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7 あやふやな皇帝
しおりを挟む妙な術で操られていたせいか、ロイエが偽の番と過ごした時期の出来事は記憶がひどくあやふやだ。
それでも自分がやってしまったこと、言ってしまったことのうち、ほんのいくつかはロイエもヴィクトリアの反応と共にしっかりと覚えている。
そのどれもがあまりの愚かしさに思考が停止してしまうようなことばかり。それすらまだ氷山の一角に過ぎないのだから、全てを思い出したらロイエは正気を保っていられる自信がない。
(そんな状態で、何に対しどう謝れば妻に許してもらえるのか……)
自らヴィクトリアとの会話を望んだものの肝心の考えがまとまっていないせいで、ロイエは言葉がうまく続けられなかった。
途方に暮れて俯くロイエの頬にヴィクトリアの白く美しい手が添えられる。
ヒヤリ…………。
相当長い時間、外の空気にあたっていたのか、ヴィクトリアの手は氷のように冷たかった。
ロイエはそのことに驚いて、自らの頬に添えられた妻の手に自身の大きな手を重ねて上から温める。
「温かいわ。私ったら、うっかり窓を開けたまま居眠りをしていたみたいね」
ヴィクトリアは大きな手の下からロイエのお陰で温まった自分の小さな手を引き抜くと、今度は両腕でロイエへ抱きついた。
途端に、そのヒヤリとした体温がロイエへと伝わり、凍えていた手とかわらぬその冷たさにロイエは驚き目を見開く。
「ヴィクトリア!! 何でこんなに身体が冷「ねえ、陛下」」
ヴィクトリアの凛とした声が部屋に響き、ロイエは固まった。
そして。
「…私は――――もうあの頃みたいに一人寂しく眠らなくていいのよね? 風邪をひかないように貴方がしっかりと私を温めてくれるのよね?」
氷のような体温とは真逆の熱のこもった目で抱きついたまま見上げられて、ロイエは思わず息を飲む。怪しく煌めく紫水晶の瞳から目が離せない。
と、同時に刺すような冷たい外気に晒されて。
一人きりで冷え切ったヴィクトリアのその体が、ロイエが犯した罪の象徴のように思われて――ロイエは必死に冷たい身体を抱きしめ自身の熱で妻を温める。
「…も、もちろんだ! 愛しているよ、ヴィー…私だけのヴィクトリア。昔も、そして今も。私が愛しているのは君だけだ――」
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