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第三章 最終決戦
粘土遊びと君の心
しおりを挟む千草といういつぞやの漆黒の牙に額を触られた後、気がついたら謎の空間にいた。眼の前には誰かが立っている。
訝しむように見つめながら、声をかけようとして気づく。声が出せないことに。
『無駄だ、これは映像。お前の声は届かない』
『千草! 映像……お主が引き継いだ記憶とやらか?』
『そのとおりだ』
なるほど。それでは見るしかないか、と短く息を吐く。眼の前で繰り広げられる、寸劇のような事実を。
「ちょっと漆黒の牙! あんたまた食ったでしょ!」
「食ったが? 何が悪い」
「この悪食! 食うしか強くなる方法ない訳? 弱すぎ」
まるでヴィオラのような口調の青年は、碧い目をしている。まさか。
『紺碧の弦。五珠の一人だ』
『やはりか……』
頷くわしを見て、千草が隣で少しだけ驚いていた。
『知っているのか』
『うむ、まあの。だが……』
悪食と聞けば、思い浮かぶのはカヌレだ。紛うことなき、わしにトラウマを植え付けた張本人。センナを食らう姿と、食われる側の最期はもう見たくない。
眼の前で罵り合いを続ける五珠の二人は、気がつけば取っ組み合いの喧嘩をし始めた。いや、喧嘩というより最早殺し合いだ。しばらく互いに攻撃仕合っていたが、気が済んだのか紺碧の弦が漆黒の牙の上から退いた。
「あー飽きてきたわ」
「飽きた……?」
「そ。ねえ、新しい子たち作りましょうよ。勝負ね、どっちが強い子作れるか」
そして二人は口角を釣り上げると、どこからか連れてきた丸腰の人間たちのセンナをもぎ取り、まるで子どもの粘土遊びのように何度ももみくちゃにして繰り返した。
絶句するわしの横で顔を背ける千草の顔色は、雲よりも真っ白だった。
『これが五珠……』
そして彼らはしばらく遊んだあと、人形を二つ見せ合った。まだ土人形のようで、意識などなさそうに見える。
「さ、戦って頂戴。プラティちゃん」
「なんだ、もう名前を付けたのか。ならば……こっちはポーだな」
『プラティ……あれが師走!? ポーって……まさか黄金の果か!?』
ヴィオラから聞いた話からは想像できないほど、酷く吐き気がする話だ。彼らは土人形のような二つの塊に戦わせ、次々に能力を埋め込んでいく。
「ちょっと、それ反則よ」
「俺の力を与えているだけだ。反則ではない」
ポーと呼ばれた土人形が、プラティと呼ばれた土人形を食べようとしている。やがて噛みつかれたプラティは倒れ、同じく力尽きたポーも折り重なるように倒れた。
「もう少し改良せねばなるまいな」
「そうね。どうせならもっと強くするわ」
そして二人は、またどこかへ去っていき、人間を連れてきた。その後は想像に難くない。また粘土で遊ぶように何度も何度も、センナを奪い、捏ねくり回しながら作り上げていく。
『五珠とは、人間のセンナをいくつも持ち合わせた者なのか……?』
そして出来上がった土人形は、やがてひび割れ中から人の形をした者が出てきた。先程とは違い、見目麗しい人形が。
「完成! あら、あたし好みに出来上がったわ」
「ふん、優男だな」
「あら。いい男に大事なのは中身よ?」
既に人形には意識があるようで、何やら漆黒の牙と紺碧の弦のことを睨んでいる。
「ふん、俺の方は黄金色の髪だ。黄金の果としよう」
「あら、あんただって名前つけてるじゃない! あたしは白金の灯って最初から決めてたのよ?」
「知らん。どうでもいい」
また口論を始める彼らを横目に、白金の灯は黄金の果に手を伸ばす。黄金の果も気がついたように手を伸ばし、二人は手を握った。
「あら、仲良くなって良かったわ」
「これから殺し合うだけだろう」
「どっちが強いかしら」
手を握ったままの二人を、大層楽しそうに眺める姿が、まるで人の争いを雲の上で楽しむ神のように見えて虫酸が走る。
命を、なんだと思っているのだろう。
「いい? あんたたち、殺し合うのは結構。でも、あたしたちも混ぜてもらうわよ。こいつの相手ばっかりで退屈だったの」
「言うほどお前は強くないだろ」
「あ? なんですって?」
喧嘩ばかりしていて話が進まない二人に呆れていると、白金の灯がおもむろに口を開いた。
「……我は死ねるのか?」
思わず目を見開く。喧嘩ばかりの二人は特段驚くこともなく、白金の灯に向き直るとさもありなんとばかりに答えた。
「死ねるわ。だけど輪廻するわ」
「輪廻……」
「そ。だから生きるしかないのよ。自分の思ったとおりに生きて殺し合って死んで、それでも生き返るの」
「ならば、本当に死ぬ方法を見つけてみせよう」
そして、四人の戦闘が始まった。スピードも速すぎて、何も見えないと言ったほうがあっている。
だが、ひとつわかったこと。
「白金の灯は、もしや……」
死ぬ方法を探しているのだろうか。一瞬ですべてを理解し、生き返ることもさせない、本当にセンナを朽ちさせ終わらせる方法を見つけてみせると。だからこそ、朱色の雫である朱己を育てたかったのかもしれん。終わらせられるのは、望みを叶えられるのは朱己だけだ。
今の段階では朱色の雫は生まれていない。ということは、まさか。
わしは、焦る気持ちをただ抑えるべく、深呼吸していた。
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