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続編
4 悪役令嬢の今
しおりを挟む「ヴィーナは俺の嫁だ。俺と結婚して、『ヴィーナス・ネルケ』から『茂呂ヴィーナス』になったんだ。だから、お前は触るんじゃない」
俺は悪役令嬢を……大切な嫁を後ろに隠す。
吹っ飛んで壁にたたきつけられた王子は頭を打ったらしく、たんこぶを押さえながら俺を睨みつけてくる。
「嫁……? 嫁だと? 嘘をつくな! ヴィーナは聖女の力を使った。純潔である証だ。僕のために大切に守っていた。そうだろう、ヴィーナ!!」
「申し訳ございません、殿下。私は……」
「言わなくていいっ! 無理やり婚約でもさせられたか、聖女の力を搾取するために形だけの婚姻をさせられたか、そんなところだろう。大丈夫だヴィーナ、聖女の力が使える以上、純潔の証は立っている。白い結婚なら問題はないよ。一緒に帰ろう、今度こそ僕が君を幸せにする」
「バカ王子、黙って聞いていれば……」
いい加減、一発くらい殴ってもいいんじゃないかとこぶしを握り締めたところに。
「パパ―ぁママーぁ」
俺の、俺たちの天使の声がして、はっと力が抜けた。
そうだ。暴力はいけない。
「ママ、どうしたの?」
そう言って、悪役令嬢に駆け寄った天使は母親そっくりで――本当に天使以外の何者でもない。ああ、かわいい。
「マ……ママ? で、でもヴィーナは力を使えて……」
王子が子供と悪役令嬢を交互に見やって、目を白黒させている。
「なんでもないわ。このお兄ちゃんが怪我をしてしまって、どうしようかとお話し合いをしていたの」
「そうなんだ。じゃあ、ミイナが治してあげるー」
俺の天使が王子に近づくと。
「痛いの痛いの飛んでけー」
可愛い可愛い小さなお手てをそっとたんこぶに当てて、最近お気に入りのフレーズを唱える。
その途端に。たんこぶは消え去り、王子の表情も消え去った。
「お兄ちゃん、もう痛くないでしょー」
「あ? ああ」
「ミイナ、ありがとう。あっちに子供用ケーキがあるから貰っておいで」
「はぁい、パパ!」
「妹にもあげるのよ」
「はぁい、ママ!」
「え……ヴィーナ……? 君は……結婚して……しかも、子供……? 聖女の力……え?」
質問にもならない質問を、王子はブツブツとうわ言のように呟いている。せっかく俺の天使が傷を癒してくれたというのに、肝心の頭の中身が壊れているようだ。ああ、元から壊れているものは治らないのか。納得した。
「ええ。結婚六年目ですわ。大学を卒業してすぐに結ばれましたので。娘も二人おりますの」
そう。俺と悪役令嬢は社会人になると同時に結婚した。すぐに子宝にも恵まれたのだが……困ったことに、生まれた娘に聖女の力が現れた。
ヴィーナのときもそうだったらしい。母体と深く結びついている赤ん坊は産まれるときに、出産で傷ついた母体を癒してしまう。それで、母親は子供が聖女の力を持っていると気が付くのだそうだ。
二人目の娘のときもそうだった。最近では姉妹二人して「痛いの痛いの飛んでけー」にはまっているので、その度に子供の世話をしているヴィーナは癒される。その度に健康になるのはいいのだが、加減を知らない癒しの力はどこまでも癒してしまい――その、少し、困ったことにもなっている。ヴィーナは気にしないと言っているが、その度に無理をさせるのも申し訳なく――。
聖女の力を持つ男の子を産むと、男の子本人は力を使えないものの、母親はこの無限ループからは解放されるらしい。ヴィーナの場合も、兄は受け継がなかったらしいが、弟が産まれたことで母親はその問題から解放されたそうだ。
経済的には大変だが、俺もヴィーナも子供は好きだ。何人いたっていい。いい機会だから、今日、そのことを相談するつもりだったのだが。
「そう……か。子持ち……二人……」
よろよろと、立ち上がる王子。
「はい。とても幸せに暮らしておりますの」
嫁の輝くような微笑みに、王子のライフが削られていく。今にも倒れそうだ。
見かねたクラスメイトが王子を連れて行き、酒を勧めている。そこだけやたらきらきらしい。よく見たら、自称ヒロインにぶら下がられた者ばかりが集まっている。王子のことは、このまま被害者の会に任せておけばいいだろう。
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