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56 回収作業(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む過去を消し去り間違いを正すための炎は三日三晩続いた。
やがて火の消えた棺から出てきたのは番への純粋な想いを感じさせる真っ白な骨。皇帝が持つ膨大な魔力のお陰でキレイに焼け残ったソレからは混じりけのない良質な魅了薬が作られるだろう。
それは城で厳重に保管されこれからの帝国を支えるのに使われることになる。
――この帝国が再び今回のような事態に見舞われた際の保険として。
「……ここからずっと見ておられたのですね」
皇帝の為に用意された棺は離宮から良く見える位置にある。特に一度も使われることのなかった夫婦の部屋からはその全貌が見渡せる。一番の特等席であるその場所からヴィクトリアはたった一人で作業を見守っていた。
炎が上がってから消えるまで。
表情を変えることなく、その一部始終を記憶と目に鮮明に焼き付けるように。
そんなヴィクトリアの背後から気遣うような声がかけられた。あえて振り返らずとも胸の疼きで誰かは判る。
顔は正面に向けたまま。
粛々と行われる作業を見守ったままで、ヴィクトリアは声の主に語り掛けた。
「どうしても最期まで見届けたかったの。個人的な恨みよ。なんて残酷な女だと軽蔑するかしら?」
「……いいえ。皇后様はそれほどのことをあの方からされたのです」
「――ごめんなさい。私の復讐に貴方まで巻き込んで」
必要な部分は薬を作るための部署へ。
残った不要な部分は代々の皇帝が眠る墓地へ。
それぞれ回収作業が終わり、ようやく満足して後ろを振り返れば痛まし気にヴィクトリアを見守る男がいた。胸にヴィクトリアと同じ傷痕をもつ騎士団長だ。夫の側近であり――子の存在を忘れ心無い発言を繰り返すロイエに対し、苦言を呈して他の側近から殴られた人物でもある。
全てはヴィクトリアの心を守るため。あれでどれだけヴィクトリアが救われたか。
ヴィクトリアが奪われた子供を女神様の元から取り戻し、帝国の歪みを正す作業を最後までやり遂げることが出来たのは、彼の支えがあったからに他ならない。
ヴィクトリアの番が騎士団長であると判明した以上、彼の協力なしには不可能なことだったのだから。
お互いに竜鱗を喪った以上、相手から番の気配を感じることはない。それなのに火傷の痕がチクリと痛むのは不思議な現象に思われた。傷痕は残っているものの、火傷の痛み自体は随分と前に治まっている筈なのに。
「いいえ。帝国の安定には必要な事でした。そして貴女の幸せのためにも」
「……そうね。大切な子供を喪ったと知ってからはどんな種類の喜びにも心を動かされることはなかったわ。本来なら、竜人として最大の祝福である筈の竜鱗の反応すら虚しさ哀しさを増幅させるだけだった。あの子達が居ないのに……って。あのままでは母親としても皇后としても、何の責任も果たせなかった。だから、あの時の選択に後悔はない」
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