8 / 88
8 皇帝の不満と喪ったモノ
しおりを挟む「ぁ……」
部屋に響く甘い声。
ロイエが正気を取り戻してから。ヴィクトリアは以前よりも情熱的にその身にロイエを受け入れてくれるようになった。
それが、あの愚かな女への嫉妬心から引き起こされたのだと思うと、妙な満足感がロイエの心を満たしていく。
ロイエは大好きなヴィクトリアと結婚出来て幸せだったし、二人は心を寄せ合い幾度となく愛を交わしてきたが、皇帝の妻としての品位を保ったままの妻にほんの少しの物足りなさを感じていたのも事実だった。
今から思えば、そんな心の隙間に付け込まれたのかもしれない。
非の打ち所がないまでに美しく献身的で清廉な妻とは違い、欲望に忠実に下品とも思えるほど積極的に迫ってきた偽の番。
当時を振り返ってみてもあの女の何が良かったのかよく分からないし、何をされてそこまでのめり込んだのかもまったく解らないが、相手に興味を持っただけでも、付け入るような隙をロイエ自らが女に与えたようなものだ。
娼婦のようなあの女があまりにも――妻とは違い過ぎたから。
それがどうだろう。
愚かな女の存在は今も許せずロイエの心を怪しくかき乱すが、まるでそれに対抗するようにヴィクトリアはロイエを求めて自ら誘ってくるようになった。以前の貞淑な妻なら、真っ昼間から執務室でこのような行為に及ぶなど考えられないことだ。
あやふやな記憶に溺れるように、ロイエは誘われるまま妻との行為に没頭していった。
ロイエは廊下を通りかかったメイドに指示を出し部屋で摂れる簡単な夕食を手配すると、執務室横に設置されている仮眠室へと戻り再び妻との行為にふける。
日当たりのよい仮眠室での行為は妻の身体を明るく照らし出し、夜とはまた違った魅力がヴィクトリアを彩り、そのことがロイエをますます興奮させた。
そんな中――。
引きつれた痛ましい胸元にロイエの手が止まる。
偽の番が引き起こしたあの火事で。ロイエは多くの物を喪った。暴走するロイエを諫めた忠臣。小さい頃から面倒を見てくれた心から信頼できる使用人。
そして――キズ一つなく美しい妻の胸元に輝いていた成長途中の見事な竜鱗。
竜人はその長い寿命の影響で、身体の成長には大きな個人差がある。
特に番の判別が出来る竜鱗にはその差が大きく現れて、子供が作れる十代で婚姻は出来るが、その時点では竜鱗が形作られてすらいないなんてこともザラだ。身体に竜鱗が現れてから育ちきるまでにかかる時間は五年~二十年。
愛しい妻の胸元には白く輝く竜鱗が出来つつあり、ロイエはその成長を日々楽しみにしていた。
妻の竜鱗が育ち切るまであとちょっと。
育ちきってから番と愛を交わせば成熟したその竜鱗が二人に与えられた運命を教えてくれるはず、だった――。
219
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる