【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
56 / 88

56 回収作業(ヴィクトリア視点)

しおりを挟む

 過去を消し去り間違いを正すための炎は三日三晩続いた。

 やがて火の消えた棺から出てきたのは番への純粋な想いを感じさせる真っ白な骨。皇帝が持つ膨大な魔力のお陰でキレイに焼け残ったソレからは混じりけのない良質な魅了薬が作られるだろう。

 それは城で厳重に保管されこれからの帝国を支えるのに使われることになる。


 ――この帝国が再び今回のような事態に見舞われた際の保険として。




「……ここからずっと見ておられたのですね」


 皇帝の為に用意された棺は離宮から良く見える位置にある。特に一度も使われることのなかった夫婦の部屋からはその全貌が見渡せる。一番の特等席であるその場所からヴィクトリアはたった一人で作業を見守っていた。

 炎が上がってから消えるまで。
 表情を変えることなく、その一部始終を記憶と目に鮮明に焼き付けるように。

 そんなヴィクトリアの背後から気遣うような声がかけられた。あえて振り返らずとも胸の疼きで誰かは判る。

 顔は正面に向けたまま。
 粛々と行われる作業を見守ったままで、ヴィクトリアは声の主に語り掛けた。


「どうしても最期まで見届けたかったの。個人的な恨みよ。なんて残酷な女だと軽蔑するかしら?」

「……いいえ。皇后様はそれほどのことをあの方からされたのです」

「――ごめんなさい。私の復讐に貴方まで巻き込んで」


 必要な部分は薬を作るための部署へ。
 残った不要な部分は代々の皇帝が眠る墓地へ。

 それぞれ回収作業が終わり、ようやく満足して後ろを振り返れば痛まし気にヴィクトリアを見守る男がいた。胸にヴィクトリアと同じ傷痕をもつ騎士団長だ。夫の側近であり――子の存在を忘れ心無い発言を繰り返すロイエに対し、苦言を呈して他の側近から殴られた人物でもある。

 全てはヴィクトリアの心を守るため。あれでどれだけヴィクトリアが救われたか。

 ヴィクトリアが奪われた子供を女神様の元から取り戻し、帝国の歪みを正す作業を最後までやり遂げることが出来たのは、彼の支えがあったからに他ならない。

 ヴィクトリアの番が騎士団長であると判明した以上、彼の協力なしには不可能なことだったのだから。


 お互いに竜鱗を喪った以上、相手から番の気配を感じることはない。それなのに火傷の痕がチクリと痛むのは不思議な現象に思われた。傷痕は残っているものの、火傷の痛み自体は随分と前に治まっている筈なのに。


「いいえ。帝国の安定には必要な事でした。そして貴女の幸せのためにも」

「……そうね。大切な子供を喪ったと知ってからはどんな種類の喜びにも心を動かされることはなかったわ。本来なら、竜人として最大の祝福である筈の竜鱗の反応すら虚しさ哀しさを増幅させるだけだった。あの子達が居ないのに……って。あのままでは母親としても皇后としても、何の責任も果たせなかった。だから、あの時の選択に後悔はない」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

処理中です...