17 / 64
クリスside
5 消えた二人の聖女候補
しおりを挟む僕はリリーを王宮に連れ帰り、神殿で聖女教育を受けさせた。勉強がしたいと言うので僕と同じく王立学園の高等部に入学させた。学校に通うのは初めてだと言っていたが、教科によっては申し分のない成績だった。数学などは、とても初めてとは思えない。家業のパン屋で看板娘をしていたからだろうか。計算もとても速い。マナーの授業などは酷かったが、それはこれから覚えていけばいいだろう。
聖女としての彼女の才能は素晴らしく、みるみるヴィーナへと追いついた。しかも、彼女はヴィーナとは違い、僕のために惜しげもなく力を使ってくれる。読書中に紙で指先をうっかり切ってしまったような小さな傷でも、リリーは目敏く気づいてあの力で治してくれる。その度に僕は心地よさに酔いしれ、ますます彼女に夢中になった。
そうして僕は考えた。リリーは聖女としてヴィーナと同等の力を持っている。ならば、別に婚約を結ぶのはヴィーナでなくともよいのでは?
幼い頃からヴィーナの聖女教育を行ってきた一部の神官は反対したが、たった一年半でそれに追いついたリリーの評価は高い。
ならば二人を競わせて、どちらがより聖女にふさわしいか、第一王子の婚約者としてふさわしいか、あらためて決め直そう。
そんな意見が主流となって、ヴィーナとリリーを二人とも王宮に住まわせ、時間をかけてこれから判定する――そんなときに。
二人が消えた。
王宮内は騒然とした。
『聖女が二人。こんなことは滅多にないことだが、人数が多いに越したことはないからじっくり選ぼう』
そんな余裕な雰囲気も一気に消えた。
この国では聖女は自国で賄えているが、他国では異世界から聖女を召喚したり、勇者を召喚したりして対処していると聞く。だから、そんな他国が聖女を攫ったのではないかと危ぶむ声もあったが――結論から言えば、二人が異世界へと召喚されていた。
どうやら異世界で開発中の転移魔法陣の誤作動らしい。その後、相手側と連絡が取れて、丁寧な謝罪を受けた。そして、一年五カ月後に二人は返してもらえることになった。
こちらとしては被害者なので文句を言っても良かったが、どうやら二人がいるのはかなり文明レベルの進んだ異世界らしく、ケンカを売るのは得策ではないと窓口になっている神殿に言われ、おとなしく従うことにした。
我が国はともかく、他国がそちらの世界から聖女や勇者を召喚しまくっているのを問題にされたら、世界間レベルでのまずい話になるらしい。
二人はあちらの平民が通う学校でごく普通の留学生として扱われるそうだ。
僕はそれを聞いて心配になった。庶民のリリーはどこででも生きていけるだろうが、元王族で現公爵令嬢のヴィーナにそれが耐えられるのだろうか。
心配はすぐに苦情となって表れた。
『片方は真面目ですぐに馴染んでくれたが、庶民的ではない方の、金遣いの荒さと態度が酷い』
神殿が異世界と行っている定期的な連絡の中で、そんなやり取りがあったそうだ。
ああ、やっぱり。気遣って名指しはしていないものの、片方は堅実な庶民。どちらのことを言っているかは明白だ。いくら献身的に聖女として国民に尽くしていても、所詮は贅沢に慣れた貴族の身。平民に交じっての暮らしは難しいらしい。あれほど僕より庶民の方を気にしていたのに、口ばかりじゃないか。
これは、帰ってきたら王族として注意しなくては。
僕は二人が帰る日が楽しみになった。
44
あなたにおすすめの小説
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました
ゆうき
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。
その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。
それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。
記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。
初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。
それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。
だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。
変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。
最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。
これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる