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第四話
しおりを挟む静まり返った部屋の中、紬は小さくため息を吐いた。
「さみしい…」
預かりもちょうど半分に差し掛かった頃、一旦報告とのことでアイルは天界へ一日だけ戻ってしまったのだ。
アイルが帰って来るのは明日のお昼頃。
まだあと半日はあるのにさみしくてさみしくて、隣に座る勝希の腕に自分の腕を巻き付けるほどだった。
「アイルがいないと静かだな」
「ホントそれ…。なんかもうアイルがいる生活が当たり前になっちゃったなあ」
「おい、そこに俺はちゃんといるのか?」
「…さあ?」
明後日の方向を見ながらそう言うと「おいおい」と勝希に笑われた。
「このままアイルを引き取ることはできないのかなあ」
「俺もそれを考えてる。そもそも天界に子供という存在はいないから、アイルはあのまま天界へ戻っても養育する天使はちゃんといるのか? 親子っつー概念がそもそもないからな」
「どうにかできないかなあ…」
「どうにかと言えば、お前だってどうなんだ」
「へ? 僕?」
何のこと? と顔を上げると真剣な表情をした勝希の目線とぶつかった。
思わず紬の胸がドキッとする。
「俺のことをどう思ってるんだ。いい加減、お前の気持ちが知りたい」
伸びた手で頬に触れられる。あったかくて大きな手のひらに擦り寄りながら、紬はそっと手を重ねた。
「…ホントのこと、言っていい?」
「ああ」
「僕さ…アイルの養育者に指名されたとき、他に好きな人がいたんだ」
「……マジか」
「好きって言ってもね、ちょっといいなあ、ってぐらいの感じだからね? まだそこまで好きだったわけじゃないんだけど…うん、他に好きな人がいました」
勝希が複雑そうな顔をする。
ふふ、と紬が笑った。
「でもね、アイルと勝希くんと過ごすうちにそんなこと忘れちゃってた。アイルがかわいくてかわいくて…僕がアイルのママで、キミがアイルのパパでよかったって思ってる。アイルのことはもちろん大好き。…勝希くんのことも好きになりました」
勝希が安心したように笑い、ぎゅっと抱きしめてきた。
「紬、家族になろう」
ーー額に張り付く前髪をかき上げられながら、紬は何度も深呼吸を繰り返した。
「大丈夫か?」
「何回しても慣れないね…」
「無理をするな。…とは言っても抜きたくはないけどな。がんばれ、耐えろ」
「あはは、勝希くんは欲望に忠実だねえ」
「そりゃあな。ずっと好きだったお前と家族になれるんだ。興奮しないわけがないだろ」
そう言って腰を抱え上げられ揺さぶられる。
「んっ、んっ…は、ああ…」
「お前と家族になれて嬉しいよ、紬。明日は朝イチで役所に行こうな」
「うん、…あっ、ん、んんっ」
首元に腕を巻きつけ、ぎゅっと抱きつく。足も絡めるとさらに深い繋がりとなった。
内側の勝希自身はもう果てそうだ。
「紬…愛してる」
「僕も、んっ、僕も勝希くん、好き…だいすき…あ、ああっ」
互いに吐き出した中、ふたりはいつまでも抱き合っていた。
ーー役所が開いた時間ぴったりに窓口へ行き、無事に婚姻届を提出できた。
家へ帰ってしばらくして子供部屋へ行くとワープ装置が光り輝き、中から一日ぶりのアイルが飛び出してきた。
「パパ! ママ! ただいまっ!」
ぴょん、と飛んでくる小さな体をふたりで抱き止める。
「おかえり、アイル」
ぎゅっと抱きしめていると、不思議そうにアイルに見つめられた。
「アイル? どうしたの?」
「パパもママも…いつもよりなかよしさん」
そう言われて勝希と紬は笑った。
「ああそうだな。今日な、パパとママはいいことがあったんだ」
「なになに!? ボクにもおしえて!」
「さーて、どうしよっかなあ。パパとお風呂に入ってくれたら教えてやろう」
「きょうはねえ、ボクねえ、パパとママとさんにんでおふろにはいりたいです」
「お、いいなあ。三人で入るか。どうだ、ママ?」
紬は笑った。
「ママも賛成!」
アイルの提出用プリントの養育者欄に名前を書こうとして「あ」と気づく。
「違う違う、苗字変わったんだよ」
原沢紬、と前までは書いていたけれど、大石紬、と勝希と同じ姓になったのだ。
書く前に気付いてよかったと改めて自分の名前を見た。
「ホントに結婚したんだなあ…」
アイルがきっかけの縁。小さな天使の子がいなかったら、こんな進展なかっただろう。
「アイルは本当に天使だなあ」
ふふふ、と窓の外を見ながら紬は笑った。
アイルは学校へ、勝希は魔法省へ死神の件を報告に行っているためめずらしくこの家にひとりだった。
「さて、そろそろ買い出しに行こうかな。今日は勝希くんになに作ってもらおうかなあ」
そう言って外へ出てスーパーまで歩いた時だった。
ずくん、と腹に小さな衝撃が加わるも特に気にしなかったが、家へ帰って確認すると腹にアザのようなものができていた。
「なんだろこれ…」
しかしすぐに忘れ、帰宅したアイルの宿題を見ていた。
「きょうのしゅくだいはねー、さくぶんなのです。このまえいったおさかなさんのことをかくのです」
ノートを広げながらそう言った。
「アイル、水族館のことか?」
「それです!」
キッチンから勝希が顔を覗かせる。いい匂いが漂っているので、きっと今日もおいしいごはんだろう。
「このまえ、すいぞくかんにいきました。ボクとパパとママのさんにんでいきました。おさかなさんがいっぱいでした。おいしいのかな? とボクはおもいました。パパとママは、なかよしさんでした」
「アイル? そこは書かなくてもいいかなあ?」
「ははっ、書いとけ書いとけ」
「いるかさんもみました。キラキラひかっていました。またすいぞくかんにかぞくさんにんでいきたいです」
おわり、と書かれたのを見て、紬はアイルの頭を撫でた。
「そうだね、また三人で行きたいね」
「ね!」
「絶対に行くぞ」
いつの間にか勝希もアイルの隣に座り、三人で笑った。
ーー子供部屋でアイルの寝顔を見守り、ふたりはリビングで酒を飲んでいた。
「あと四日かあ、アイルといられるのも…」
「魔法省に問い合わせたんだが、アイルは天界に帰ってもたまにはこっちへ来られるらしい。まあ頻度は少ないらしいが」
「それでも会いに来てくれたら嬉しいね。…ここにいる間、アイルは楽しかったかな」
「楽しかったに決まってる。あれだけ笑ってくれたんだからな」
「そうだね」
勝希にもたれかかるとキスをされた。紬も腕を伸ばして抱きついた。
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