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55 終わりと始まり
しおりを挟む「な…っ! い、いつだ…! そ、そうか――だから、双子が生まれたあと……あんなにも、私を拒絶――して。……ハハ…ハ…………やはり……な!! ヴィク…トリア……も、番――のことし、か……ゲホッ、考えられなく……ゴホッ…だ、だか…ら」
『嫌だわ、妻に隠れて平気で他の女性と肌を重ねた貴方達と一緒にしないでくださる? そもそも婚姻して女神様に愛を誓った時点で、よほどの身体的接触がない限り番の判別などできないはずなのよ。なのに、どうして陛下はそれが出来たのでしょうね? いやらしい。ちなみに私が自分の番に出会ったのは陛下に子供達を奪われたあの火事のときよ。意識を失い心臓が止まっていた私に人工呼吸をして、死にかけた私を女神様の元から呼び戻してくれた人が私の番だったの。その時の唇の接触で判明したのよ。……そして意識を取り戻したときに事情を聞かされ、求婚もされたけどその場で断ったわ』
「な……っ!? う……うそだ……!! つ、番を相手に本能に抗えるはず…がな――」
『出来るわよ。欲求に抗う為に、私は自分で自分の竜鱗を焼いたもの。私だけじゃないわ。私の決心が堅いことを知って、私の番も同じ行動をとってくれた』
「……何故…そんな――」
『あの火事の後、このままでは帝国がもたないと判断をされたの。そして陛下の番は粛清されその亡骸を原料として魅了薬が作られたわ。全て私が意識を失っている間のことよ。陛下の悪夢はその時の記憶。私と子供を殺すために貴方自身がやった離宮への放火と混同しているようだけど、陛下が命懸けで助けようとしたのはあの女で私じゃないわ。竜人は一度番えば番以外とは子を望めないし、手にした番を喪えば先は長くない。次代を殺されたせいで帝国には陛下しか継承権を持つ者がいなくなったから、帝国の為にはどうしても陛下の血をひく跡継ぎが必要だったの。その為に番と誤認させる魅了薬が使われることが決まって――私は自分から立候補したわ。愛する子供達を取り戻すためにはどうしてもそれが必要だったから』
早世しても同じ両親の元に産まれてくる竜人の子供たち――。
帝国の未来を担う皇帝の血筋を絶やさぬため――。
母として、皇后として。番を求める本能に抗い自ら竜鱗を焼いたヴィクトリア。
そしてそんな番の幸せを願い同じ行動を取ったヴィクトリアの番。
覚悟の違いをまざまざと見せつけられて。
番と出会えば誰だってこうなる――そんな言い訳を封じられ、己の罪と向き合うしかなくなった皇帝ロイエ。
灼熱の業火の中で。
ロイエに残ったのはかつて愛した妻への羨望と、自分と自分の番への嫌悪感。
それと――成人した竜人が持つ無駄に強い身体。
特に皇帝であるロイエが持つ桁違いに丈夫なそれは炎に焼かれる度に再生を繰り返し、身体ほど強くないロイエの精神を苛み続ける。
『後のことはご心配なく。陛下は愛する番のことだけ考えていればいいわ。哀しい過去はこれでようやく終わるのよ。帝国の新しい歴史はこの場所から始まるわ』
哀しい過去は終わらせて、あの場所からもう一度全てを始めましょう――――。
ヴィクトリアが口にしたあの言葉の本当の意味に、ロイエはようやく気が付いた。
何故こうなってしまったのだろう。
どこで間違えてしまったのだろう。
癒しを求めて言われるままに番のことを思い出しても、もはや完全に消滅したソレはロイエに何の癒しも与えてはくれないし、楽しかったはずの番との思い出は恥ずかしさと嫌悪感で息苦しさを増すばかり。
かといってキラキラしたヴィクトリアとの美しい思い出からは喪ったモノの大きさにロイエの精神を苛む後悔しか産まれない。
全てを焼き尽くす灼熱の炎からロイエの罪と後悔とその魂が解放されたのは――皇帝の為に作られた棺が燃え始めてから三日三晩が過ぎてのことだった。
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