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第4話:中学時代②
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4月。私は中学3年になっていた。
7月、引退試合となる剣道部の県総体が終わり、落ち着いた頃、同じクラスのディエゴという日系ブラジル人が私の前の席に座っていて、不意に私の方へ話しかけてきた。
「ねぇ新川っち、日曜日予定ある?」
「日曜日?特に予定ないよ。」
「公民館で昔の遊び体験イベントあるんだけど、ボランティアスタッフ足りなくて、お願いしてもOK?」
「うん、良いよ。」
「ありがとう。イベントは10時からだけど、ボランティアスタッフは9時15分集合だから宜しくね!」
「了解!」
日曜日。私は言われた集合時間の10分前に公民館に着いた。「もう少し遅くても良かったかな」と思ってたら、既に到着していた人もいた。ディエゴと保健室の猪飼未鈴先生とALTのミシェル先生がいた。
「おはようございます。ディエゴ、おはよう。ごめん、未鈴先生とミシェル先生が何でいるの?」
「新川っち、ごめん。話してなかったね。僕はさんさんクラブのメンバーで顧問が未鈴先生、副顧問がミシェル先生なんだよ。」
「さんさんクラブって、何?」
私がそうやってディエゴに聞くと隣にいた未鈴先生が答えた。
「さんさんクラブってのは、三中のボランティアクラブのことなの。他は部活としてボランティアしている所もあるみたいだけど、うちは未だ去年、出来たばかりだし。」
「そうなんですね。」
「新川君も、良かったらさんさんクラブに入らない?」
「はい。」
「良かった。じゃあ、明日改めて保健室来て貰える?ミーティングがあるんだ。そこで他のメンバーに紹介するよ。」
「分かりました。」
定刻の9時15分になり、イベントの説明があった。私はガムテープでさんさんクラブと書いたものを服の胸の所に貼り、役割で一緒になったミシェル先生と竹とんぼ制作のブースに入った。
「私、竹とんぼって初めて!」
ミシェル先生は初めて見る竹とんぼに興味津々で目がキラキラしていた。
「僕も、竹とんぼは初めてです。」
会場は、外会場と中会場とあり、外会場には私たちのいる竹とんぼ、竹馬、缶ぽっくりのブースがあり、ミシェル先生はもちろん、私も初めて見るものに興味津々だった。
ディエゴは未鈴先生と一緒に中会場のあやとり、お手玉、メンコ、編み縄跳びのブースにいた。
どれもこれも私にとっては初めてのもので楽しみだった。ブースで説明を受けて、9時50分の集合時間を待つ。
9時50分、入場開始すると地区内の敬老会の人や対象の保育園、幼稚園、小学校に通う人達がゾロゾロとやって来た。その中に、保育園の頃の担任だった鐘築ゑみ子先生の姿もあった。先に気づいたのはゑみ子先生だった。
「浩之君、久しぶり!大きくなったね。」
「ゑみ子先生、お久しぶりです。」
「浩之君、部活は?」
「剣道部でした。この間、引退しました。」
「そっか。受験生だっけ?」
「はい。未だどこ受けるか決めてなくて。」
「剣道は続けるの?」
「それも未だ分からないですね。」
「そうだよね。まぁ、なんにせよ頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
ゑみ子先生は、話を終えると園児たちの所へ戻って行った。
イベントは、定期的に子供たちが色んなブースを回ったりして、ごった返すことは無かったものの、人の波は途切れることなく、成功という形で終わった。
17時。来場者が帰ったことを確認してボランティアスタッフだけが集まった。リーダーを務めていた社会福祉協議会の職員の小野田由美さんとボランティア団体の代表の三嶋隼平さんがボランティアスタッフを呼んだ。
「みなさん、今日はありがとうございました。ささやかですが、アイスクリームを用意してありますので食べてください。」
ボランティアスタッフに差し入れとしてアイスクリームが振る舞われた。夏休み前最後の日曜日だったので気温も高く日差しも痛い。つかの間のアイスクリームの冷たさが風の温度も気持ち良く感じる時間に汗かいた体に優しく癒してくれる。
「はぁー、美味い。」
私はアイスクリームを食べて疲れを癒すとさんさんクラブの所に戻った。
未鈴先生が改めて締めの挨拶をした。
「さんさんクラブのみなさん、今日はお疲れ様でした。明日はまたミーティングもありますので、よろしくお願いします。」
「はーい!」
無事にイベントが終わり私は帰宅した。
次の日の放課後、私はディエゴと一緒に保健室に行った。未鈴先生、ミシェル先生、3年生は私とディエゴだけのようだ。2年生が5人、1年生が4人集まっていた。
未鈴先生が話し始める。
「みんな、集まったみたいだからミーティング、始めようか。」
「はーい。」
ミシェル先生が保健室入口に会議中の札をかけて、他のメンバーは椅子を円になるように並べて座った。
「じゃあ、夏休みの予定配るね。」
未鈴先生は夏休みの予定表を生徒たちに配った。そこには夏休みに予定されているイベントや行事と参加予定人数が記されてあった。
「先ずは、新しく入ってくれた新川浩之くん、挨拶お願いします。」
「はい。3年の新川浩之です。同じクラスのディエゴに誘われて入りました。よろしくお願いします。」
私は一礼すると他のメンバーから拍手をもらった。
「新川くんには、ボランティア推薦になるため、夏休みのイベントや行事には積極的に参加してもらいたいと思います。」
「分かりました。」
私は改めて夏休みの予定表に目を通した。
募金活動、ペットボトルキャップの回収や街頭清掃、海岸清掃の環境活動、福祉施設の訪問活動イベントのボランティアスタッフなど基本、毎週末に大体予定が入っている。
「夏休みの予定表に参加するものにチェックを入れて明後日の終業式の日までに提出してください。今日のミーティングは以上です。」
ミーティングが終わり、メンバーが続々と保健室を出ていく。私は早速、予定表に全ての行事やイベントの参加欄にチェックを入れて、入会届を記入して未鈴先生に提出した。
「未鈴先生、お願いします。」
「新川君、全部に出てくれるの?有難いけど剣道のスポ少、大会とか大丈夫?」
「今のところは、8月の最終週だけなので、被ってないから大丈夫かなと。また大会が被るようなら連絡します。」
「分かった。じゃあ、とりあえずこれで預かっとくね。新川君、これから時間ある?」
「大丈夫です。」
「担任の岡本先生と来間校長にボランティア推薦の旨を伝えようと思うから一緒に来てもらっても良い?」
「分かりました。お願いします。」
私は未鈴先生と一緒に校長室に入っていった。
校長室に入ると、来間校長と岡本先生が待っていた。
未鈴先生が口火を切る。
「来間校長、岡本先生。突然の声掛けにも関わらずお時間頂きありがとうございます。こちらにいる、新川浩之くんのボランティア推薦をしたいと思い、来間校長と岡本先生のご意見伺おうかと思いまして。」
「猪飼先生、ボランティア推薦で推すということは、どこか適した所があるんですね。」
「はい、来間校長。私は、西高が良いのでは無いかと。私立ですが、ボランティアが盛んで福祉大学への進学率も高いと聞きましたので、思う存分ボランティアを続けられるかなと思います。」
「新川くん。この間の三者面談で、数学と体育の成績がもう少し上がれば普通推薦で公立の社高に受験できるんだよ。」
岡本先生にそう言われて私は少し悩んだが私は今の思いを伝えてみた。
「今のままだとギリギリなんですよね。社高が。その状態で社高に入っても付いて行けなくなるかなって。社高、剣道強いしレベルが高い。経験者は優先的に入部のようだし。正直、剣道はもう良いかなって。この間、ボランティアやってみたら楽しくて。こっちを続けてみたいなって思ってます。」
「新川くんの気持ちは分かったわ。普通推薦ではなくボランティア推薦で西高受けてみなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
来間校長が話し始める。
「猪飼先生、あなた確か国語の教員免許持ってましたよね?」
「はい。」
「ボランティア推薦で推すからには、一つ以上作文コンクールで入賞をしないといけません。猪飼先生、添削してあげてください。」
「分かりました。」
「新川くんと言ったね。新しく見つけた楽しいという気持ち、忘れちゃダメだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
未鈴先生と私は来間校長と岡本先生に一礼をして校長室を離れると保健室に戻った。
保健室に戻ると未鈴先生はすぐさまパソコンを立ち上げ、何か調べている。暫くして何かがプリントアウトされてきた。島根県中学生作文コンクールの一覧だった。環境について、差別について、ボランティアについて、平和について、地域防災についての5つだった。
「この中で1番締切が近いのがボランティアについて、だね。締切は7月31日当日消印有効か。当日消印有効だけど、31日は日曜日だから早めが良いね。28日までに完成させよう。終業式が明後日の21日だからそこから書き始めても間に合うね。テーマは「ボランティアを始めたきっかけとこれからあなたが出来ること」か。これなら新川くんも書きやすいでしょ。」
「はい。お願いします。」
「じゃあ、終業式終わったら保健室来てくれる?スケジュールの確認と段取りを決めよう。」
「分かりました。」
「明後日までに、「ボランティア始めたきっかけとどういうことをこれからやっていきたいか」を考えておいてくれる?」
「分かりました。」
「じゃあ、また明後日ね。」
「はい。ありがとうございます。失礼します。」
私は保健室を出て、家に帰ると早速自分の部屋の机に向かった。テーマについて考えてみたが、ボランティアを始めたきっかけは「誘われたから」というきっかけで書けるんだけど、「これからあなたが出来ること」というのが中々思いつかないでいる。とりあえず、さんさんクラブに入る前に自分一人でしていたことを書き出してみたものの、町内のゴミ拾いだけだった。とりあえず、ゴミ拾いで感じたことを書き出して終わった。
終業式の日、終業式が終わると約束通りに保健室へ向かった。
「未鈴先生、遅くなりました。お願いします。」
「新川くん。大丈夫だよ。作文のテーマのやつ考えた?」
「はい。でも、中途半端になってしまって、、、」
「見せてもらっても良い?」
「はい。」
私は持ってきたメモ紙を未鈴先生に渡した。
メモ紙を見ながら未鈴先生は私に説明をしてきた。
「新川君、ボランティア始めたきっかけは誘ってもらったから、じゃないでしょ?」
「えっ?」
「さんさんクラブで始めたきっかけはディエゴくんの誘いだったんだろうけど、去年からボランティアやってるよね?」
「去年?、、、稲佐の浜のクリーンアップ作戦ですか?」
「そう!海岸清掃行ってたんでしよ。そのきっかけは何だったの?」
「あれは、たまたま通った公民館の窓にチラシが貼ってあって予定が空いてたから参しただけで。」
「でも、単発じゃなくて続けて参加してたんでしょ?」
「えぇ。毎月の定例開催になったので。
??どうしてそれを??」
「そのうち、1回にディエゴくんとマルセルくんも参加してたみたいでね。班は違ったけど名簿で新川くんの名前を見つけたって。」
「そうだったんですね。」
「うん。だから、海岸清掃を始めたきっかけと続けて参加するきっかけも書いてね。」
「はい。」
改めて今回の作文コンクールについてを調べたら、文字数は1200文字程度とあった。
「未鈴先生、この程度ってなんですか?」
「程度っていうのは±100文字まで可ということなんだ。」
「なるほど。」
「今回の文字数は1200文字程度だから、本来は1100~1300文字だけど、1200文字は原稿用紙3枚で1300文字は4枚目の中途半端な所で終わるから、キリよく3枚で終えられるように1100~1200文字で書こうね。」
「分かりました。」
「じゃあ、早速書いてみようか。取り敢えず新川くんが考えたメモのキーワードを、新川くんなりに繋げて書いてみようか。」
「分かりました。」
私は未鈴先生に言われるまま原稿用紙に書いてみた。自分なりに書いてみたら、原稿用紙3枚目の半分、1000字で終わってしまった。
「未鈴先生、200字余っちゃいました。」
「見してもらってもいい?」
「はい。」
書いたものを未鈴先生にチェックしてもらう。未鈴先生は、的確に構成を作ってくれてアドバイスの通りに書いたら余ったみ200字が見事に埋まった。
「凄い。余りが埋まった。」
「後は、誤字脱字のチェックと言葉の言い回しのチェックだね。今日、このままやっても良いんだけど、新川くんが一日これを家で読んできてチェックしてもらってから明日また書こうか。その方が修正には有効だし。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「帰って直ぐに読み直すより、時間経ってから読み直した方が客観的に読めるから、寝る前とかに読み直しすると良いよ。」
「分かりました。」
未鈴先生の作文の添削が終わると家に帰った。そして未鈴先生の言う通りに夜寝る前に読み直してみることにした。そこで気づいたことを踏まえて書き直して翌日持って行った。
翌日、未鈴先生の修正も無事に終わった。
「終わったー!」
「お疲れ様。お昼、先生がご馳走するから付き合ってくれる?」
「はい。ありがとうございます。」
未鈴先生の計らいでお昼は近くの牛丼屋さんでご馳走してもらうことになった。
「新川くん、お疲れ様でした。」
「未鈴先生、ありがとうございました。」
「この後、郵便局に連れて行ってあげるから自分で郵送してみる?」
「良いんですか?」
「もちろん!折角自分で書いたんだから自分で送りたいよね?」
「はい。ありがとうございます。」
牛丼屋さんで昼食後、保健室で必要事項を記入して、未鈴先生の車で駅前の郵便局の本局まで行って、書類を提出した。
「未鈴先生、提出してきました。」
「新川くん、本当にお疲れ様。じゃあ、学校に戻ろうか。」
「はい。」
未鈴先生は車を走らせて学校に戻った。
その車内。
「今回の作文の結果は、二週間後結果が分かって順に送られてくる。後は結果を待つばかりだね。」
「はい。緊張します。」
二週間後の金曜日、島根県中学生作文コンクールの結果が発表された。週明けの月曜日には学校に結果が届き、無事に佳作に入賞する事が出来、授賞式の案内が届いた。
その後も3本の作文コンクールに応募し、内2本が佳作に入賞する事が出来た。
あの時、不意にディエゴにボランティアに誘ってくれた事で、福祉の事について更に興味を持つことが出来た。ディエゴとは、この後、暫く年数が経ったあともボランティアを一緒にする事になる。
7月、引退試合となる剣道部の県総体が終わり、落ち着いた頃、同じクラスのディエゴという日系ブラジル人が私の前の席に座っていて、不意に私の方へ話しかけてきた。
「ねぇ新川っち、日曜日予定ある?」
「日曜日?特に予定ないよ。」
「公民館で昔の遊び体験イベントあるんだけど、ボランティアスタッフ足りなくて、お願いしてもOK?」
「うん、良いよ。」
「ありがとう。イベントは10時からだけど、ボランティアスタッフは9時15分集合だから宜しくね!」
「了解!」
日曜日。私は言われた集合時間の10分前に公民館に着いた。「もう少し遅くても良かったかな」と思ってたら、既に到着していた人もいた。ディエゴと保健室の猪飼未鈴先生とALTのミシェル先生がいた。
「おはようございます。ディエゴ、おはよう。ごめん、未鈴先生とミシェル先生が何でいるの?」
「新川っち、ごめん。話してなかったね。僕はさんさんクラブのメンバーで顧問が未鈴先生、副顧問がミシェル先生なんだよ。」
「さんさんクラブって、何?」
私がそうやってディエゴに聞くと隣にいた未鈴先生が答えた。
「さんさんクラブってのは、三中のボランティアクラブのことなの。他は部活としてボランティアしている所もあるみたいだけど、うちは未だ去年、出来たばかりだし。」
「そうなんですね。」
「新川君も、良かったらさんさんクラブに入らない?」
「はい。」
「良かった。じゃあ、明日改めて保健室来て貰える?ミーティングがあるんだ。そこで他のメンバーに紹介するよ。」
「分かりました。」
定刻の9時15分になり、イベントの説明があった。私はガムテープでさんさんクラブと書いたものを服の胸の所に貼り、役割で一緒になったミシェル先生と竹とんぼ制作のブースに入った。
「私、竹とんぼって初めて!」
ミシェル先生は初めて見る竹とんぼに興味津々で目がキラキラしていた。
「僕も、竹とんぼは初めてです。」
会場は、外会場と中会場とあり、外会場には私たちのいる竹とんぼ、竹馬、缶ぽっくりのブースがあり、ミシェル先生はもちろん、私も初めて見るものに興味津々だった。
ディエゴは未鈴先生と一緒に中会場のあやとり、お手玉、メンコ、編み縄跳びのブースにいた。
どれもこれも私にとっては初めてのもので楽しみだった。ブースで説明を受けて、9時50分の集合時間を待つ。
9時50分、入場開始すると地区内の敬老会の人や対象の保育園、幼稚園、小学校に通う人達がゾロゾロとやって来た。その中に、保育園の頃の担任だった鐘築ゑみ子先生の姿もあった。先に気づいたのはゑみ子先生だった。
「浩之君、久しぶり!大きくなったね。」
「ゑみ子先生、お久しぶりです。」
「浩之君、部活は?」
「剣道部でした。この間、引退しました。」
「そっか。受験生だっけ?」
「はい。未だどこ受けるか決めてなくて。」
「剣道は続けるの?」
「それも未だ分からないですね。」
「そうだよね。まぁ、なんにせよ頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
ゑみ子先生は、話を終えると園児たちの所へ戻って行った。
イベントは、定期的に子供たちが色んなブースを回ったりして、ごった返すことは無かったものの、人の波は途切れることなく、成功という形で終わった。
17時。来場者が帰ったことを確認してボランティアスタッフだけが集まった。リーダーを務めていた社会福祉協議会の職員の小野田由美さんとボランティア団体の代表の三嶋隼平さんがボランティアスタッフを呼んだ。
「みなさん、今日はありがとうございました。ささやかですが、アイスクリームを用意してありますので食べてください。」
ボランティアスタッフに差し入れとしてアイスクリームが振る舞われた。夏休み前最後の日曜日だったので気温も高く日差しも痛い。つかの間のアイスクリームの冷たさが風の温度も気持ち良く感じる時間に汗かいた体に優しく癒してくれる。
「はぁー、美味い。」
私はアイスクリームを食べて疲れを癒すとさんさんクラブの所に戻った。
未鈴先生が改めて締めの挨拶をした。
「さんさんクラブのみなさん、今日はお疲れ様でした。明日はまたミーティングもありますので、よろしくお願いします。」
「はーい!」
無事にイベントが終わり私は帰宅した。
次の日の放課後、私はディエゴと一緒に保健室に行った。未鈴先生、ミシェル先生、3年生は私とディエゴだけのようだ。2年生が5人、1年生が4人集まっていた。
未鈴先生が話し始める。
「みんな、集まったみたいだからミーティング、始めようか。」
「はーい。」
ミシェル先生が保健室入口に会議中の札をかけて、他のメンバーは椅子を円になるように並べて座った。
「じゃあ、夏休みの予定配るね。」
未鈴先生は夏休みの予定表を生徒たちに配った。そこには夏休みに予定されているイベントや行事と参加予定人数が記されてあった。
「先ずは、新しく入ってくれた新川浩之くん、挨拶お願いします。」
「はい。3年の新川浩之です。同じクラスのディエゴに誘われて入りました。よろしくお願いします。」
私は一礼すると他のメンバーから拍手をもらった。
「新川くんには、ボランティア推薦になるため、夏休みのイベントや行事には積極的に参加してもらいたいと思います。」
「分かりました。」
私は改めて夏休みの予定表に目を通した。
募金活動、ペットボトルキャップの回収や街頭清掃、海岸清掃の環境活動、福祉施設の訪問活動イベントのボランティアスタッフなど基本、毎週末に大体予定が入っている。
「夏休みの予定表に参加するものにチェックを入れて明後日の終業式の日までに提出してください。今日のミーティングは以上です。」
ミーティングが終わり、メンバーが続々と保健室を出ていく。私は早速、予定表に全ての行事やイベントの参加欄にチェックを入れて、入会届を記入して未鈴先生に提出した。
「未鈴先生、お願いします。」
「新川君、全部に出てくれるの?有難いけど剣道のスポ少、大会とか大丈夫?」
「今のところは、8月の最終週だけなので、被ってないから大丈夫かなと。また大会が被るようなら連絡します。」
「分かった。じゃあ、とりあえずこれで預かっとくね。新川君、これから時間ある?」
「大丈夫です。」
「担任の岡本先生と来間校長にボランティア推薦の旨を伝えようと思うから一緒に来てもらっても良い?」
「分かりました。お願いします。」
私は未鈴先生と一緒に校長室に入っていった。
校長室に入ると、来間校長と岡本先生が待っていた。
未鈴先生が口火を切る。
「来間校長、岡本先生。突然の声掛けにも関わらずお時間頂きありがとうございます。こちらにいる、新川浩之くんのボランティア推薦をしたいと思い、来間校長と岡本先生のご意見伺おうかと思いまして。」
「猪飼先生、ボランティア推薦で推すということは、どこか適した所があるんですね。」
「はい、来間校長。私は、西高が良いのでは無いかと。私立ですが、ボランティアが盛んで福祉大学への進学率も高いと聞きましたので、思う存分ボランティアを続けられるかなと思います。」
「新川くん。この間の三者面談で、数学と体育の成績がもう少し上がれば普通推薦で公立の社高に受験できるんだよ。」
岡本先生にそう言われて私は少し悩んだが私は今の思いを伝えてみた。
「今のままだとギリギリなんですよね。社高が。その状態で社高に入っても付いて行けなくなるかなって。社高、剣道強いしレベルが高い。経験者は優先的に入部のようだし。正直、剣道はもう良いかなって。この間、ボランティアやってみたら楽しくて。こっちを続けてみたいなって思ってます。」
「新川くんの気持ちは分かったわ。普通推薦ではなくボランティア推薦で西高受けてみなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
来間校長が話し始める。
「猪飼先生、あなた確か国語の教員免許持ってましたよね?」
「はい。」
「ボランティア推薦で推すからには、一つ以上作文コンクールで入賞をしないといけません。猪飼先生、添削してあげてください。」
「分かりました。」
「新川くんと言ったね。新しく見つけた楽しいという気持ち、忘れちゃダメだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
未鈴先生と私は来間校長と岡本先生に一礼をして校長室を離れると保健室に戻った。
保健室に戻ると未鈴先生はすぐさまパソコンを立ち上げ、何か調べている。暫くして何かがプリントアウトされてきた。島根県中学生作文コンクールの一覧だった。環境について、差別について、ボランティアについて、平和について、地域防災についての5つだった。
「この中で1番締切が近いのがボランティアについて、だね。締切は7月31日当日消印有効か。当日消印有効だけど、31日は日曜日だから早めが良いね。28日までに完成させよう。終業式が明後日の21日だからそこから書き始めても間に合うね。テーマは「ボランティアを始めたきっかけとこれからあなたが出来ること」か。これなら新川くんも書きやすいでしょ。」
「はい。お願いします。」
「じゃあ、終業式終わったら保健室来てくれる?スケジュールの確認と段取りを決めよう。」
「分かりました。」
「明後日までに、「ボランティア始めたきっかけとどういうことをこれからやっていきたいか」を考えておいてくれる?」
「分かりました。」
「じゃあ、また明後日ね。」
「はい。ありがとうございます。失礼します。」
私は保健室を出て、家に帰ると早速自分の部屋の机に向かった。テーマについて考えてみたが、ボランティアを始めたきっかけは「誘われたから」というきっかけで書けるんだけど、「これからあなたが出来ること」というのが中々思いつかないでいる。とりあえず、さんさんクラブに入る前に自分一人でしていたことを書き出してみたものの、町内のゴミ拾いだけだった。とりあえず、ゴミ拾いで感じたことを書き出して終わった。
終業式の日、終業式が終わると約束通りに保健室へ向かった。
「未鈴先生、遅くなりました。お願いします。」
「新川くん。大丈夫だよ。作文のテーマのやつ考えた?」
「はい。でも、中途半端になってしまって、、、」
「見せてもらっても良い?」
「はい。」
私は持ってきたメモ紙を未鈴先生に渡した。
メモ紙を見ながら未鈴先生は私に説明をしてきた。
「新川君、ボランティア始めたきっかけは誘ってもらったから、じゃないでしょ?」
「えっ?」
「さんさんクラブで始めたきっかけはディエゴくんの誘いだったんだろうけど、去年からボランティアやってるよね?」
「去年?、、、稲佐の浜のクリーンアップ作戦ですか?」
「そう!海岸清掃行ってたんでしよ。そのきっかけは何だったの?」
「あれは、たまたま通った公民館の窓にチラシが貼ってあって予定が空いてたから参しただけで。」
「でも、単発じゃなくて続けて参加してたんでしょ?」
「えぇ。毎月の定例開催になったので。
??どうしてそれを??」
「そのうち、1回にディエゴくんとマルセルくんも参加してたみたいでね。班は違ったけど名簿で新川くんの名前を見つけたって。」
「そうだったんですね。」
「うん。だから、海岸清掃を始めたきっかけと続けて参加するきっかけも書いてね。」
「はい。」
改めて今回の作文コンクールについてを調べたら、文字数は1200文字程度とあった。
「未鈴先生、この程度ってなんですか?」
「程度っていうのは±100文字まで可ということなんだ。」
「なるほど。」
「今回の文字数は1200文字程度だから、本来は1100~1300文字だけど、1200文字は原稿用紙3枚で1300文字は4枚目の中途半端な所で終わるから、キリよく3枚で終えられるように1100~1200文字で書こうね。」
「分かりました。」
「じゃあ、早速書いてみようか。取り敢えず新川くんが考えたメモのキーワードを、新川くんなりに繋げて書いてみようか。」
「分かりました。」
私は未鈴先生に言われるまま原稿用紙に書いてみた。自分なりに書いてみたら、原稿用紙3枚目の半分、1000字で終わってしまった。
「未鈴先生、200字余っちゃいました。」
「見してもらってもいい?」
「はい。」
書いたものを未鈴先生にチェックしてもらう。未鈴先生は、的確に構成を作ってくれてアドバイスの通りに書いたら余ったみ200字が見事に埋まった。
「凄い。余りが埋まった。」
「後は、誤字脱字のチェックと言葉の言い回しのチェックだね。今日、このままやっても良いんだけど、新川くんが一日これを家で読んできてチェックしてもらってから明日また書こうか。その方が修正には有効だし。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「帰って直ぐに読み直すより、時間経ってから読み直した方が客観的に読めるから、寝る前とかに読み直しすると良いよ。」
「分かりました。」
未鈴先生の作文の添削が終わると家に帰った。そして未鈴先生の言う通りに夜寝る前に読み直してみることにした。そこで気づいたことを踏まえて書き直して翌日持って行った。
翌日、未鈴先生の修正も無事に終わった。
「終わったー!」
「お疲れ様。お昼、先生がご馳走するから付き合ってくれる?」
「はい。ありがとうございます。」
未鈴先生の計らいでお昼は近くの牛丼屋さんでご馳走してもらうことになった。
「新川くん、お疲れ様でした。」
「未鈴先生、ありがとうございました。」
「この後、郵便局に連れて行ってあげるから自分で郵送してみる?」
「良いんですか?」
「もちろん!折角自分で書いたんだから自分で送りたいよね?」
「はい。ありがとうございます。」
牛丼屋さんで昼食後、保健室で必要事項を記入して、未鈴先生の車で駅前の郵便局の本局まで行って、書類を提出した。
「未鈴先生、提出してきました。」
「新川くん、本当にお疲れ様。じゃあ、学校に戻ろうか。」
「はい。」
未鈴先生は車を走らせて学校に戻った。
その車内。
「今回の作文の結果は、二週間後結果が分かって順に送られてくる。後は結果を待つばかりだね。」
「はい。緊張します。」
二週間後の金曜日、島根県中学生作文コンクールの結果が発表された。週明けの月曜日には学校に結果が届き、無事に佳作に入賞する事が出来、授賞式の案内が届いた。
その後も3本の作文コンクールに応募し、内2本が佳作に入賞する事が出来た。
あの時、不意にディエゴにボランティアに誘ってくれた事で、福祉の事について更に興味を持つことが出来た。ディエゴとは、この後、暫く年数が経ったあともボランティアを一緒にする事になる。
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