件より2つ多くなってしまい、成功することが出来なかった。
初めての記録会で苦い思いをしたが、いつもダラダラと練習していた自分にとっては、目標持って練習出来る嬉しさを感じて、更にポップンミュージックを好きになっていった。
年が明け、3学期。
友梨さんとまた同じ学級委員になった。
友梨さんと一緒に帰ることも増え、仲良くなり、友梨さんのことが気になり始めた頃。月日は、2月に入った頃だった。
いつものように友梨さんと一緒に帰っていると、友梨さんが話し始めた。
「新川君、チョコレート好き?」
「うん。好きだよ。」
「14日って予定ある?」
「うーん、部活以外は何も無いと思うよ。」
「私も部活終わったら予定ないから一緒に帰ろ。」
「うん。良いよ。」
そんな話をしていると自分の家に着き、友梨さんと別れた。
2月14日、いつものように学校に行って、部活を終える。部活を終えて剣道着から制服に着替えて体育館の中にある部室を出ると、体育館の入口で友梨さんが待っていた。
「新川君、お疲れ様。一緒に帰ろ。」
「うん。」
体育館から昇降口に向かって歩いてると、何やら視線を感じる。視線を感じて振り返るも気配が無い。気のせいかなと思い、昇降口まで歩いて、学校を出た。
学校を出ても、家までの帰り道になっても、まだやっぱり何か視線を感じる。視線を感じて振り返ってみても、やっぱりいない。何度も振り返るのは、流石に一緒に帰ってる友梨さんにも悪いから、その後は確認することなく、友梨さんとの会話を楽しもうとしていた。が、やっぱり気になる視線。気にしながら歩いていると自分の家に着いてしまった。
「じゃあ、僕はこれで。ありがとうね。」
「新川君、今日夜家にいる?」
「うん。今日はスポ少も無いから大丈夫。」
「じゃあ、家にいてね!」
「う、うん。、、、分かった。」
そういうと、友梨さんは嬉しそうに走って家まで帰っていった。
20時、夕食や風呂を終えるとリビングで寛いでいると、玄関のチャイムが鳴った。
チャイムに気づいた妹が玄関に向かった。
「兄ちゃんに用があるって。友梨さんって人が。」
「友梨さん、、、。分かった今行く。」
妹と代わり玄関に向かうと、玄関には百貨店の紙袋を持った友梨さんが立っていた。
「新川君、ごめんね。夜遅い時間に。」
「ううん、大丈夫。」
背後から視線を感じる。
玄関にある姿見から両親、妹たちが押し寄せて見ているのが分かる。
「寒いのに、わざわざ、有難うね。」
「大丈夫。どうしても新川君に食べて欲しくて、さっき家に着いてから焼いてみたの。良かったら食べて。」
「良いの?」
「うん。新川君に食べて欲しくて焼いたの。だから、食べて。」
「、、、ありがとう。」
紙袋にはホールの手作りチョコレートケーキと手紙があった。
「この、手紙は?」
「それは、私が帰ってからゆっくり読んでね。」
「、、、分かった。」
「じゃあ、私。帰るね。」
「あっ、家まで送るよ。」
「うん。」
そういって、家を出て友梨さんと友梨さんの家まで歩いた。徒歩5分の距離。何故かいつもより長く感じる。
生まれて初めて貰ったバレンタインチョコというものにドギマギしてるからなのか、それによって意識しちゃったからなのか、家族にバレて恥ずかしいのか、照れなのか。
自分では全く何か分からなかったが、不思議とこの感覚、嫌じゃない。ただ、この時間がずっと続いてくれたら良いのにって思う。
歩いていると、そんなこと思っていても終わりはある訳で。友梨さんのアパート着いてしまった。
「着いちゃったね、、、。」
「、、、うん、、、。」
「送ってくれてありがとう。手紙の返事、また聞かせてね。」
「、、分かった。」
「じゃあ、おやすみ。」
友梨さんは、そう言うと私の頬に口づけをして部屋に上がって行った。私は口づけされた頬を手に当てながら、友梨さんが部屋に入るのを見送ると家の方角に歩いていった。
家路へと歩きながら鮮明に残る口づけされた頬の感触に時間差で恥ずかしくなり頬が紅潮していた。
(これはバレてはいけない)と、帰りは遠回りしていつもより多く歩いて帰った。
家に着くと、家族がニヤニヤしながら私を迎えた。
「お帰り(笑)」
「、、なに?」
「可愛い人だね。友梨さんって言うのかい?」
「そうだけど、、。」
「どうなんだい?」
「、、なにが?」
「友梨さんとの関係だよ。」
「、、、クラスメイトだよ。」
「本当にそれだけ、かい?」
「、、関係ないでしょ!」
それ以上のやり取りは恥ずかしくなって出来なかったので、私は慌てて自分の部屋に逃げ込んだ。
部屋に入った私は、テーブルのライトをつけて、貰った手紙を開けた。
普段、教科書体で綺麗に書いてある字が、手紙では丸文字フォントで可愛らしく書かれてあった。そこには、、。
「新川君へ。ハッピーバレンタイン。僕君への想いを込めてチョコレートケーキを焼いてみたの。良かったら食べてね。、、、良かったら私と付き合ってほしいです。」
と、綴られていた。
手紙を読んだ私は、ふと涙が流れた。
暗い部屋、テーブルライトだけの明かりの中私は静かに泣いた。
翌日、金曜日。
家を出ると友梨さんが玄関の前で立っていた。
「新川君、おはよう。一緒に行こっ。」
「うん。良いよ。」
同じタイミングで、近所の宏樹と直己も家の前に来ていた。
「おはよう。」
「あっ、おはよう。」
宏樹と直己の様子がいつもと違う。二人は顔を見合わせると、口裏合わせたように言う。
「あっ、俺。今日、日直だったから先に行くな。」
「俺も、委員会の仕事あるから先に行くな。」
そう言うと二人は走って先に行ってしまった。
「僕君、あの二人は?」
「近所に住む二人だよ。いつもは朝、一緒に行ってるんだけどね。」
「そうなんだ。私たちも行こうか。」
「うん。」
友梨さんと二人で学校に行った。
登校中、何か視線を感じる。何度か振り返ってみてもその姿は無かった。友梨さんと話しながら学校まで歩くも、視線が気になって会話に集中出来ない。そうこうしていると昇降口に着いてしまった。
「新川君、私先に教室行ってるね。」
「うん。分かった。」
友梨さんは、先に教室に行った。
友梨さんの離れたタイミングで私に話しかけたのは、紗希さんだった。
「新川君、おはよう。」
「おはよう。」
「昨日、友梨からチョコ貰えた?」
「うん、貰ったよ。、、なんで知ってるの?」
「そんなん、どうだって良いじゃない。チョコ貰えて良かったね。」
紗希さんは、そう言うと教室に入っていった。私も教室に入っていった。
教室に入ると、クラスの男子達が誰が何個チョコを貰ったのか言い合っている。その会話に私は混じらず、外野で聞いていた。当然、私の所にも数を聞いてきたが、「家族くらいかな」と濁した。それ以上の事は詮索してこなかったのでその場はホッとした。
バレンタインって、そんなにも大イベントなのか。ってこの時思ったが、数を言い合うのには疑問を感じた。
その後、またいつもの様に授業が終わり、部活が終わり帰宅する。帰りは友梨さんと被ることなく一人で家に帰った。
週明けの月曜日。
その日、友梨さんは家に来なかった。
いつもの様に、宏樹と直己の三人で学校に行く。
教室に入ると先に来ていた紗希さんが自分の席で本を読んでいた。
「紗希さん、おはよう。」
「新川君、おはよう。」
「友梨さんのこと、知らない?」
「週末に腸感冒になったから来られないって。」
「そっか。、、、ありがとう。」
そう話を終えると私は自席に座り、ため息ついて窓の外を眺めていた。
見かねた紗希さんが話しかけてくる。
「そんなに心配なら放課後に見舞いでも行けば良いじゃない。」
「、、、そうだね。そうしてみるよ。」
放課後。私は友梨さんの見舞いのため、友梨さんのアパートへ向かった。
部屋に到着しチャイムを鳴らす。
出てきたのは友梨さんのお父さんだった。
「君は、誰だね。」
「友梨さんと同じクラスの僕といいます。」
「君が新川君だね。友梨から話は聞いているよ。で、今日は何かね。」
「友梨さん、お休みだったので、配布物を預かってきました。」
「そうか。それは、ありがとう。」
友梨のお父さんはそう言うと扉を閉めようとする。私は少し抵抗して動かなかった。
「未だ何か?」
「友梨さんの様子が気になってきました。中に入ることは出来ないですか。」
「友梨は未だ誰かに会える状態じゃないんだ。帰ってくれるか。」
「、、、分かりました。」
私は渋々、友梨さんのアパートを去った。
友梨のお父さんが扉を閉めると、部屋から友梨が声を掛ける。
「パパ、誰だったの?」
「新川とか言う奴だったよ。」
「なんで、中に入れてくれなかったのよ!」
「お前は、事前課題があるだろ。週末には引越しだと言うのに。そのために仮病してまで休んでるんだから。やること終わるまで部屋から出さんからな。」
「そんなぁ~。」
私はアパートを去ってからそんな話がされているとは知らずに家に帰って真っ暗な自分の部屋で枕に顔を埋めて泣いた。
次の日。今日もまた友梨さんは来なかった。
教室に入り、紗希さんに声かけられる。
「新川君、おはよう。」
「おはよう。」
「昨日、友梨に会えた?」
「お父さんが出てきて追い返された。」
「そっか。それは残念。」
「今日も行ってみるよ。」
「うん。」
放課後、再び友梨さんのアパートを訪れるも、案の定、配布物を渡したら追い返された。
次の日。今日もまた友梨さんは来ない。
「紗希さん、おはよう。友梨さんのこと聞いてない?」
「新川君、おはよう。友梨は学校に行きたがってるんだけどお父さんに止められてるんだって。」
「そうなの!?」
「、、うん。理由は教えてくれなかったけど、、。」
「気になるな。」
「私の予想だけど、友梨のお父さんは友梨にゾッコンだから、名前が出た男の人を排除しようと」
「そうなのか。」
「諦めずに行ったら会わせてくれるのかもね。」
「うん、分かった。」
放課後。私は友梨さんのアパートに寄った。
チャイムを鳴らして出てきたのは、友梨さんだった。
「新川君、会いたかったー。」
「僕も会えて良かった。」
「たまたま、パパがコンビニに行ってるだけだから直ぐに帰った方が良いと思う。」
「分かった。じゃあこれ。」
「ありがとう。」
友梨さんはそういうと私の頬にキスをした。
私は直ぐに友梨さんの部屋を出てアパートの入口に向かうと入口で友梨さんのお父さんと出くわした。
「また君か。友梨には何もしてないだろうな。」
「はい。配布物を渡しただけですので。」
「そうか。それなら良いが。」
「では、失礼します。」
私は嬉しい気持ちを抑えて急ぎ足で家に帰った。
翌日の朝、友梨さんが家の前で待っていた。
「新川君、おはよう。」
「おはよう。もう大丈夫なんだね。」
「うん。また一緒に学校に行こっ。」
「うん。」
私は、再び友梨さんと一緒に行けることに気持ちが昂った。
それからしばらく一緒に友梨さんと登下校が出来た。嬉しい日は過ぎていくのが早い。私はこれからも変わらず一緒に登下校出来るものだと信じていた。この時は。
3月14日。ホワイトデー。
この日は、終業式だった。
教室で担任の先生が入ってきて、終業式のある体育館に移動する前にある話があると話をした。
「折野、前に。」
「はい。」
友梨さんの名前が呼ばれ友梨さんは前に進んだ。私は、なんの事だか全く分からなかった。
「急な話になるが、折野は今日でこの学校を離れて転向することになった。折野の両親から学期が終わるまでは普通に通わせてほしい、それまでは転校のこと伏せてほしいとのことだった。」
私は頭の中が真っ白になり茫然自失。開いた口が塞がらない状態だった。
「折野は新学期から県外の進学校に転向するそうだ。折野、折角だから一言喋るか。」
「はい。皆さん、短い間でしたが、仲良くしてもらってありがとうございます。この度、親の転勤のために福岡に引っ越すことが決まり転向することになりました。皆さんとの思い出を胸に新天地でも頑張っていきます。」
友梨さんはそう挨拶をして会釈しながら涙がこぼれていた。その涙を見て私ももらい泣きをした。
「折野は、終業式には都合で参加できないとのことで、これで皆とは最後になる。」
「みんな、一年間本当にありがとうございました。」
友梨さんは、そう教室の前で一礼して、教室を離れた。
終礼後、紗希さんが話しかけて来た。
「新川君、この後友梨の所行くでしょ。」
「えっ?」
「今日出発なんだって。13時30分に。」
教室の時計を確認したら12時45分だった。
「13時30分!?知らなかった。ありがとう。行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「ありがとう。」
私は走って家に帰った。
「おかえり。昼飯は?」
「いらない!」
部屋に荷物を下ろすと再び走って友梨さんのアパートに向かった。
13時25分。
友梨さんのアパートに着いたら、駐車場に引越し用のトラックに荷物を積み終わり、正に車に乗り込むところだった。
「友梨さん!」
車に乗り込む直前に友梨さんを呼び止めた。友梨さんは気付いて振り返って私の方へ駆け寄ると言った。
「新川君、今までありがとう。これ。」
そう言うと友梨さんは、私に一枚のメモ紙を握らせて私の額にキスをして、車に乗った。
車が動くと友梨さんは窓を開けて手を振った。私も手を振り見送った。車が見えなくなるまで。
見送った後、私は家まで無言で帰って、自転車に乗り換え牛丼屋に行った。虚しい気持ちで一人食べる牛丼、食べながら涙が出ていつもよりしょっぱい牛丼だった。
次の日、ポケットに入れたメモ紙を開いてみると友梨さんの新しい住所とメッセージが書いてあった。メッセージには、「手紙待ってるね。」と一言あった。
私はその日から週に一度、手紙を出す日を決めて三ヶ月間、毎週手紙を送ってみるも、返事が来ない。私は新年度の忙しさもあり返事の来ない友梨さんの手紙を次第に待つことを諦め、手紙を送るのを止めた。
中学の入学式、まさに中学生活スタートの初日にあろうことか、緊張でお腹を壊して、我慢しきれず失敗をしてしまった。そこから、嫌味の弄りを含めた「うんも」というあだ名として一年間晒されてしまうことになる。
正直、中学一年の一年間は、思い出したくない1年間になる、、ところだった。同じクラスにあの人がいなければ。
その人は、一年間クラスの学級委員長を務めていた女性。友梨さんといったその女性は、入学式の日に私が失敗したことを心配して、翌日のレクリエーションから声を掛けてくれた。最初の頃は挨拶のやり取りが出来ず、恥ずかしくて。頷きだけで精一杯だった。それでも、友梨さんは、私のことを気にかけてくれて、保健室の先生に掛けよって理解してもらったりと根回しをしてくれていたようで、逃げたい時とかに理由なく保健室に駆け込んでも保健室の先生は、いつも優しく迎えてくれた。そんなことが安心材料だったのかもしれない。
部活は、小学の頃からの剣道のスポ少の流れから剣道部を選んだ。部活にいる間はきちんと名前で呼ばれていたので気持ちを切り替えることが出来た。個人戦では結果は振るわなかったが、団体戦で、県大会、ブロック大会まで進み、部活引退前にはスポ少の方で団体戦のメンバーに選ばれ全国大会に出場する事が出来、日本武道館でしあいをする事が出来たのは、剣道続けていて良かったなって、今でも良き思い出となっている。
あだ名で弄られ晒され、その延長線上でトイレの床に顔を押し付けられて、押さえつけられて、モップで擦られたり、階段下に連れていかれてお腹を殴られたり、上履きの中に画鋲、机の引き出しにスライムやローション入れられてたり。その他諸々。それでも学校は休まず行くことが出来たのは、保健室っていう逃げれる場所、部活で気持ちの切り替えができたこと、いつも気にかけてくれてる友梨さんがいたからだろうなと思う。
ある日、友梨さんが、私のノートが切り裂かれている、筆箱に接着剤つけられて画鋲を貼り付けてあるのを見つけて、担任の先生に進言。先生は、すぐさまその日の帰りの会でみんなに問いただした。すると、私への「いじり」に加担していたのは男子の一部だけではなく、女子の一部も加担していたことに私は呆然とその場に立ち尽くした。
聞くところによると、その女子たちは、男子の主犯格の子から弱みを握られそれを餌にして脅していて断りきれず加担したとの事。女子たちや主犯格を除く男子の子は、その場で謝罪をしてくれたが、主犯格の子からは無かった。
その日は偶然にも友梨さんと日直をやる日。帰りの会が終わり、私が日直の日誌を書いていると、友梨さんが声を掛けてきた。
「ごめんね、みんなの前で私が喋ってしまって。迷惑、だったかな?」
「そんな事ないよ。ありがとう。でも、なんで僕なんかを?」
「ん~、なんだろう。守ってあげたくなるんだよね。新川君のこと。」
「あ、ありがとう。」
私は、素直に庇ってくれたことには嬉しく思ったが、守ってあげたいと思われるほど、どうしようもないのかと嬉しさと虚しさが混在してしまった。
その日から私は、友梨さんの事を無意識に目を追っていた。気がつけば1学期が終わり夏休みに入った。
夏休み、私は部活、スポ少、大会に明け暮れていた。ある日の部活の帰り、昇降口で不意に声を掛けられる。振り向くと、そこには友梨さんの姿があった。
「新川君、部活終わり?」
「うん。これから帰るとこ。友梨さんは?」
「私は、検定試験があったんだ。数検の。」
「お疲れ様。数学は、僕には無理だな。」
「数学、パズルみたいでなんか、ハマっちゃうんだよね。新川君も、漢検持ってるんでしょ。」
「僕も漢字が好きだからね。」
そんな事を話しながら私は靴を履いて立ち上がった。すると友梨さんが、再び話しかけてきた。
「僕君、家どの辺?」
「僕は、ドームの方だよ。」
「うそ、やった!私も同じ方向なの。一緒に帰ろ♩」
「うん、良いよ。」
この昇降口での会話を、偶然にも同じクラスの女子に見られていた、ということはこの時の私は微塵も感じていなかった。
新学期になり2学期の係を決める日、紗希さんがひょんなことを言い出した。
「先生、新川君は副学級委員が良いと思います。」
私は、いきなりの事で開いた口が塞がらないでいた。人前に立つのだけは避けようと思っていた所にまさかの指名。そんな僕を知り目に紗希さんは、私に向かって屈託の無い笑顔で「頑張ってね」と手を振っていた。
この日は、偶然にも友梨さんと日直が被っていたので、放課後に二人で教室に残って日直の作業をしていると、友梨さんが話しかけてきた。
「僕君、副学級委員、引き受けてくれてありがとう。よろしくね。」
「こちらこそ、よろしく。」
「ちょっと困った表情してたけど、大丈夫だった?」
「ん~、うん。人前に出たり、纏めたり、意見したりが苦手で、迷ったかな。」
「そうだったんだ。でも、私がサポートするから大丈夫だよ。」
「うん。よろしく。」
そんな話をしながら、日誌を書いたり、整理整頓して、終わったら二人で職員室に日誌を持って行った。その日は、流れで二人で帰った。
週末、誰とも予定してなかった私は、一人、自転車で「ハロウィン」というゲーセンに向かった。夏休みにポップンミュージックを知ってから、週に1~2回のペースで通っている。200円で4曲、毎月0の日になると100円8曲になる。私は千円を握りしめて、練習に励んでいる。毎週行くと、店員さんとも仲良くなり、点数を上げるやり方とか教えてもらうことが出来た。
ハロウィンでは、毎月定期的に記録会が行われる。ハロウィンに通い始めて3ヶ月。ポップンミュージックに慣れ始めた頃、仲良くなった店員さんから記録会への参加の誘いを受けて、初めて参加することに。
記録会までの一ヶ月は、参加者は500円で一時間フリープレイが出来るということもあり、回数を増やして通って課題曲の練習をしていた。
記録会は、課題曲と一緒に、クリア条件もあるため、その条件をクリアするために何度も練習を重ねた。その結果、練習だと難なく条件をクリアすることが出来た。しかし、記録会の本番になると、いつもの練習以上にギャリーがいて、その空気に飲まれてしまい、課題曲のクリア条件の点数はクリア出来たが、BADの数が条件より2つ多くなってしまい、成功することが出来なかった。
初めての記録会で苦い思いをしたが、いつもダラダラと練習していた自分にとっては、目標持って練習出来る嬉しさを感じて、更にポップンミュージックを好きになっていった。
年が明け、3学期。
友梨さんとまた同じ学級委員になった。
友梨さんと一緒に帰ることも増え、仲良くなり、友梨さんのことが気になり始めた頃。月日は、2月に入った頃だった。
いつものように友梨さんと一緒に帰っていると、友梨さんが話し始めた。
「新川君、チョコレート好き?」
「うん。好きだよ。」
「14日って予定ある?」
「うーん、部活以外は何も無いと思うよ。」
「私も部活終わったら予定ないから一緒に帰ろ。」
「うん。良いよ。」
そんな話をしていると自分の家に着き、友梨さんと別れた。
2月14日、いつものように学校に行って、部活を終える。部活を終えて剣道着から制服に着替えて体育館の中にある部室を出ると、体育館の入口で友梨さんが待っていた。
「新川君、お疲れ様。一緒に帰ろ。」
「うん。」
体育館から昇降口に向かって歩いてると、何やら視線を感じる。視線を感じて振り返るも気配が無い。気のせいかなと思い、昇降口まで歩いて、学校を出た。
学校を出ても、家までの帰り道になっても、まだやっぱり何か視線を感じる。視線を感じて振り返ってみても、やっぱりいない。何度も振り返るのは、流石に一緒に帰ってる友梨さんにも悪いから、その後は確認することなく、友梨さんとの会話を楽しもうとしていた。が、やっぱり気になる視線。気にしながら歩いていると自分の家に着いてしまった。
「じゃあ、僕はこれで。ありがとうね。」
「新川君、今日夜家にいる?」
「うん。今日はスポ少も無いから大丈夫。」
「じゃあ、家にいてね!」
「う、うん。、、、分かった。」
そういうと、友梨さんは嬉しそうに走って家まで帰っていった。
20時、夕食や風呂を終えるとリビングで寛いでいると、玄関のチャイムが鳴った。
チャイムに気づいた妹が玄関に向かった。
「兄ちゃんに用があるって。友梨さんって人が。」
「友梨さん、、、。分かった今行く。」
妹と代わり玄関に向かうと、玄関には百貨店の紙袋を持った友梨さんが立っていた。
「新川君、ごめんね。夜遅い時間に。」
「ううん、大丈夫。」
背後から視線を感じる。
玄関にある姿見から両親、妹たちが押し寄せて見ているのが分かる。
「寒いのに、わざわざ、有難うね。」
「大丈夫。どうしても新川君に食べて欲しくて、さっき家に着いてから焼いてみたの。良かったら食べて。」
「良いの?」
「うん。新川君に食べて欲しくて焼いたの。だから、食べて。」
「、、、ありがとう。」
紙袋にはホールの手作りチョコレートケーキと手紙があった。
「この、手紙は?」
「それは、私が帰ってからゆっくり読んでね。」
「、、、分かった。」
「じゃあ、私。帰るね。」
「あっ、家まで送るよ。」
「うん。」
そういって、家を出て友梨さんと友梨さんの家まで歩いた。徒歩5分の距離。何故かいつもより長く感じる。
生まれて初めて貰ったバレンタインチョコというものにドギマギしてるからなのか、それによって意識しちゃったからなのか、家族にバレて恥ずかしいのか、照れなのか。
自分では全く何か分からなかったが、不思議とこの感覚、嫌じゃない。ただ、この時間がずっと続いてくれたら良いのにって思う。
歩いていると、そんなこと思っていても終わりはある訳で。友梨さんのアパート着いてしまった。
「着いちゃったね、、、。」
「、、、うん、、、。」
「送ってくれてありがとう。手紙の返事、また聞かせてね。」
「、、分かった。」
「じゃあ、おやすみ。」
友梨さんは、そう言うと私の頬に口づけをして部屋に上がって行った。私は口づけされた頬を手に当てながら、友梨さんが部屋に入るのを見送ると家の方角に歩いていった。
家路へと歩きながら鮮明に残る口づけされた頬の感触に時間差で恥ずかしくなり頬が紅潮していた。
(これはバレてはいけない)と、帰りは遠回りしていつもより多く歩いて帰った。
家に着くと、家族がニヤニヤしながら私を迎えた。
「お帰り(笑)」
「、、なに?」
「可愛い人だね。友梨さんって言うのかい?」
「そうだけど、、。」
「どうなんだい?」
「、、なにが?」
「友梨さんとの関係だよ。」
「、、、クラスメイトだよ。」
「本当にそれだけ、かい?」
「、、関係ないでしょ!」
それ以上のやり取りは恥ずかしくなって出来なかったので、私は慌てて自分の部屋に逃げ込んだ。
部屋に入った私は、テーブルのライトをつけて、貰った手紙を開けた。
普段、教科書体で綺麗に書いてある字が、手紙では丸文字フォントで可愛らしく書かれてあった。そこには、、。
「新川君へ。ハッピーバレンタイン。僕君への想いを込めてチョコレートケーキを焼いてみたの。良かったら食べてね。、、、良かったら私と付き合ってほしいです。」
と、綴られていた。
手紙を読んだ私は、ふと涙が流れた。
暗い部屋、テーブルライトだけの明かりの中私は静かに泣いた。
翌日、金曜日。
家を出ると友梨さんが玄関の前で立っていた。
「新川君、おはよう。一緒に行こっ。」
「うん。良いよ。」
同じタイミングで、近所の宏樹と直己も家の前に来ていた。
「おはよう。」
「あっ、おはよう。」
宏樹と直己の様子がいつもと違う。二人は顔を見合わせると、口裏合わせたように言う。
「あっ、俺。今日、日直だったから先に行くな。」
「俺も、委員会の仕事あるから先に行くな。」
そう言うと二人は走って先に行ってしまった。
「僕君、あの二人は?」
「近所に住む二人だよ。いつもは朝、一緒に行ってるんだけどね。」
「そうなんだ。私たちも行こうか。」
「うん。」
友梨さんと二人で学校に行った。
登校中、何か視線を感じる。何度か振り返ってみてもその姿は無かった。友梨さんと話しながら学校まで歩くも、視線が気になって会話に集中出来ない。そうこうしていると昇降口に着いてしまった。
「新川君、私先に教室行ってるね。」
「うん。分かった。」
友梨さんは、先に教室に行った。
友梨さんの離れたタイミングで私に話しかけたのは、紗希さんだった。
「新川君、おはよう。」
「おはよう。」
「昨日、友梨からチョコ貰えた?」
「うん、貰ったよ。、、なんで知ってるの?」
「そんなん、どうだって良いじゃない。チョコ貰えて良かったね。」
紗希さんは、そう言うと教室に入っていった。私も教室に入っていった。
教室に入ると、クラスの男子達が誰が何個チョコを貰ったのか言い合っている。その会話に私は混じらず、外野で聞いていた。当然、私の所にも数を聞いてきたが、「家族くらいかな」と濁した。それ以上の事は詮索してこなかったのでその場はホッとした。
バレンタインって、そんなにも大イベントなのか。ってこの時思ったが、数を言い合うのには疑問を感じた。
その後、またいつもの様に授業が終わり、部活が終わり帰宅する。帰りは友梨さんと被ることなく一人で家に帰った。
週明けの月曜日。
その日、友梨さんは家に来なかった。
いつもの様に、宏樹と直己の三人で学校に行く。
教室に入ると先に来ていた紗希さんが自分の席で本を読んでいた。
「紗希さん、おはよう。」
「新川君、おはよう。」
「友梨さんのこと、知らない?」
「週末に腸感冒になったから来られないって。」
「そっか。、、、ありがとう。」
そう話を終えると私は自席に座り、ため息ついて窓の外を眺めていた。
見かねた紗希さんが話しかけてくる。
「そんなに心配なら放課後に見舞いでも行けば良いじゃない。」
「、、、そうだね。そうしてみるよ。」
放課後。私は友梨さんの見舞いのため、友梨さんのアパートへ向かった。
部屋に到着しチャイムを鳴らす。
出てきたのは友梨さんのお父さんだった。
「君は、誰だね。」
「友梨さんと同じクラスの僕といいます。」
「君が新川君だね。友梨から話は聞いているよ。で、今日は何かね。」
「友梨さん、お休みだったので、配布物を預かってきました。」
「そうか。それは、ありがとう。」
友梨のお父さんはそう言うと扉を閉めようとする。私は少し抵抗して動かなかった。
「未だ何か?」
「友梨さんの様子が気になってきました。中に入ることは出来ないですか。」
「友梨は未だ誰かに会える状態じゃないんだ。帰ってくれるか。」
「、、、分かりました。」
私は渋々、友梨さんのアパートを去った。
友梨のお父さんが扉を閉めると、部屋から友梨が声を掛ける。
「パパ、誰だったの?」
「新川とか言う奴だったよ。」
「なんで、中に入れてくれなかったのよ!」
「お前は、事前課題があるだろ。週末には引越しだと言うのに。そのために仮病してまで休んでるんだから。やること終わるまで部屋から出さんからな。」
「そんなぁ~。」
私はアパートを去ってからそんな話がされているとは知らずに家に帰って真っ暗な自分の部屋で枕に顔を埋めて泣いた。
次の日。今日もまた友梨さんは来なかった。
教室に入り、紗希さんに声かけられる。
「新川君、おはよう。」
「おはよう。」
「昨日、友梨に会えた?」
「お父さんが出てきて追い返された。」
「そっか。それは残念。」
「今日も行ってみるよ。」
「うん。」
放課後、再び友梨さんのアパートを訪れるも、案の定、配布物を渡したら追い返された。
次の日。今日もまた友梨さんは来ない。
「紗希さん、おはよう。友梨さんのこと聞いてない?」
「新川君、おはよう。友梨は学校に行きたがってるんだけどお父さんに止められてるんだって。」
「そうなの!?」
「、、うん。理由は教えてくれなかったけど、、。」
「気になるな。」
「私の予想だけど、友梨のお父さんは友梨にゾッコンだから、名前が出た男の人を排除しようと」
「そうなのか。」
「諦めずに行ったら会わせてくれるのかもね。」
「うん、分かった。」
放課後。私は友梨さんのアパートに寄った。
チャイムを鳴らして出てきたのは、友梨さんだった。
「新川君、会いたかったー。」
「僕も会えて良かった。」
「たまたま、パパがコンビニに行ってるだけだから直ぐに帰った方が良いと思う。」
「分かった。じゃあこれ。」
「ありがとう。」
友梨さんはそういうと私の頬にキスをした。
私は直ぐに友梨さんの部屋を出てアパートの入口に向かうと入口で友梨さんのお父さんと出くわした。
「また君か。友梨には何もしてないだろうな。」
「はい。配布物を渡しただけですので。」
「そうか。それなら良いが。」
「では、失礼します。」
私は嬉しい気持ちを抑えて急ぎ足で家に帰った。
翌日の朝、友梨さんが家の前で待っていた。
「新川君、おはよう。」
「おはよう。もう大丈夫なんだね。」
「うん。また一緒に学校に行こっ。」
「うん。」
私は、再び友梨さんと一緒に行けることに気持ちが昂った。
それからしばらく一緒に友梨さんと登下校が出来た。嬉しい日は過ぎていくのが早い。私はこれからも変わらず一緒に登下校出来るものだと信じていた。この時は。
3月14日。ホワイトデー。
この日は、終業式だった。
教室で担任の先生が入ってきて、終業式のある体育館に移動する前にある話があると話をした。
「折野、前に。」
「はい。」
友梨さんの名前が呼ばれ友梨さんは前に進んだ。私は、なんの事だか全く分からなかった。
「急な話になるが、折野は今日でこの学校を離れて転向することになった。折野の両親から学期が終わるまでは普通に通わせてほしい、それまでは転校のこと伏せてほしいとのことだった。」
私は頭の中が真っ白になり茫然自失。開いた口が塞がらない状態だった。
「折野は新学期から県外の進学校に転向するそうだ。折野、折角だから一言喋るか。」
「はい。皆さん、短い間でしたが、仲良くしてもらってありがとうございます。この度、親の転勤のために福岡に引っ越すことが決まり転向することになりました。皆さんとの思い出を胸に新天地でも頑張っていきます。」
友梨さんはそう挨拶をして会釈しながら涙がこぼれていた。その涙を見て私ももらい泣きをした。
「折野は、終業式には都合で参加できないとのことで、これで皆とは最後になる。」
「みんな、一年間本当にありがとうございました。」
友梨さんは、そう教室の前で一礼して、教室を離れた。
終礼後、紗希さんが話しかけて来た。
「新川君、この後友梨の所行くでしょ。」
「えっ?」
「今日出発なんだって。13時30分に。」
教室の時計を確認したら12時45分だった。
「13時30分!?知らなかった。ありがとう。行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「ありがとう。」
私は走って家に帰った。
「おかえり。昼飯は?」
「いらない!」
部屋に荷物を下ろすと再び走って友梨さんのアパートに向かった。
13時25分。
友梨さんのアパートに着いたら、駐車場に引越し用のトラックに荷物を積み終わり、正に車に乗り込むところだった。
「友梨さん!」
車に乗り込む直前に友梨さんを呼び止めた。友梨さんは気付いて振り返って私の方へ駆け寄ると言った。
「新川君、今までありがとう。これ。」
そう言うと友梨さんは、私に一枚のメモ紙を握らせて私の額にキスをして、車に乗った。
車が動くと友梨さんは窓を開けて手を振った。私も手を振り見送った。車が見えなくなるまで。
見送った後、私は家まで無言で帰って、自転車に乗り換え牛丼屋に行った。虚しい気持ちで一人食べる牛丼、食べながら涙が出ていつもよりしょっぱい牛丼だった。
次の日、ポケットに入れたメモ紙を開いてみると友梨さんの新しい住所とメッセージが書いてあった。メッセージには、「手紙待ってるね。」と一言あった。
私はその日から週に一度、手紙を出す日を決めて三ヶ月間、毎週手紙を送ってみるも、返事が来ない。私は新年度の忙しさもあり返事の来ない友梨さんの手紙を次第に待つことを諦め、手紙を送るのを止めた。
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