魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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275 サクッと消します

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 腹黒さんは巨乳金髪悪役令嬢好き。

 ――と、思いもよらず偽王子(腹黒)が持つ性癖が判明したことで、今後オススメするゲームを決めるためにも頭の中で今回得た極秘情報の分析を進めていたら。

 いつの間にか、ゲームのエンドロールを見ていた筈の腹黒さんが私のすぐ目の前に居た。え!?

 あ。腹黒さん、もしかして最後まで見ない派ですか?
 ……ってか、そのお怒りの表情を見るに、もしや全部聞いていましたかね……?


 に~っこり。


 ひいっ!
 笑みを深める腹黒さんに背筋がぞわっとする。


「……貴女という人は凝りませんね。まあいいでしょう。でも、余計なことはサクッと消させていただきますよ」


 笑みを浮かべたまま。獲物をなぶる様に、腹黒さんの手がゆ~っくりと私の方へと伸びる。

 ――どうやら。
 腹黒さんの性癖とか、取り扱いに慎重を要する個人情報をサクッと暴いてしまったことで彼の怒りを買ってしまったらしい。


 腹黒さんの手が私の前髪をかき分けて。同時に腹黒さんの年齢不詳なイケメン顔がゆっくりと近づいてくる。あ、コレ覚えがありますね。恐らくまた、妙な魔法をかけられるのだろう……と覚悟を決めてとりあえず眼鏡を眺めていたら、ついでにレンズ越しに腹黒さんと目が合った。


「……。」


 ――と、何を思ったのか腹黒さんが若干方向を変え、頬に彼の唇が触れた。


(え。そっち!? コレわざわざおでこ晒した意味…あっ……た……??)


 と、ツッコミを最後まで入れる間もなく腹黒さんに触れられた頬から温かいものが体中に広がって、急激に眠気が襲ってきた。

 ……ああもう、腹黒さんたら妙なフェイントかけて。今回は助かったと思ったのに、結局は前回と同じじゃん。
 ……何よねー…………もう……。


 襲ってくる眠気にトロトロと微睡みつつも、頭の中で腹黒さんにぶちぶちと不満を溢していたら。


 …ニッコリ……。


 完全に意識を失う前に。眼鏡越しに柔らかく目を細めて満足そうに微笑む腹黒さんの姿が見えた。

 何を考えているのか分からない背中の寒くなるいつもの笑顔じゃなくて。お気に入りキャラに夢中になっていたさっきまでのように、楽しくゲームでもしている……かの…よう、な……。

 ああ、ダメ眠い。あれ? この声って――……。


「意趣返しと言いますか。――ま、馬鹿猫と大男ばかりに構って、このわたくしを仲間はずれにしたことに対するちょっとした嫌がらせですね。いい加減、貴女も少しは警戒心を持たないと、この先大変なことになりますよ。これは置き去りにされたわたくしからの忠告です。これで『彼』がどう動くか……見物ですね。じっくりと楽しませていただきましょうか」


 クスクスクス……楽しそうに笑う腹黒さんの声とともに眠りについて。起きた時には彼の姿は部屋から消えていた。


 どうやら私が眠っている間に、彼はあちらへと帰ったようだ。

 何かにつけて鬼畜仕様の腹黒さんだけど、どうやら帰る前に私にオカ研ローブをかけて行ってくれたらしい。そのおかげで適温状態が保たれて、暖房をつけていなくても凍えたりはしなかった。

 贅沢を言うなら起きた時ちょっぴり背中が痛かったのでベッドに運んでおいて欲しかったけど、腹黒さんはあまり身体を動かすのが得意ではなさそうだから、物理的に運べなかったのだろう。

 ――ま、寝ている間に命をサクッとされなかっただけでもありがたいと思わないと。



 それにしても……毎回言ってくるけど、あの『サクッと消す』っていったい何を消すというんだろう?

 結局、前もよく分からなかったんだよな。唯一判っているのは、魔法で発言を制限されたことくらい?
 ただの嫌がらせの脅し――ってこともありえそうだけど、一応忘れていることがないか確認しておくか。


 ええと、一緒におでんを食べてギャルゲーをやって。
 何故かバッドエンドまっしぐらなあり得ない選択肢ばっか素で選ぼうとするから、一生懸命脳内でツッコミ入れて正規ルートに導いて……あー、うん。大丈夫覚えている。

 アレはアレで変なゲームをしているみたいでちょっと楽しかった。

 うん。こうして思い返してみても、特に忘れていることはなさそうだ。


 良かった。せっかく得た腹黒さんの貴重な情報、覚えているのといないのとでは、今後、王子の召喚生活を続けていくにあたって私の身の安全にも大きく関わってきますからね。

 この際、今回学んだ重要そうな情報はしっかりと心に刻みつけておきましょう。


 ……せーの。




『腹黒さんは巨乳好き』




 ――よし! 何一つ忘れてないな!!




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