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第五話
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かわいいお揃いの猫耳カチューシャを三人で付け、スマホで写真を撮る。
「お、かわいいなあ」
「アイル、カチューシャがよく似合ってるね」
「パパもママもかわいいです」
そう言ってアイルは、抱っこする勝希と隣を歩く紬の頭を撫でた。
アイルが人間界で過ごす最後の日、三人は遊園地へと来ていた。これも思い出になればいいなと、すでに紬の目には涙が溜まっている。
「紬、泣くの早いぞ」
「だって…」
「これが最後ってわけじゃないんだ。アイルは絶対に会いに来てくれる。ほら、笑え」
目元にキスされくすぐったくて笑うと勝希の腕の中のアイルがにこっと笑った。
「パパとママはなかよしさん!」
「そうだな、パパとママは仲良しだからな」
「でもね、パパとママはアイルとも仲良しさんなんだよ?」
「みんななかよしさん!」
子供のアイルでも乗れる乗り物にたくさん乗り、終始アイルはご機嫌だった。
最後に、と三人で観覧車に乗った。
「わあああ! たかいです! パパのかたぐるまよりたかいです!」
「観覧車だからなあ」
「か…?」
「か、ん、ら、ん、しゃ」
「からんしゃ!」
舌足らずな喋り方ももう聞けないんだなあと、アイルの頭を撫でながら紬は思った。
ぎゅ、と小さな体を抱きしめる。
「アイル、この三週間はどうだった? キミにとって楽しかったなら、ママはすごく嬉しいな」
「すっごくたのしかった! パパとママは?」
「パパも楽しかったぞ、アイル」
「ママもね、すっごく楽しかった。だから…」
また遊びに来てね、という言葉は言えなかった。
顔を上げた紬の目線の先の観覧車の外に、鈍く光る鎌を持った死神が浮かんでいたからだ。
紬は思い出す。少し前に勝希が死神報告に魔法省へ行った際に持ち帰った資料の中に、自分の腹に刻まれたアザのことが書かれていたのを。
あれは死神が目印でつける、人間に対してのターゲットという意味だった。
まだ勝希は気づいていない。ーー今この瞬間、自分だけが死神に気づいている。
(アイルを守らなきゃ)
死神が鎌を振り上げるのを見た瞬間、紬は出入り口のドアを蹴り上げた。幸いにも外側の簡単なロックはすぐに外れてドアが開き、紬は迷うことなく観覧車の外に飛び出た。
「紬!?」
「ママ!」
死神の狙いは自分である、だったら自分ひとりがいなくなればいい。
これからもアイルが健やかに育ちますようにと願いながら、紬は観覧車の最高到達点より落ちていった。
しかし紬は目を見開く。
アイルと勝希が紬を追って観覧車の外へ飛び出したのだ。
すぐにアイルが腕の中に落ち、続いて勝希の大きな体に包み込まれる。
「何してんだ!」
「だって死神が…!」
「だからってひとりで犠牲になるな! ちょっと待ってろ、すぐに魔法で…」
「パパ、ママ」
三人で落ちる中、腕の中の小さな天使が笑う。
「だいじょぶです。しょーちゃんがおしえてくれたの。ボクにはね、かみさまのごかごがあるの」
天使の体が光り輝き、紬と勝希の体も光に包まれた。
追いかけてきた死神の体すらも光に包まれ、そして成仏するかのようにサラサラと砂へと変化する。
柔らかな光に包まれた三人はゆっくりと落ち、そして地面へ足をつけた。
アザを付けられた腹があたたかい。きっと消えたんだろうなと、感覚的に思った。
しかし何が起こったのかイマイチ把握できない紬がぽかんと口を開けていると、勝希に頬をつねられた。
「おいコラ。勝手な行動をするんじゃない」
「あの、えっと、死神が見えたから咄嗟に…」
「だからっていきなり飛び降りるな。こっちの心臓が縮み上がったぞ…」
そう言って勝希は深いため息を吐いた。ごめん、と謝りながらその背中を撫でてやる。
それにしても、と勝希がアイルの頭を撫でた。
「しょーちゃんに感謝だな。まさかアイルに助けられるとは思わなかった」
「えへへ、しょーちゃんはすごいのです」
「すごいのはお前だよ、アイル。助けてくれてありがとうな」
勝希がアイルを抱っこして抱きしめる。そしてその片腕を、紬に向かって広げた。
「ほら、ママもおいで」
「ママもぎゅーしよ!」
紬は泣き笑いの表情で、愛しい家族の元へと飛び込んだ。
「それじゃあいってきます!」
まるでいつもの学校へ行くように、ぴょん、とワープ装置に飛び込んだアイルの姿が消えた。
今日はアイルが天界へ帰る日だ。あっという間に消えた小さな背中に、紬は笑ってしまった。
「アイルらしいなあ」
「またすぐに帰ってきてくれると信じよう。な、紬」
そう言って涙を流す紬の目元に勝希はたくさんのキスを降らせてくれる。
これからさみしくなるなあ、と苦笑していた時だった。再びワープ装置が光り、ぴょん、とアイルが飛び出してきた。
「ただいま!」
「え、アイル!?」
「どうしたんだ、何か忘れ物か?」
ふたりが慌てて駆け寄るも、アイルは不思議そうな顔をしていた。
「んーん、おうちにかえってきたの。きょうはせんせえのあいさつだけだもん」
そう言って、はい、とふたりに一枚のプリントを渡した。
しかし読むより先にアイルが怒った。
「パパもママもこのプリントかくのわすれてたでしょ。ボクがせんせえにおこられたんだからね!」
「す、すみません…。このプリントって…」
「将来希望調査書?」
プリントを読み上げる勝希と紬が首を傾いだ。
こんなプリント見ていない、と思っても毎日のように大量に名前を書いてハンコを押したのだ、一枚くらい書き忘れがあっても納得してしまう。
将来希望調査書には、これからどうしたいか、とアンケートのようなものが書かれていた。
「えーっと、養育者の皆様へ。養育延長の希望があればアンケートのご回答をお願いします。延長希望なし、延長希望一ヶ月、一年、成人まで……え、これ、めちゃくちゃ大事なプリントだよ!?」
「おいおいヤバいな…」
紬と勝希は顔を真っ青にしてアイルを見た。
「え、えっと、アイル? このプリントはいつまで…」
「きのう」
「…マジか」
「だからね、ボクがかいてせんせえにだしました!」
えっへん、と威張るものの怖くてしょうがない。
これからアイルと一緒にいられるかどうかが懸かる大事なプリントに、一体どれに丸を付けて提出したのだろう。
紬は恐る恐る尋ねた。
「アイル、は、どれに丸を付けたの…?」
そう聞くと、おいでおいでと小さな手で手招きするのでふたりで近づくと、コツン、と小さなおでこをくっつけられた。
恐らくアイルの魔法だろう、映像が流れ込んできた。
この前会ったしょーちゃんことショーゴが青い顔をしていた。
『おいアイル…このプリントはめちゃくちゃだいじなやつだぞ』
『パパもママもかくのわすれちゃったみたい。だからボクがかくの。でもね、むずかしいかんじよめない…』
『オレがよんでやる。しょうらいきぼうちょうさしょ、よういくしゃのみなさまへ…』
『??』
『あー…、かんたんにゆったらな、おおきくなったらどうしたいですか、ってきいてるんだ』
『しょーちゃんとケッコンする』
『そうだな、オレとケッコンしような。それまでどうするか、ってきいてるんだ』
『パパとママといっしょにいる』
『そうか。じゃあいちばんしたの、せいじんまで、にまるをつけとくな』
映像の中のショーゴは、確かに一番下の欄の、延長希望成人まで、に丸を付けていた。
映像はここで終わった。
紬の目に、ぶわっ、と涙が溢れた。
「しょーちゃんめちゃくちゃいい子…!」
「アイル、しょーちゃんとの結婚を認めよう。しょーちゃんは将来、大石家に欠かせない男になるだろう」
「わーい! しょーちゃんとケッコンするー!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるアイルを見ながら、力の抜けた紬は勝希にもたれかかった。
「大丈夫か、紬」
「心臓が縮み上がったよ…。本当にしょーちゃんに感謝しないと…」
「今度アイルに連れてきてもらって、ふたりで礼をしような」
「そうだね」
「パパ! ママ!」
ふたりの腕の中にアイルが飛び込んできた。
紬と勝希は笑顔で抱きしめた。
「これからもよろしくです!」
「お、かわいいなあ」
「アイル、カチューシャがよく似合ってるね」
「パパもママもかわいいです」
そう言ってアイルは、抱っこする勝希と隣を歩く紬の頭を撫でた。
アイルが人間界で過ごす最後の日、三人は遊園地へと来ていた。これも思い出になればいいなと、すでに紬の目には涙が溜まっている。
「紬、泣くの早いぞ」
「だって…」
「これが最後ってわけじゃないんだ。アイルは絶対に会いに来てくれる。ほら、笑え」
目元にキスされくすぐったくて笑うと勝希の腕の中のアイルがにこっと笑った。
「パパとママはなかよしさん!」
「そうだな、パパとママは仲良しだからな」
「でもね、パパとママはアイルとも仲良しさんなんだよ?」
「みんななかよしさん!」
子供のアイルでも乗れる乗り物にたくさん乗り、終始アイルはご機嫌だった。
最後に、と三人で観覧車に乗った。
「わあああ! たかいです! パパのかたぐるまよりたかいです!」
「観覧車だからなあ」
「か…?」
「か、ん、ら、ん、しゃ」
「からんしゃ!」
舌足らずな喋り方ももう聞けないんだなあと、アイルの頭を撫でながら紬は思った。
ぎゅ、と小さな体を抱きしめる。
「アイル、この三週間はどうだった? キミにとって楽しかったなら、ママはすごく嬉しいな」
「すっごくたのしかった! パパとママは?」
「パパも楽しかったぞ、アイル」
「ママもね、すっごく楽しかった。だから…」
また遊びに来てね、という言葉は言えなかった。
顔を上げた紬の目線の先の観覧車の外に、鈍く光る鎌を持った死神が浮かんでいたからだ。
紬は思い出す。少し前に勝希が死神報告に魔法省へ行った際に持ち帰った資料の中に、自分の腹に刻まれたアザのことが書かれていたのを。
あれは死神が目印でつける、人間に対してのターゲットという意味だった。
まだ勝希は気づいていない。ーー今この瞬間、自分だけが死神に気づいている。
(アイルを守らなきゃ)
死神が鎌を振り上げるのを見た瞬間、紬は出入り口のドアを蹴り上げた。幸いにも外側の簡単なロックはすぐに外れてドアが開き、紬は迷うことなく観覧車の外に飛び出た。
「紬!?」
「ママ!」
死神の狙いは自分である、だったら自分ひとりがいなくなればいい。
これからもアイルが健やかに育ちますようにと願いながら、紬は観覧車の最高到達点より落ちていった。
しかし紬は目を見開く。
アイルと勝希が紬を追って観覧車の外へ飛び出したのだ。
すぐにアイルが腕の中に落ち、続いて勝希の大きな体に包み込まれる。
「何してんだ!」
「だって死神が…!」
「だからってひとりで犠牲になるな! ちょっと待ってろ、すぐに魔法で…」
「パパ、ママ」
三人で落ちる中、腕の中の小さな天使が笑う。
「だいじょぶです。しょーちゃんがおしえてくれたの。ボクにはね、かみさまのごかごがあるの」
天使の体が光り輝き、紬と勝希の体も光に包まれた。
追いかけてきた死神の体すらも光に包まれ、そして成仏するかのようにサラサラと砂へと変化する。
柔らかな光に包まれた三人はゆっくりと落ち、そして地面へ足をつけた。
アザを付けられた腹があたたかい。きっと消えたんだろうなと、感覚的に思った。
しかし何が起こったのかイマイチ把握できない紬がぽかんと口を開けていると、勝希に頬をつねられた。
「おいコラ。勝手な行動をするんじゃない」
「あの、えっと、死神が見えたから咄嗟に…」
「だからっていきなり飛び降りるな。こっちの心臓が縮み上がったぞ…」
そう言って勝希は深いため息を吐いた。ごめん、と謝りながらその背中を撫でてやる。
それにしても、と勝希がアイルの頭を撫でた。
「しょーちゃんに感謝だな。まさかアイルに助けられるとは思わなかった」
「えへへ、しょーちゃんはすごいのです」
「すごいのはお前だよ、アイル。助けてくれてありがとうな」
勝希がアイルを抱っこして抱きしめる。そしてその片腕を、紬に向かって広げた。
「ほら、ママもおいで」
「ママもぎゅーしよ!」
紬は泣き笑いの表情で、愛しい家族の元へと飛び込んだ。
「それじゃあいってきます!」
まるでいつもの学校へ行くように、ぴょん、とワープ装置に飛び込んだアイルの姿が消えた。
今日はアイルが天界へ帰る日だ。あっという間に消えた小さな背中に、紬は笑ってしまった。
「アイルらしいなあ」
「またすぐに帰ってきてくれると信じよう。な、紬」
そう言って涙を流す紬の目元に勝希はたくさんのキスを降らせてくれる。
これからさみしくなるなあ、と苦笑していた時だった。再びワープ装置が光り、ぴょん、とアイルが飛び出してきた。
「ただいま!」
「え、アイル!?」
「どうしたんだ、何か忘れ物か?」
ふたりが慌てて駆け寄るも、アイルは不思議そうな顔をしていた。
「んーん、おうちにかえってきたの。きょうはせんせえのあいさつだけだもん」
そう言って、はい、とふたりに一枚のプリントを渡した。
しかし読むより先にアイルが怒った。
「パパもママもこのプリントかくのわすれてたでしょ。ボクがせんせえにおこられたんだからね!」
「す、すみません…。このプリントって…」
「将来希望調査書?」
プリントを読み上げる勝希と紬が首を傾いだ。
こんなプリント見ていない、と思っても毎日のように大量に名前を書いてハンコを押したのだ、一枚くらい書き忘れがあっても納得してしまう。
将来希望調査書には、これからどうしたいか、とアンケートのようなものが書かれていた。
「えーっと、養育者の皆様へ。養育延長の希望があればアンケートのご回答をお願いします。延長希望なし、延長希望一ヶ月、一年、成人まで……え、これ、めちゃくちゃ大事なプリントだよ!?」
「おいおいヤバいな…」
紬と勝希は顔を真っ青にしてアイルを見た。
「え、えっと、アイル? このプリントはいつまで…」
「きのう」
「…マジか」
「だからね、ボクがかいてせんせえにだしました!」
えっへん、と威張るものの怖くてしょうがない。
これからアイルと一緒にいられるかどうかが懸かる大事なプリントに、一体どれに丸を付けて提出したのだろう。
紬は恐る恐る尋ねた。
「アイル、は、どれに丸を付けたの…?」
そう聞くと、おいでおいでと小さな手で手招きするのでふたりで近づくと、コツン、と小さなおでこをくっつけられた。
恐らくアイルの魔法だろう、映像が流れ込んできた。
この前会ったしょーちゃんことショーゴが青い顔をしていた。
『おいアイル…このプリントはめちゃくちゃだいじなやつだぞ』
『パパもママもかくのわすれちゃったみたい。だからボクがかくの。でもね、むずかしいかんじよめない…』
『オレがよんでやる。しょうらいきぼうちょうさしょ、よういくしゃのみなさまへ…』
『??』
『あー…、かんたんにゆったらな、おおきくなったらどうしたいですか、ってきいてるんだ』
『しょーちゃんとケッコンする』
『そうだな、オレとケッコンしような。それまでどうするか、ってきいてるんだ』
『パパとママといっしょにいる』
『そうか。じゃあいちばんしたの、せいじんまで、にまるをつけとくな』
映像の中のショーゴは、確かに一番下の欄の、延長希望成人まで、に丸を付けていた。
映像はここで終わった。
紬の目に、ぶわっ、と涙が溢れた。
「しょーちゃんめちゃくちゃいい子…!」
「アイル、しょーちゃんとの結婚を認めよう。しょーちゃんは将来、大石家に欠かせない男になるだろう」
「わーい! しょーちゃんとケッコンするー!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねるアイルを見ながら、力の抜けた紬は勝希にもたれかかった。
「大丈夫か、紬」
「心臓が縮み上がったよ…。本当にしょーちゃんに感謝しないと…」
「今度アイルに連れてきてもらって、ふたりで礼をしような」
「そうだね」
「パパ! ママ!」
ふたりの腕の中にアイルが飛び込んできた。
紬と勝希は笑顔で抱きしめた。
「これからもよろしくです!」
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