魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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289 王子と冬の雪まつり

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 玄関を開けたら一面の銀世界だった。

 昨夜から降り始めた雪は翌日になっても止まず、どんどん地面へと降り積もっている。つい先ほど大学から帰ったばかりだが、私がつけた足跡は新雪に覆われ既に消えかけているようだ。この調子ではまだまだ止みそうもない。

 やだなぁ、明日は一限からなのに。大学行くとき転ばないように気を付けなきゃ……と、若干うんざりしている私の横で。



「すごい、一面真っ白だ! あっはっは、ちゃんと雪に触れる。冷たいな~!!」


 ――と、雪の中を駆け回って大喜びしているのは不審者ローブ姿の王子様。うん。雪の中では真っ黒ローブが浮き上がって更に悪目立ちしていますね。

 いえね、流石にこのお天気じゃ風邪ひくって止めたのに、雪遊びするって聞かないんですよ、この王子様。

 王子に厚着をさせようにも実家から持ってきたお兄ちゃんからのお下がり冬物衣類には限界があるし、かといってサイズが合わない私の服は論外。
 ……ってなわけで、仕方なくオカ研ローブの貸し出しです。

 これなら謎技術で暖は取れるし、何より王子のイケメン補正で不審者感も薄れ……はしないか。不審者(※ただしイケメン)になっただけ。

 ――ま。それでも風邪をひくよりかはマシですね。



「そんなにはしゃいで、王子の世界って雪降らないの?」

「いいや、冬は普通に降るぞ? 積もるし塔も冷える。ただ、僕が触れるほどは降らないな。部屋の窓から見るだけだ」


 そりゃそうだ。こっちで言う何階相当に王子が幽閉されているんだか知らないけど、話を聞く限りかなり高そうだもん。
 塔が埋まるほどの積雪って、そんなの国家壊滅レベルの自然災害じゃないですか。そうそうある訳がない……ってか、あったら困るでしょ。
 まあでも、それなら王子がはしゃぐ気持ちも解りますね。

 ここら辺でも、ここまで雪が積もることってそうそうないし……って、おっと、私もテンションが上がってきましたよ。

 そうとなれば。


「王子、雪合戦しましょ、雪合戦! そ~ぉれっと」

「うわあっ!? 召喚主、いきなり何をする!」


 パシャ!

 ……っと、投げた雪玉が王子に当たっていい音で崩れた。


「よーし、当たった! 雪合戦よ、雪合戦。こうやって、雪玉を作って相手に当てて遊ぶの。あ、でも危ないから雪玉に石を入れたり、相手の顔に当てたりしちゃ駄目だからね」

「なるほど、面白そうだ! よ~し。…………。それっ」

「あはは、王子ったらいったいどこに投げているのよ」


 王子が雪玉を作って力いっぱいぶん投げるも、私を通り越してはるか後方に飛んでいく。ふふん、これだから運動不足のノーコン王子様は……って、痛っ!??


「やった! 召喚主に当たったぞ!」

「え……、なに今の? 伏兵?? いやいや、まさか……どうして背中に雪玉が……」


 大暴投した王子の雪玉が物理法則ガン無視で私の背中に命中してきたんだけど。


「それは、こう……風魔法を使って、雪玉の軌道をいじってだな?」

「禁止っ! 魔法の使用も禁止だから!!」


 さっき、王子が小声でボソボソ言っていたの、あれ魔法か! スイ~っと腕を広げて、ドヤ顔で魔法の説明をしてくる様子に若干イラッとする。

 まったく油断も隙もありゃしない。
 日頃、チマチマと妙な魔力の節約をするクセに、こういう時の魔力使用はいっさい躊躇しないんだから。

 いっつも、いつも努力の方向性が間違っているのよ―――っと。 


 パシャン! パシャン!!


 よし、当たった!!

 日頃のあれやこれやを雪玉に込めて投げれば見事に命中。あ~、スッキリした!


「やったな。こっちも行くぞ! それっ」


 ピカピカピカ☆★☆

 ぱしゃん!!

「眩し……!? 痛っ!!? もー、雪玉に精霊入れるのも禁止っ!! 精霊さん達、今度王子の味方をしたらおやつ抜くからね!」


『!??』
 …スイ~……ピカピカ☆★☆★


 ……おっと。精霊さん達がこちらに寝返ったみたいですね。何食わぬ顔で結構な数が私に寄ってきた。これはせっせと餌付けをした甲斐がありました!

 ふふん、どうよ。幽閉生活で日々の食料が限られている王子様には真似できるまい。(ドヤァ)


「な……っ! ズルいぞ、召喚主!!」

「先にズルしたのは王子でしょ。さあ、行くわよ、精霊さん達!」


 久しぶりの雪遊び。


 思いのほかムキに……じゃなかったのめり込んでしまいましたが、幽閉中の王子様にとってはいい運動になったのではないだろうか。ここのところおやつの食べ過ぎで若干ふっくらしてきましたからね。冬のスズメみたい。


 ♪♪♪~~

 ひとしきり雪合戦して王子と雪だるまを作り始めたところで私のケータイが鳴った。


「先輩か!? 別に出なくていいんじゃないか!?」

「いや、何でそんなに先輩を敵視しているのよ? 言っておくけど、王子が着ているそのローブを私にくれたのだって先輩だからね。あ……っと、バイト先の店長からだ。ハイ、もしもし……え? ハイ、わかりました。大丈夫です、すぐ行きます」

「店長……、そっちか! 別に行かなくてもいいんじゃないか!? 召喚主は雪だるまとバイトどっちが大事なんだ!!」


 バイト先の店長からの電話を切ると、王子が訳の分からないことを言い出した。


「いや、どっちが大事ってそりゃあバイトに決まってるでしょ。なんか、この雪で電車通勤のバイトさんが来られないんだって。私は歩いて行けるし、こういう時は助け合わないとね! と、いうわけで、悪いけどちょっとバイトに行ってくるわ」

「くそっ、やはり急なシフト変更か……! 僕が作る雪だるまを召喚主に見せたかったのに」

「ごめんね、帰ってきたらちゃんと見るから。完成品を楽しみにしてる。ああ、そうだ。作るのは駐輪場横のこの辺にしてね。ここなら雪だるまを置いても邪魔にならないし」

「……わかった。仕方ない、それじゃ後で感想を聞かせてくれ」

「ハイハイ。じゃ、王子。私はもうバイトに行くわね。帰る前に戸締りよろしく!!」





 ――と、王子を置いてアパートを出たのが今から数時間前。


(……そういや外国の雪だるまって日本と違って3段だったりするけど、異世界の王子様はどんな雪だるまを作るんだろう? 2段か…3段か。バケツの代わりに王冠が乗っていたりして)

 そんなことを考えながら仕事をして。
 更に激しくなる雪に注意をしつつ、バイト先のコンビニからアパートに帰ってみれば。



「……いや、楽しみにしているとは言ったけどさぁ……」



 駐輪場横。
 まるでアパートを守る様に、えらくリアルな竜の雪像が作られていてドン引いた。

 鱗一枚一枚まで丁寧に作り込んでいるうえ、何か目が光っているんですけど……。何、この完成度。


「どうだった!? どうだった!?」


 入浴して冷えた体を温めていたら、いつの間にか王子がこっちに来ていた。ああ、うん。後で感想聞かせてくれってそういう事か。召喚機使ってセルフ召喚したんだな。

 よほど自分が作った雪だるまの感想が気になったのか、王子の顔が少し興奮気味に赤くなっている。

 感想……感想か。
 ええと……。


「……正直、大きさに驚いた」

「だよな! 魔法でかき集めたけど雪が足りなくて、残念ながら本物の10分の1サイズなんだ。塔地下ダンジョンのアイツも召喚主に会いたがっていたから、その代わりにと思って」

「えっ!? あれって、闇落ち竜さん!? ――あれの10倍!??」


 …………ああ、うん。正直、本物の大きさに驚いた。でけえ。




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