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17 すれ違い
しおりを挟むデュナミスが伯爵夫人に手渡したのは小さな花束だった。
花屋で売っているような豪華な花ではない。グロー伯爵領のどこにでも咲いていて、農民が気にも留めないような素朴な花だ。
平時は雑草のような扱いだし、不作が続くと花が咲く前に食されてしまうから。
「……貴方が種を送ってくださったのですね。ふふ、とても美味しかったですわ」
渡された花束を見て伯爵夫人がふわりと笑う。
よかった、どうやらこの花を目にしたことがあったらしい。
彼女に花を愛でる余裕ができたことが分かって、デュナミスはホッとする。
本来、貴族が口にするようなものではないが、育てやすく栄養価が高いために領地では重宝されている。おかげでたとえ不作が続いても、伯爵領では餓死者は出なかった。
デュナミスも父と共に領地を回った際に何度も食べた。いつか自分が背負うことになる領民たちの暮らしを、身をもって体験したかったからだ。
王女との一件でその夢は叶わなかったけれど、こうして彼女の命を繋ぐことができたのだからあの経験は無駄ではなかった。元婚約者に裏切られてこの国にやって来たことにだって、きっと意味がある。
彼女を今の苦しい生活から解放できるのだから――
「パルフォア・アルテサーノ伯爵夫人」
「は、はい」
「この国にとって運命の番がどのような存在かは理解しています。けれど、命を脅かされるような今の環境は健全ではない。だから……」
「ま、待ってくれ!!」
私と結婚してほしい。そうすれば今の生活から抜け出すことができる――膝をつき、デュナミスがそう言おうとした時に、二人の間に伯爵が割り込んできた。どうやら我に返ったらしい。
伯爵はデュナミスが贈った花束を妻の手から奪い取って、彼女に懇願する。
「確かに――俺は番への感情を制御できずに間違いを犯した。で、でも、どうか見捨てないでくれ」
伯爵の言葉を聞いて、伯爵夫人が困惑したような表情を見せる。これまでずっと酷い扱いを受けてきたのだから、彼女のこの反応も当然だろう。
これからは態度を改めるだなんだと必死の懇願が続くが、全ては今更だ。運命の番への思いを暴走させて、妻を蔑ろにしてきた伯爵に彼女を愛する資格はない。
「伯爵夫人! 耳障りのいい言葉に惑わされてはいけません。私が貴女を解放し「デュナミス殿、やめてくれ! 頼む――頼むから!」」
デュナミスの言葉を遮り、妻を背中に隠すようにしてこちらを向くアルテサーノ伯爵。
そして――
「私から愛する妻を――『運命の番』を奪わないでくれ!!」
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