276 / 364
276 煩悩塗れ王子の朝帰り
しおりを挟む
「…あの、王子、そろそろ……」
「嫌だ、僕はまだ帰らないぞ! 除夜の鐘を最後まで聞くんだ!!」
大晦日。
夜に王子を呼び出した時、おやつ代わりに年越しそば(※うどん)を食べながら、煩悩を祓うと言われている除夜の鐘の話をしたのがいけなかったのだろうか。
うどんを食べ終わった後は早朝バイトに備え、いつも通り『気がすんだら勝手にお帰り下さい』モードで寝たのだが。
変な時間にうどんを食べたせいか、夜中に尿意を催しトイレに起きたら王子様がまだ部屋に居た。
時刻は23時55分。
ゲームやりたさに日付が替わるギリギリを責めていた王子だが、最近は召喚回数も増えて気持ちに余裕が出てきたのか、わりと早めに帰っていたのに。
……まあ、明日は早朝バイトが終わったらその足で実家へと帰ってしまうので、王子の召喚はナシ。だから今日のうちに出来るだけ遊んでおきたい、という王子の気持ちはよく解る。
――でも。
「深夜に兵士の見まわりがあるんでしょ? 除夜の鐘を最後まで聞いていたら流石に間に合わないと思うんだけど。それってまずくない?」
「大丈夫だ! 年末は出勤者にちょっとした酒や肴が振る舞われるから見回りの兵士も手を抜いて、遠くから塔をサッと見るだけで確認を済ますのが慣例となっているんだ。僕ぐらい幽閉が長くなると兵士たちの動きも完全に把握しているからな。その辺のチェックもぬかりはないぞ。何てったって『年末は兵士の監視が緩んでとても仕事がやりやすい』って、僕を狙って塔に入り込んでくる暗殺者も言っていたからな! それに、念の為に僕が浮かれて踊り回って見えるような細工を部屋の窓にしてきたから、パッと見で異常ナシと判断される。これで兵士もわざわざ塔の中までは入ってこない。塔の階段、中々キツイしな!」
ドヤァ! と自信満々の王子様。
――いや、暗殺者って。何だ、その情報源。不安しかないんだけど……まあいいか。
いちいち細かいことで王子にツッコミ入れていたら、本格的に眠気が冷めちゃうし。今、こうして元気に生きているんだから、それについては大丈夫だったんだろう。
……あと躍り回って見えるって普通は異常じゃないの?
ううん、ダメだ、気にしちゃいけない。
王子に突っ込んだら負け。耐えろ、私。
――ヨシ! 危なかった。
と、いう事でトイレを済ませ、ぬくぬくと温かいベッドに戻って、気持ちよ~く二度寝をしたものの――。
「スヤスヤスヤ……」
……って、何で寝て起きてもこの王子様はまだ部屋に居るんですかね。
王子はラグの上でオカ研ローブにくるまって、クマちゃんを抱っこしながら気持ちよさそうに眠っている。手にはコントローラーを持ったままなので、どうやらゲーム中に寝落ちをしてしまったらしい。
――いや、いったい何してんのよ。全っ然、大丈夫じゃないじゃないの!
……と、怒鳴りたいところですが深夜なのでグッとこらえて。
「…王子、起きて! 帰らなくていいの!??(超小声)」
「んぁ……? 召喚主、☆△△※……☆※△△。あはは、前髪が立ってるぞ。コレは面白い」
コイツまた変な写真撮りやがったな!
――って、いやそうじゃなくてっ!!
「王子、もう朝(といってもまだ三時過ぎだけど)よ。こんな時間までこっちに居て大丈夫なの? 流石にまずいんじゃあ……」
「ん? ああ、今日はしっかり対策もしてきたし、朝までに帰れば何とか……たぶん?」
いいのかそれで!!
……って、ああ、もう。大声出したいけど出せない、お隣からの壁ドン☆ が怖い……何だ、この無駄な葛藤。
でも、まあ……慎重派の王子が大丈夫って言うんだからいいのかな? 前にも偽王子の猫ちゃんが同じことやらかしていたし……。
――うん。偽王子のお墨付きだし。これくらいきっと大丈夫、よね!
……ならば。
「ええと、私は朝ご飯食べるけど……王子はどうする?(小声で)」
「いいな! もちろん食べるぞ(小声)」
キラキラ~☆(輝き控えめ)
あ。精霊さんも来ていたのか。
深夜対応で王子が空気読んでくれているのは助かる。暗いので精霊さんは別に光ってもいいけど。
さて、どうするかな。夜のうちにベーコンエッグとサラダを作っておいたんだけど……三人(?)で食べるには流石に量が足りないよね。
とはいえ、壁ドン☆(怖い方) 嫌だからこんな時間に凝った料理はしたくない。
仕方ないのでおかずは三等分に分けて、その代わりトーストにチーズとハムを載せた。これで多少は食べ応えがあるでしょう。
想定していたよりも量が減ってしまったが、王子は
「おお、モーニングだ! ハムチーズサンド温かくて美味しい」
と、大喜び。ああ、そういやコーヒー店のモーニング食べた時、王子ってば私のハムチーズサンドを羨ましそうに見ていましたっけね。あの時は王子の卵サンドと半分こして食べたけど、意外と味が気に入ったのだろうか。
そういえば、あの後一度もあの店に行ってないな。お年玉貰ったら連れて行ってあげてもいいかもしれない。あの店、正月も開いてたっけ? たしか福袋あった気がするし、多分営業しているだろう。
そんなことを考え黙々と朝食を食べ進めるが……朝食をしっかり食べる派の私には、コレだとちょっと物足りない。
これからバイトあるのに、お昼まで持つかなぁ……。
と、若干不安ではあったが。
考えてみれば、一人暮らしあるあるで実家に帰ったらアレも食え、これも食えって色々な物食べさせられちゃうから、逆に朝はこれくらいの方がいいのかもしれない。気を付けないと正月は太りやすいし。うん、きっとそうだ!!
朝食を終え、異世界へと帰る王子とキラキラ精霊を見送って。
大急ぎで支度を終えた私はバイトへ行くため家を出た。
一年の計は元旦にあり――って言うけれど。これは中々先が思いやられますね……。
そんな訳で新年の抱負。
とりあえず食事だけは少し多めに作っておこうと思う。
……やっぱりバイト中お腹が減ったので。(泣)
「嫌だ、僕はまだ帰らないぞ! 除夜の鐘を最後まで聞くんだ!!」
大晦日。
夜に王子を呼び出した時、おやつ代わりに年越しそば(※うどん)を食べながら、煩悩を祓うと言われている除夜の鐘の話をしたのがいけなかったのだろうか。
うどんを食べ終わった後は早朝バイトに備え、いつも通り『気がすんだら勝手にお帰り下さい』モードで寝たのだが。
変な時間にうどんを食べたせいか、夜中に尿意を催しトイレに起きたら王子様がまだ部屋に居た。
時刻は23時55分。
ゲームやりたさに日付が替わるギリギリを責めていた王子だが、最近は召喚回数も増えて気持ちに余裕が出てきたのか、わりと早めに帰っていたのに。
……まあ、明日は早朝バイトが終わったらその足で実家へと帰ってしまうので、王子の召喚はナシ。だから今日のうちに出来るだけ遊んでおきたい、という王子の気持ちはよく解る。
――でも。
「深夜に兵士の見まわりがあるんでしょ? 除夜の鐘を最後まで聞いていたら流石に間に合わないと思うんだけど。それってまずくない?」
「大丈夫だ! 年末は出勤者にちょっとした酒や肴が振る舞われるから見回りの兵士も手を抜いて、遠くから塔をサッと見るだけで確認を済ますのが慣例となっているんだ。僕ぐらい幽閉が長くなると兵士たちの動きも完全に把握しているからな。その辺のチェックもぬかりはないぞ。何てったって『年末は兵士の監視が緩んでとても仕事がやりやすい』って、僕を狙って塔に入り込んでくる暗殺者も言っていたからな! それに、念の為に僕が浮かれて踊り回って見えるような細工を部屋の窓にしてきたから、パッと見で異常ナシと判断される。これで兵士もわざわざ塔の中までは入ってこない。塔の階段、中々キツイしな!」
ドヤァ! と自信満々の王子様。
――いや、暗殺者って。何だ、その情報源。不安しかないんだけど……まあいいか。
いちいち細かいことで王子にツッコミ入れていたら、本格的に眠気が冷めちゃうし。今、こうして元気に生きているんだから、それについては大丈夫だったんだろう。
……あと躍り回って見えるって普通は異常じゃないの?
ううん、ダメだ、気にしちゃいけない。
王子に突っ込んだら負け。耐えろ、私。
――ヨシ! 危なかった。
と、いう事でトイレを済ませ、ぬくぬくと温かいベッドに戻って、気持ちよ~く二度寝をしたものの――。
「スヤスヤスヤ……」
……って、何で寝て起きてもこの王子様はまだ部屋に居るんですかね。
王子はラグの上でオカ研ローブにくるまって、クマちゃんを抱っこしながら気持ちよさそうに眠っている。手にはコントローラーを持ったままなので、どうやらゲーム中に寝落ちをしてしまったらしい。
――いや、いったい何してんのよ。全っ然、大丈夫じゃないじゃないの!
……と、怒鳴りたいところですが深夜なのでグッとこらえて。
「…王子、起きて! 帰らなくていいの!??(超小声)」
「んぁ……? 召喚主、☆△△※……☆※△△。あはは、前髪が立ってるぞ。コレは面白い」
コイツまた変な写真撮りやがったな!
――って、いやそうじゃなくてっ!!
「王子、もう朝(といってもまだ三時過ぎだけど)よ。こんな時間までこっちに居て大丈夫なの? 流石にまずいんじゃあ……」
「ん? ああ、今日はしっかり対策もしてきたし、朝までに帰れば何とか……たぶん?」
いいのかそれで!!
……って、ああ、もう。大声出したいけど出せない、お隣からの壁ドン☆ が怖い……何だ、この無駄な葛藤。
でも、まあ……慎重派の王子が大丈夫って言うんだからいいのかな? 前にも偽王子の猫ちゃんが同じことやらかしていたし……。
――うん。偽王子のお墨付きだし。これくらいきっと大丈夫、よね!
……ならば。
「ええと、私は朝ご飯食べるけど……王子はどうする?(小声で)」
「いいな! もちろん食べるぞ(小声)」
キラキラ~☆(輝き控えめ)
あ。精霊さんも来ていたのか。
深夜対応で王子が空気読んでくれているのは助かる。暗いので精霊さんは別に光ってもいいけど。
さて、どうするかな。夜のうちにベーコンエッグとサラダを作っておいたんだけど……三人(?)で食べるには流石に量が足りないよね。
とはいえ、壁ドン☆(怖い方) 嫌だからこんな時間に凝った料理はしたくない。
仕方ないのでおかずは三等分に分けて、その代わりトーストにチーズとハムを載せた。これで多少は食べ応えがあるでしょう。
想定していたよりも量が減ってしまったが、王子は
「おお、モーニングだ! ハムチーズサンド温かくて美味しい」
と、大喜び。ああ、そういやコーヒー店のモーニング食べた時、王子ってば私のハムチーズサンドを羨ましそうに見ていましたっけね。あの時は王子の卵サンドと半分こして食べたけど、意外と味が気に入ったのだろうか。
そういえば、あの後一度もあの店に行ってないな。お年玉貰ったら連れて行ってあげてもいいかもしれない。あの店、正月も開いてたっけ? たしか福袋あった気がするし、多分営業しているだろう。
そんなことを考え黙々と朝食を食べ進めるが……朝食をしっかり食べる派の私には、コレだとちょっと物足りない。
これからバイトあるのに、お昼まで持つかなぁ……。
と、若干不安ではあったが。
考えてみれば、一人暮らしあるあるで実家に帰ったらアレも食え、これも食えって色々な物食べさせられちゃうから、逆に朝はこれくらいの方がいいのかもしれない。気を付けないと正月は太りやすいし。うん、きっとそうだ!!
朝食を終え、異世界へと帰る王子とキラキラ精霊を見送って。
大急ぎで支度を終えた私はバイトへ行くため家を出た。
一年の計は元旦にあり――って言うけれど。これは中々先が思いやられますね……。
そんな訳で新年の抱負。
とりあえず食事だけは少し多めに作っておこうと思う。
……やっぱりバイト中お腹が減ったので。(泣)
28
あなたにおすすめの小説
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい
はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。
義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。
それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。
こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…
セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。
短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる