【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
3 / 88

3 暗雲

しおりを挟む

 数多の文化がある獣人の国をまとめて統治している竜人が治める国――ドラゴディス帝国。強大な力を持つ竜人が治める広い国土に住む帝国民はやはり竜人が多い。
 他の獣人国同様に生まれついての運命の番を世界のどこかに持つ彼らは、運命の番を伴侶に迎えることが最上の幸せとされている。

 けれど竜人の番は同じ竜人とは限らないうえに、彼ら自身が他種族と比べ極端に長い寿命をもつことから生のサイクルに大きな誤差があり、寿命の短い番とはすれ違ってしまう者がほとんど。実際に出会える者はごく少数だ。

 なので、竜人の間では恋愛結婚が一般的ではあるのだが、いざ番に出会ってしまえば相手が結婚していようがいまいが番への愛が暴走し、問題行動を取りがちなのが竜人社会の間では大きな社会問題となっている。

 現在。そんなドラゴディス帝国に暮らす帝国民の顔には笑顔があふれ、その誰もが胸に希望を抱き明るい未来を信じている様子が見て取れる。

 賢妃と名高い皇后ヴィクトリアと共に、賢帝と呼ばれた皇帝ロイエが戻ってきたからだ。この先長く続くと思われた苦しい不遇の時代の終焉に、帝国民はお祭り騒ぎだった。




 ドラゴディス帝国皇帝ロイエは執務を終わらせると、皇后であるヴィクトリアのもとへと急いだ。ロイエが正気を取り戻してからの日課だ。

 ずっと以前にも今と同様、寸暇を惜しんで愛する妻のもとへと通っていたことを考えると、まるで皇后の存在自体を無視するかのような、少し前までの自分の愚行の方がロイエには信じられないくらいだった。


 皇帝の一人息子であった皇太子ロイエと侯爵令嬢のヴィクトリアは幼馴染だった。
 その仲の良さから二人の婚約が決まったが、これはヴィクトリアの生家である侯爵家が貿易業を得意としていて他国とのパイプを多く持ち、かつ帝国内屈指の資産家でもあったことから計画された政略的な結婚でもあった

 皇太子妃候補となったヴィクトリアの生家が資金的にも人脈的にも帝国を支えることで、いずれ皇帝の地位を継ぐロイエの後ろ盾となり帝国内をより安定化させるためだ。

 ロイエとヴィクトリアは幼い頃から交流を続け、お互いに恋情も抱いており、周囲に祝福されながら結婚。数年後皇帝の死去と共に皇太子だったロイエは皇帝の地位を継いだ。

 政略結婚でありながら恋愛結婚でもあるという二人の仲の良さは、皇太子時代から帝国内や獣人国家のみならず人間の国にまで知れ渡っていた。

 即位後は当初の目論見通り政治は安定。そのお陰か代替わりの混乱も特に見られなかった。

 皇后の生家の後押しで他国との貿易が増え経済は潤って。商取引の増加と共にそれまで付き合いのなかった他国との交流も増え、長きを生きる竜人種独特の文化と建築様式は種族を問わず人々の興味をひいて多くの観光客がドラゴディス帝国を訪れた。

 賢帝と呼ばれたロイエの治世はまさに安泰――だった。

 外交で小国に立ち寄った際、自らを『皇帝の番』と名乗る女に出会うまでは。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...