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番外編
3 堕ちたロイエ
しおりを挟む半獣人の女から押し付けられる言葉と胸の感触から逃れるためにその場から立ち去ろうとしたロイエだが、そんなロイエに構わず女はグイグイとロイエに身体を押し付けてくる。誘っているのだ。
こんな下品な女がロイエの番を騙るだなんて、
ロイエの番はヴィクトリアだ。上品で、清楚で、非の打ち所のない、帝国の頂点に立つにふさわしい女性。
目の前の、自らの肉体を使って男を誘う低俗で下品な女とは対極にいる至高の存在だ。比べることすらおこがましい。
たとえ今はまだ確認できずとも、ヴィクトリアの美しい肌にある竜鱗が育ち切ればいずれ――。
――そんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。
ロイエの竜鱗が僅かに熱を持ち、ロイエは動揺した。尚も身を寄せてくる女から、クラクラするような甘い香りがしてロイエは動けなかった。
「嫌よ! だって、貴方はわたしの番だもの。……ねぇ、ちょっと位いいじゃない。少ぉし試すだけよ。後悔はさせないからぁ……。ね♡ お願ぁい♡♡ ……だって、これはきっと運命よ? チャンスを逃していいの? 運命の番とのソ・レはとぉ~ってもすごいらしいわよ? 貴方だって少しくらいは興味あるでしょう? 大丈夫よ、もしも違ったら途中で止めればいいんだからぁ。ね? ね?」
耳元で。吐息が感じられるほどの距離でそんな風に誘われて。僅かに心が揺れた自分に驚いた。
ロイエはヴィクトリアが初めてではない。
閨教育も普通に受けたし、少々夢中になって娼館に通ったこともある。婚姻前の若さゆえの過ちだが、絶対に外には話が漏れない高級娼館だからヴィクトリアにはバレていない。
適当に付き合ってやって、番ではないと証明すれば女も満足するのではないか。ヴィクトリアの妊娠が判ってからは大事をとってそういった行為はしていない。
ああ、そうか。だからこんなところで反応をしてしまったのか。
ココにヴィクトリアはいない。
自分で誘ってきた娼婦をほんの少し利用するだけ。
相手の誤解を解くだけ。
そうすればお互いが満足をする。
しかし――。
僅かばかりの浮気心と共に、妙な動悸と胸騒ぎがしてこの場から逃げ出したい気持ちもロイエには残っていた。
けれど甘ったるい声でロイエに絡みついてくる柔らかな女から。
若くして両親に先立たれたこと。
身体の弱い幼い兄弟の治療費を稼ぐためにこんなことをしていること。
――そんな、事情を聞くうちに流された。
ヴィクトリアが運営に力を入れている『捨てられ妻』の保護施設で。ヴィクトリアが番に捨てられた竜人娼婦に寄り添い、優しく話を聞いている姿を思い出したから。
愛するヴィクトリアのすぐ隣で。
刺繍を教え、心を支え、娼婦に身を堕とした捨てられ妻達のために奔走するヴィクトリアの姿を見てきたから。
だから――これは人助けだ。
ロイエは自らの時間と金を使い目の前の彼女を助けるだけ。彼女が遠慮しないよう、ほんの少し付き合ってやって最後まではしなければいい。身をもって怖さを教えるだけ。
自分は何も悪くない。ヴィクトリアがしていることと変わらない。
そう、自分に言い訳をしてロイエは堕ちた。
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